未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜

文字の大きさ
上 下
30 / 58

私はもう、バフェット辺境伯夫人なのよ

しおりを挟む
「君の噂も耳にしていた。美丈夫で立ち回りも上手いと」

「ははっ、立ち回りが上手いというのは、のらりくらりと逃げ回っていると同義とも言えますが」

 ルシオは自分の噂が王太子に届いているのも気にせず、開き直った様子で笑う。

「君もクローディアを見て『面白い』と思ったクチだろう?」

「仰る通りです。なかなか引き出しが多く、話しがいのある女性です」

「まぁ、お二人とも私を珍獣のように仰るのですね」

 珍獣という言葉を聞き、二人は噴き出して横を向いた。

 肩を揺らし笑いを噛み殺している姿を見て、クローディアは笑いの沸点が似ていると思っていた。

 王太子と小旅行をとなったので、初めはどんなに緊張するものかと思っていたが、意外と楽しい旅路になりそうだ。





 王都からミケーラまでは一週間ほどかかり、その途中で寄った宿場町でも、クローディアは楽しく過ごす事ができた。

 泊まった宿は貴族専用の所で、寝具や調度品などは高級な物を用いている。

 クローディアは勿論一部屋を使わせてもらっていたが、一人で食事というのは味気ないので、一階にある食堂でディスト、ルシオと共にとった。

 他の貴族たちもいるかもしれなく、ディストとルシオの顔を知っている者がいればややこしくなるので、食事は衝立の中でとらせてもらった。

 目的が目的でなければ、土産物なども買って楽しい旅路になっただろう。

 だがクローディアにはまじめに考えなければいけない事があり、イグナットの死や喪われたかもしれないソルの命もかかっている。

 表向き笑顔で過ごしつつも、ミケーラに近付くにつれ、真剣な顔をする時間が多くなっていった。



**



 思い詰めて緊張しているというのに、荒野の向こうにミケーラ城のシルエットを見つけた時は、懐かしさに思わず笑顔が漏れた。

 荒野のただなかにあるミケーラへは、城の姿が遠く見えてから二日で着いた。

 都市をグルリと囲んでいる城壁をくぐる時は、勿論門番を通さなければいけない。
 王太子がいる一行なので、お忍びとはいえ身分を明かす物を見せれば疑われず通れるだろう。

 だがクローディアは故郷に戻る事ができたのが嬉しく、思わず馬車から降りて門番に向かって走った。

「久しぶりね!」

 今や夜会の時の化粧もしていないクローディアは、二年前までこの都市にいたのとほぼ同じ姿だ。

「姫様!」

 門番は目を丸くし、思わず笑顔になって昔のようにクローディアの腰を掴むと高い高いをした。

「きゃあっ! やめてちょうだい! 皆見てるわ!」

「ははっ! すまんすまん」

 未亡人になった身なのに、大の男に子供のように抱えられていては堪らない。

「私はもう、バフェット辺境伯夫人なのよ」

 ツンと顎をそびやかして言うと、門番は「夫人でも姫様は姫様だよ」と豪快に笑った。

「それはそうと、今回は知らせもなく帰ってごめんなさい。同行しているのは王太子殿下と、エイリット子爵ルシオ様なの」

「何だって?」

 大物の名前が出て来て、門番は目を丸くする。

「姫様も随分出世したもんだな。護衛たちの人数などもきちんと確認した上で通すから、もう少し待ってな」

「分かったわ。お仕事宜しくね」

 馴染みの顔と会話ができて満足したクローディアは、自分が乗っていた馬車に戻った。

 その後、本物の王太子である事などはクローディアのお墨付きなので、積み荷や人数などの点検が終わったあと、一行は都市の中に入る事ができた。



**



 まっすぐミケーラ城まで行くと、門番から先に連絡がいっていたのか、城門前に騎士たちや城の使用人、そして父マグレーに母アガット、弟妹が迎えに出ていた。

「お姉様!」

 妹が喜色満面にクローディアに駆け寄り、抱きついてくる。

 弟は十代後半なので人前で妹のように喜びを表す事はしないが、笑顔でクローディアと妹を見守っていた。

 両親や使用人、騎士たちはディストとルシオの姿を見て、丁寧にお辞儀をして敬意を表していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

妹と人生を入れ替えました〜皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです〜

鈴宮(すずみや)
恋愛
「俺の妃になって欲しいんだ」  従兄弟として育ってきた憂炎(ゆうえん)からそんなことを打診された名家の令嬢である凛風(りんふぁ)。  実は憂炎は、嫉妬深い皇后の手から逃れるため、後宮から密かに連れ出された現皇帝の実子だった。  自由を愛する凛風にとって、堅苦しい後宮暮らしは到底受け入れられるものではない。けれど憂炎は「妃は凛風に」と頑なで、考えを曲げる様子はなかった。  そんな中、凛風は双子の妹である華凛と入れ替わることを思い付く。華凛はこの提案を快諾し、『凛風』として入内をすることに。  しかし、それから数日後、今度は『華凛(凛風)』に対して、憂炎の補佐として出仕するようお達しが。断りきれず、渋々出仕した華凛(凛風)。すると、憂炎は華凛(凛風)のことを溺愛し、籠妃のように扱い始める。  釈然としない想いを抱えつつ、自分の代わりに入内した華凛の元を訪れる凛風。そこで凛風は、憂炎が入内以降一度も、凛風(華凛)の元に一度も通っていないことを知る。 『だったら最初から『凛風』じゃなくて『華凛』を妃にすれば良かったのに』  憤る凛風に対し、華凛が「三日間だけ元の自分戻りたい」と訴える。妃の任を押し付けた負い目もあって、躊躇いつつも華凛の願いを聞き入れる凛風。しかし、そんな凛風のもとに憂炎が現れて――――。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

王子、私を好きになってはいけません

たおたお
恋愛
❤️第18回恋愛小説大賞 応募作❤️ エガートン領の領主権授与式に出席した第二王子のラルフ。今度の領主はお世辞にも領主の器ではない人物。しかし、その授与式に現れたもう一人の人物は、赤い鎧を身につけた『赤い死神』と呼ばれる騎士でした。その場にいた誰もが、鎧の中は男性だと思っていましたが、王の命により兜を取った中の人物は、鮮烈な存在感を放つ美しい女性、イヴリン。その力強い赤い瞳にラルフは一瞬で魅了されてしまいます。 伯爵となった主人公イヴリンに恋心を寄せるラルフ第二王子。しかし、イヴリンが領主となった領地で起こった事件を通して、彼女の常人ではない能力が次々に明らかとなり、ラルフは恐怖すら感じる様になるのでした。それと同時にどんどん彼女に惹かれていく自分にも気がつくラルフ。兄のジェイミーには『お前にはまだ早い』と言われつつも、葛藤しながらもイヴリンに関わっていきます。 年上の未亡人、普段は目を隠した髪型で地味な格好ながらミステリアスな女伯爵イヴリンと、そんな彼女に想いを寄せる年下第二王子ラルフ。二人の恋の行方は……

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...