22 / 58
イェールン伯爵
しおりを挟む
「勿論です」
アネッタは一見あまり目立たない顔立ちで、ドレスなども彼女の趣味を反映しているのか色彩が抑えめだ。
それがさらに他の令嬢たちからからかわれる由縁なのだが、クローディアとしては既に結婚しているアネッタはどれだけ外見について言われようがすでに勝利していると思っている。
二十歳を超えると、令嬢たちは少しずつ〝嫁き遅れ〟と呼ばれるのを恐れるようになっていく。
そんな中、クローディアもアネッタも早々に結婚してしまった。
二年前にクローディアやアネッタに意地悪な事を言っていた令嬢を見かけたが、いまだに舞踏会でより良い結婚相手を探しているようで、苦労しているのだなという感想を抱くのみだ。
無論、本音を言えばそのような年齢の縛りや、既婚か未婚かで女性を判断する価値観が変わればいいと思っている。
ソルのように子が作れない体質だと、結婚しても「役立たず」と言われてしまう残酷な世界だ。
せめてバフェット領だけでも、女性がもっとのびのびと暮らせる土地にできたら……とクローディアは考えていた。
(それはさておき、今はアネッタ様ね)
四人とも飲み物のグラスを持ち、乾杯をする。
爽やかな果実酒を一口飲んでから、クローディアはアネッタに話し掛けた。
「お会いできて良かったです。ご結婚されたのに、お祝いに駆けつけられずにすみません」
「いいえ。私こそバフェット辺境伯が亡くなられたというのに、葬儀にも行けず申し訳ございません」
話した感じでは、アネッタは昔から変わっていない。人が良く、親切な女性そのままだ。
「構いません。冬場の盛りでしたもの。雪深いバフェット領まで来ていただくには、難しい時期でしたわ」
「お気遣いありがとうございます」
一通り挨拶を終えて彼女の夫も紹介してもらったあと、アネッタが気遣わしげな顔をしているのに気付き、クローディアは苦笑いする。
「私が激変して戸惑っていらっしゃる?」
「えっ? いえ、その……」
動揺を隠しきれていないアネッタの素直さに、クローディアはますます笑みを深める。
「わざとですもの、戸惑って当然ですわ」
「わざと……?」
目を瞬かせるアネッタにウィンクをし、クローディアは彼女の夫ともども、秘密を守るようお願いする。
そして自分が自由奔放な未亡人を演じているのは、理由があっての事だと打ち明けた。
「そこで、お話があります。アネッタ様のお父上の、イェールン伯爵を紹介して頂きたいのです」
「構いませんけど……。本日もどこかにいるはずですわ」
アネッタは立ち上がり、ボールルームを見回す。
「一緒に歩いてみましょうか。お父様が見つかったら、ご紹介致します」
「ええ、ご親切にありがとうございます」
クローディアは礼を言い、三人と一緒に歩き始める。
もし自分とアネッタだけなら、通りすがりに令嬢たちに嫌みを言われたかもしれない。
だが今はルシオとアネッタの夫が一緒だからか、棘のある視線はもらうが特に何も言われなかった。
令嬢たちも、ルシオと二人きりなら「悪い噂を聞けばルシオ様もあの毒婦から離れるに違いない」と思っていただろう。
だが同行する人が増えると、注意が分散されて攻撃しづらくなるのかもしれない。
どんな関係であれ、〝仲間〟と一緒にいるのは心強い。
特にミケーラの騎士たちと過ごしていた時のクローディアは、精神的に最強と言っていいほどだった。
あの頃、周囲に愛されたからこそ、クローディアには現在の強さがある。
ボールルームをグルリと回るようにして歩いているうちに、アネッタが「あ、いらっしゃったわ」と声を出す。
「お父様」
先ほどクローディアたちがいた壁際のソファと、フロアを挟んで反対側のソファに、イェールン伯爵は仲間の紳士たちと共にいた。
「おお、アネッタ。どうした?」
伯爵は中肉中背で、温厚そうな顔立ちの人だ。
一目で有力な貴族と感じる外見的迫力はないのだが、周囲にいる貴族たちが彼に向ける目を見れば、頼りにされているとすぐ分かる。
「そちらは……」
イェールン伯爵は、クローディアの姿を見てすぐに〝時の人〟だと気付いたようだ。
「新しくバフェット城の女城主となりました、クローディアと申します」
クローディアは紅を塗った唇で微笑み、その場で優雅にお辞儀をしてみせた。
