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道をならす者

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『今後、すべてを知ったあなたがエチルデにどう向き合うかは、あなた次第となります。私はずっと以前から陛下に〝もしエチルデ王家の生き残りである王太子、王女が現れた時には、彼らに協力してください〟と何度もお願いしていました。陛下は〝まだ実際に現れていないから何とも言いようがない〟とは仰っていましたが、非協力的な雰囲気ではなかったので、きっと良い方向に事態が向かうのではと思います。』

 そしてこれからのエチルデとクローディアに向け、〝次〟の場所まで道をならしてくれていた。

『さようなら、クローディア。あなたはとても素敵な妻でした。そして殿下、あなたがこれから歩む道に、輝かんばかりの祝福が溢れていますように。私は少し疲れてしまいましたので、先に休ませていただきます。』

 手紙はそう締められていた。

 放心していると、向かいでもディストが溜め息をつき紙面から顔を上げる。

 手紙を読んでいる途中からソルの嗚咽が聞こえていたが、彼女は途中から泣いて読み進められていないようだ。

 小箱の中に入っている、イグナットの亡き家族に宛てた手紙を見たクローディアは、ディストとルシオも同じように注目しているのに気付いた。

「どういう形であれ、クローディアは妻なのですから、最後の想いを知っても問題ないと僕は思います」

 ルシオに言われ、ディストも「私もそう思う」と同意された。

「では……」

 クローディアは一つ息をつき、『家族へ』と書かれてある封筒に手を伸ばした。

 イグナットの秘められた想いを覗き見るようでいささか申し訳ないが、〝夫〟の最期を見届ける気持ちで便箋を開く。

 そこには自分が不甲斐ないばかりに死なせてしまった最愛の妻と息子への愛情と、申し訳ないという想いが綴られてあった。

 そして一人生き延びた自分が、ソルとの生活で安らぎを得てしまった事への罪悪感、そしてエチルデ王女を保護する目的とはいえ、妻を娶ってしまった事の謝罪が書かれてあった。

(どこまでもまじめな方ね)

 あまりに不器用なイグナットに、クローディアは思わず笑みを零す。

(あんなにお優しいイグナット様なら、きっと奥様もとても良い方だったに違いないわ。奥様を亡くされてからずっと独り身を貫き通し、孤独の中生きてきたのに、それを責める人ではないと私は確信している。いいえ、どんな形であっても、これ以上イグナット様を否定し、責める存在がいるのなら、妻として私が立ち向かうわ)

 イグナットはクローディアを妻としておきながら、まったく異性として見ていなかっただろう。

 それは彼女自身も分かっているので、特に何とも思っていない。

 しかしソルについては、自分がバフェット城に来る前からの付き合いなので、二人の間になんらかの感情があってもおかしくないと思っている。

 ソルはクローディアの前では女家令として冷静に、責任のある役割を持つ者として振る舞っていたが、イグナットの寝室で彼と語らっていた時は、熟年夫婦のような雰囲気を醸し出していた。

 それを咎める気持ちはまったくない。

 ソルはイグナットに恩を感じ慕っていただろうし、イグナットもどんな事情があっても自分の側にいて支え続けると言ったソルを特別視していても不思議ではない。

(誰だって配偶者と死別したら、ある程度喪に服したあとは、自分自身のために、家のために、次の配偶者を求めてもおかしくない。イグナット様は私を保護するために妻にしたけれど、もし私の存在さえなければソルを妻にしていたのではないかしら)

 そう思うのが自然なぐらいなのに、まじめなイグナットは亡き妻と息子に対し申し訳なさを感じていたのだ。

 手紙を読み終わり、クローディアはそっとソルを見た。

 彼女は先ほどよりは落ち着きを取り戻し、赤くなった目で目の前の空間をぼんやりと見ている。

「殿下宛ての手紙には、何が書かれてありましたか?」

 クローディアに問われ、ディストは苦笑いする。

「無理を言って申し訳なかったという謝罪がほとんどだ。あとは、エチルデ王女を頼むという内容で、君がエチルデ再興に向けて動き始めた時はどうか協力してほしいと、とても低姿勢に書いてあった」

「そうですか……」

「あとは、王太子を見つけるための協力も仰がれた。国でやるには父上の許可が必要だが、私個人としてはぜひ協力したいと思っている。ここまできたのなら、エチルデも君の事も他人事とは思えないし」

「ありがとうございます」

 礼を言ったクローディアに、気持ちを整えたらしいソルが口を開いた。

「私宛ての手紙には、個人的な礼や詫びがほとんどでした。そしてクローディア殿下に関しては、旦那様がエチルデ国王夫妻についてお話できなかった分、侍女だった私が殿下にご両親の事を話すよう言付かっています」

「ありがとう。そのうち落ち着いたら、ゆっくり両親の話を聞きたいわ」

 クローディアが気丈に振る舞っているからか、ソルもいつもの落ち着きを取り戻し「はい」としっかり頷く。
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