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さあ、暴かせて頂きます

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「話があると聞いたが、噂の未亡人は王太子妃の座を狙っているか?」

「とんでもございませんわ。殿下には婚約者のエリーゼ様がいらっしゃるではありませんか」

 クローディアは軽やかに笑う。

 エリーゼとはハーティリア王国の侯爵家の娘で、文字通りディストと婚約を果たし、来年には挙式と言われている女性だ。

 彼女の父は宰相をしていて、聞く話では二人は幼馴染みの関係にあったとか。

(まず、手始めの一手というところかしら。王太子殿下も喰えない方だわ)

 心の中で思いつつ、クローディアは注がれたシャンパンに目をやる。

(イェールン伯爵も同席されている以上、飲み物や食べ物に何かが混ざっていると心配しなくていいでしょう。まず、宮殿の料理を楽しませてもらうわ)

「それでは、未亡人の未来に幸あらん事を」

 ディストが冗談めかして言い、シャンパングラスを掲げる。

 クローディアとイェールン伯爵もグラスを掲げ、金色の液体を喉に流し込んだ。

 それから順番にコース料理が運ばれた。

 ハーティリア王国は農牧が盛んであるため、乳製品やチーズなどが美味いと周辺国から評判がいい。

 それらを惜しげもなく使い、季節の野菜と合わせたポタージュ、近海で採れる大粒の貝にソースを掛けたもの、大きな海老を蒸し焼きにしたもの。
 魚料理は白身魚にチーズをかけて柔らかくオーブンで焼いてクリーム仕立てにし、口直しのシャーベットが出たあと、肉料理は鹿の肉のローストに赤ワインソースを掛けたものだ。

 それまで、料理が美味しいとか、宮殿の庭園の花が美しい、またはそれぞれの家庭や領地の話など、当たり障りのない会話が続いていた。

 だがデザートを食べてお茶が入ったあと、ディストが訪ねてくる。

「それで、聞きたい事とは?」

 クローディアは口内に含んでいた紅茶を嚥下し、静かにティーカップをソーサーに戻した。
 そして先手必勝とばかりに尋ねる。

「失礼ながら、殿下は毒を集めていらっしゃるのですって?」

 向こうからディストの従者が激しく咳き込むのが聞こえた。

 それを無視し、クローディアは微笑んだままディストの返事を待つ。

 彼は楽しげに笑んだまま、クローディアの真意を図るようにしばらく青い瞳で見つめてきた。

 やがて、彼が口を開く。

「王族だから、有事のために毒を保管する部屋はある。だがそれと、好事家として集めているのとでは、やや意味合いが異なる」

「その通りですわね。お気を悪くされたのなら謝罪致します。私、毒に興味がありますの」

 もしかしたら王太子の不興を買ったかもしれないが、クローディアは怯んだ様子を見せず無邪気に言う。

「ほう? なぜだ?」

 ディストが少しずつクローディアに興味を抱き、話題に踏み込もうとしているのが分かる。

 クローディアは慌てず騒がず、いつもの調子を保ったまま続けた。

「社交界は華やかでありながら、その裏で様々な駆け引きがされている場所です。邪魔者がいれば裏で手を組み消すなど、日常茶飯事でしょう。新聞にも日々興味深い事件が書かれています」

「確かに。貴族にゴシップは常に纏わり付いている。だが毒殺ともなれば、かなり大きな事件になるな。ここ最近、毒殺されたという話はあったか?」

 ディストがイェールン伯爵に尋ね、彼は「いいえ」と首を横に振る。

(イグナット様が自ら毒を飲まれたと、ご存じない?)

 クローディアは笑みを深め、次の罠を引っかけにいく。

「実は、ここだけの話にして頂きたいのですが、私の夫は毒で死にましたの」

 悲しげに言ったからか、ディストの空気があきらかに変わった。
 彼は何か知っていそうに沈黙したあと、小さく息をついて尋ねてくる。

「それは知らなかった。改めて哀悼の意を表す。……それで君は、私が殺したとでも言いたいのか?」

 探る視線を受け、クローディアは心の中でゆっくりと釣り糸を引く。

「そんな無礼な事、申し上げませんわ。私は、王家の保管庫から毒がなくなっていないか、誰か他に出入りできる者はいないか、また外部の者に手渡した者はいないか……などをお聞きしたいだけです」

 イグナットが自ら毒を飲んだのはなぜか。
 また彼はあの毒をどこから持って来たのか。

 王太子と二人きりで話す事があったなら、何を話していたのか。

(さあ、暴かせて頂きます)

 クローディアはヴェールの奥から、エメラルドグリーンの目で挑戦的にディストを見た。

 彼は少しの間、思案するように間を作ってクローディアを見つめる。

 それからゆっくり口を開いた。
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