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手紙
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「はい。王妃……母の侍女であったソルに話を聞く必要もありますし、このペンダントが旧エチルデ領で何かを示してくれるかもしれません」
真実を知ったクローディアは、痛みを乗り越えた上で、さらなる真実を追究しようとしていた。
決意を瞳に宿したクローディアを見て、マグレーはひとつ頷く。
「生前のバフェット辺境伯と、手紙のやりとりをしていた。それを渡すから、今夜この城に泊まる間に読むといいだろう」
「分かりました」
一旦この場での会話は終わりなのだろうと思い、クローディアは素直に頷く。
幾ら〝家族〟と過ごす時間とはいえ、城主であるマグレーにはやる事が沢山ある。
母、弟妹とて同じだ。
「殿下、エイリット卿、今宵はミケーラ城にお泊まりください。精一杯もてなしをさせて頂きます」
「分かった。こちらも突然押しかけてしまった自覚はあるから、あまり気にしなくていい」
「お手間をかけます」
ディストとルシオも立ち上がり、家令が開けたドアの方へ向かう。
クローディアも立ち上がり、今一度両親を見て改めて頭をさげた。
「事情はどうであれ、私をこの日まで娘として愛情深く育ててくださった事に、深い感謝を申し上げます。血の繋がりがどうであっても、お父様とお母様が、私の〝両親〟であるのは変わりません」
〝娘〟の言葉に、ルーフェン子爵夫妻は嬉しそうに笑った。
**
その後、クローディアは嫁ぐまで使っていた自分の部屋に、ディストとルシオは客間に案内された。
夕食の準備ができるまでの間、自由時間となったが、その前にクローディアの元にイグナットからの手紙が運ばれる。
ディストとルシオもクローディアの部屋に来て、侍女が淹れたお茶を飲みつつ、その様子を見守った。
組み木で模様が描かれた箱には、イグナットの字で書かれた手紙が入っている。
紐で束ねられたそれは、大量というほどではないが、少なくもない。
束は三つあり、クローディアはどれから読み始めたものかと悩んでから、一番古そうな物を手に取った。
一番上にある封筒の中から便箋を取りだし、畳まれた手紙を開く。
ふぅ……と小さく深呼吸をし、クローディアは手紙を開いた。
『親愛なるマグレー。その後、クローディア殿下の様子はどうだろうか? 殿下に万が一の事があってはいけないと思い、君に託してしまいすまない。戦争で武勲を立てたとして、国王からは莫大な報奨金を得た。殿下の養育費の意味もあるから、先日送った金品などはそのまま受け取ってほしい。』
文面から、父がイグナットに「恩がある」と言っていたのは、金銭的な意味もあったのだと理解した。
確かに港町ボスコから王都への中継地であるこの都市は、人が多く流通するのに比例して治安維持のために金がかかる。
荒野のただなかにある地理的要素も加わり、自然被害も少なくない。
嵐が近付いている時は隊商が無事にミケーラに辿り着くよう、ミケーラから護衛隊を出す場合もある。
それらの他にも、都市内にある水路の定期的な整備や、要塞としての役割も持つ城壁や、城の維持費……。
ミケーラを預かる身として、父は財政係と額を突き合わせて、切り詰めながらこの都市を守ってきた。
そこに、旧友からの頼みであれば何でも無条件で、という美しい話があっていい訳ではない。
勿論、父としてはイグナットの「一生の頼み」なら何でも聞きたいと思っただろう。
だが一人の子供を育てるには金がかかり、しかも子爵家の娘として育てるにはドレス代に教育費などもかかる。
そのため、潤沢に資金があるイグナットが幾ばくか差し出したとしても、何らおかしくない。
手紙にはどうかクローディアを大切に育ててほしいという旨が書かれ、終わっていた。
クローディアは自分が読んだ手紙をディストに渡し、自分は次の手紙を読む。
そのあとしばらくは、父とイグナットとの間で、成長していくクローディアの様子が愛情たっぷりに書かれてあった。
二人が心の底からクローディアを愛してくれていたのを知り、彼女は手紙を何通も読みながら涙ぐむ。
クローディアの年齢が十代半ばになるまで、手紙は基本的に彼女の成長を中心に書かれてあった。
だがその間にも、イグナットの苦悩は続いていた。
真実を知ったクローディアは、痛みを乗り越えた上で、さらなる真実を追究しようとしていた。
決意を瞳に宿したクローディアを見て、マグレーはひとつ頷く。
「生前のバフェット辺境伯と、手紙のやりとりをしていた。それを渡すから、今夜この城に泊まる間に読むといいだろう」
「分かりました」
一旦この場での会話は終わりなのだろうと思い、クローディアは素直に頷く。
幾ら〝家族〟と過ごす時間とはいえ、城主であるマグレーにはやる事が沢山ある。
母、弟妹とて同じだ。
「殿下、エイリット卿、今宵はミケーラ城にお泊まりください。精一杯もてなしをさせて頂きます」
「分かった。こちらも突然押しかけてしまった自覚はあるから、あまり気にしなくていい」
「お手間をかけます」
ディストとルシオも立ち上がり、家令が開けたドアの方へ向かう。
クローディアも立ち上がり、今一度両親を見て改めて頭をさげた。
「事情はどうであれ、私をこの日まで娘として愛情深く育ててくださった事に、深い感謝を申し上げます。血の繋がりがどうであっても、お父様とお母様が、私の〝両親〟であるのは変わりません」
〝娘〟の言葉に、ルーフェン子爵夫妻は嬉しそうに笑った。
**
その後、クローディアは嫁ぐまで使っていた自分の部屋に、ディストとルシオは客間に案内された。
夕食の準備ができるまでの間、自由時間となったが、その前にクローディアの元にイグナットからの手紙が運ばれる。
ディストとルシオもクローディアの部屋に来て、侍女が淹れたお茶を飲みつつ、その様子を見守った。
組み木で模様が描かれた箱には、イグナットの字で書かれた手紙が入っている。
紐で束ねられたそれは、大量というほどではないが、少なくもない。
束は三つあり、クローディアはどれから読み始めたものかと悩んでから、一番古そうな物を手に取った。
一番上にある封筒の中から便箋を取りだし、畳まれた手紙を開く。
ふぅ……と小さく深呼吸をし、クローディアは手紙を開いた。
『親愛なるマグレー。その後、クローディア殿下の様子はどうだろうか? 殿下に万が一の事があってはいけないと思い、君に託してしまいすまない。戦争で武勲を立てたとして、国王からは莫大な報奨金を得た。殿下の養育費の意味もあるから、先日送った金品などはそのまま受け取ってほしい。』
文面から、父がイグナットに「恩がある」と言っていたのは、金銭的な意味もあったのだと理解した。
確かに港町ボスコから王都への中継地であるこの都市は、人が多く流通するのに比例して治安維持のために金がかかる。
荒野のただなかにある地理的要素も加わり、自然被害も少なくない。
嵐が近付いている時は隊商が無事にミケーラに辿り着くよう、ミケーラから護衛隊を出す場合もある。
それらの他にも、都市内にある水路の定期的な整備や、要塞としての役割も持つ城壁や、城の維持費……。
ミケーラを預かる身として、父は財政係と額を突き合わせて、切り詰めながらこの都市を守ってきた。
そこに、旧友からの頼みであれば何でも無条件で、という美しい話があっていい訳ではない。
勿論、父としてはイグナットの「一生の頼み」なら何でも聞きたいと思っただろう。
だが一人の子供を育てるには金がかかり、しかも子爵家の娘として育てるにはドレス代に教育費などもかかる。
そのため、潤沢に資金があるイグナットが幾ばくか差し出したとしても、何らおかしくない。
手紙にはどうかクローディアを大切に育ててほしいという旨が書かれ、終わっていた。
クローディアは自分が読んだ手紙をディストに渡し、自分は次の手紙を読む。
そのあとしばらくは、父とイグナットとの間で、成長していくクローディアの様子が愛情たっぷりに書かれてあった。
二人が心の底からクローディアを愛してくれていたのを知り、彼女は手紙を何通も読みながら涙ぐむ。
クローディアの年齢が十代半ばになるまで、手紙は基本的に彼女の成長を中心に書かれてあった。
だがその間にも、イグナットの苦悩は続いていた。
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