アネッタは一見あまり目立たない顔立ちで、ドレスなども彼女の趣味を反映しているのか色彩が抑えめだ。
それがさらに他の令嬢たちからからかわれる由縁なのだが、クローディアとしては既に結婚しているアネッタはどれだけ外見について言われようがすでに勝利していると思っている。
二十歳を超えると、令嬢たちは少しずつ〝嫁き遅れ〟と呼ばれるのを恐れるようになっていく。
そんな中、クローディアもアネッタも早々に結婚してしまった。
二年前にクローディアやアネッタに意地悪な事を言っていた令嬢を見かけたが、いまだに舞踏会でより良い結婚相手を探しているようで、苦労しているのだなという感想を抱くのみだ。
無論、本音を言えばそのような年齢の縛りや、既婚か未婚かで女性を判断する価値観が変わればいいと思っている。
ソルのように子が作れない体質だと、結婚しても「役立たず」と言われてしまう残酷な世界だ。
せめてバフェット領だけでも、女性がもっとのびのびと暮らせる土地にできたら……とクローディアは考えていた。
(それはさておき、今はアネッタ様ね)
四人とも飲み物のグラスを持ち、乾杯をする。
爽やかな果実酒を一口飲んでから、クローディアはアネッタに話し掛けた。
「お会いできて良かったです。ご結婚されたのに、お祝いに駆けつけられずにすみません」
「いいえ。私こそバフェット辺境伯が亡くなられたというのに、葬儀にも行けず申し訳ございません」
話した感じでは、アネッタは昔から変わっていない。人が良く、親切な女性そのままだ。
「構いません。冬場の盛りでしたもの。雪深いバフェット領まで来ていただくには、難しい時期でしたわ」
「お気遣いありがとうございます」
一通り挨拶を終えて彼女の夫も紹介してもらったあと、アネッタが気遣わしげな顔をしているのに気付き、クローディアは苦笑いする。
「私が激変して戸惑っていらっしゃる?」
「えっ? いえ、その……」
動揺を隠しきれていないアネッタの素直さに、クローディアはますます笑みを深める。
「わざとですもの、戸惑って当然ですわ」
「わざと……?」
目を瞬かせるアネッタにウィンクをし、クローディアは彼女の夫ともども、秘密を守るようお願いする。
そして自分が自由奔放な未亡人を演じているのは、理由があっての事だと打ち明けた。
「そこで、お話があります。アネッタ様のお父上の、イェールン伯爵を紹介して頂きたいのです」
「構いませんけど……。本日もどこかにいるはずですわ」
アネッタは立ち上がり、ボールルームを見回す。
「一緒に歩いてみましょうか。お父様が見つかったら、ご紹介致します」
「ええ、ご親切にありがとうございます」
クローディアは礼を言い、三人と一緒に歩き始める。
もし自分とアネッタだけなら、通りすがりに令嬢たちに嫌みを言われたかもしれない。
だが今はルシオとアネッタの夫が一緒だからか、棘のある視線はもらうが特に何も言われなかった。
令嬢たちも、ルシオと二人きりなら「悪い噂を聞けばルシオ様もあの毒婦から離れるに違いない」と思っていただろう。
だが同行する人が増えると、注意が分散されて攻撃しづらくなるのかもしれない。
どんな関係であれ、〝仲間〟と一緒にいるのは心強い。
特にミケーラの騎士たちと過ごしていた時のクローディアは、精神的に最強と言っていいほどだった。
あの頃、周囲に愛されたからこそ、クローディアには現在の強さがある。
ボールルームをグルリと回るようにして歩いているうちに、アネッタが「あ、いらっしゃったわ」と声を出す。
「お父様」
先ほどクローディアたちがいた壁際のソファと、フロアを挟んで反対側のソファに、イェールン伯爵は仲間の紳士たちと共にいた。
「おお、アネッタ。どうした?」
伯爵は中肉中背で、温厚そうな顔立ちの人だ。
一目で有力な貴族と感じる外見的迫力はないのだが、周囲にいる貴族たちが彼に向ける目を見れば、頼りにされているとすぐ分かる。
「そちらは……」
イェールン伯爵は、クローディアの姿を見てすぐに〝時の人〟だと気付いたようだ。
「新しくバフェット城の女城主となりました、クローディアと申します」
クローディアは紅を塗った唇で微笑み、その場で優雅にお辞儀をしてみせた。
9
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる