11 / 58
輿入れ
しおりを挟む
「……心の力……」
呟くクローディアに、別の騎士が話し掛ける。
「姫様ならできると思うぜ。何せ俺たちに舐められまくっていたガキの頃から、木の剣を振り回し続けて、その小さな手に肉刺を作るまでの努力を見せた。努力と折れない心は、人の心を動かすと俺たちが身をもって知った」
昔の事を言われ、クローディアは思わず笑み崩れる。
「姫様は美しい。だが本当の魅力はそれだけじゃない。心が強く美しいから、皆ついてくるんだ。もっと自分の美点に自信を持て」
別の騎士に大きな手で背中をドンと叩かれ、クローディアの心に強い力が宿る。
「……私、この縁談をお受けしてみようと思うわ。他の令嬢と比べると、普通ではない生き方になるかもしれない。けれど、私は元からその辺にいる普通のお嬢様じゃないもの」
顔を上げて吹っ切れた笑みを浮かべると、騎士たちが「そうだ!」と応援してくれた。
「寂しくなるけど、本当に戦が起こったのなら、俺たちはすぐにでも駆けつける。同じハーティリアの騎士なんだからな」
「ありがとう!」
騎士たちに勇気をもらったクローディアは、彼らに最大限の敬意を持ってお辞儀をしたあと、背中を見せて父の元に向かった。
クローディアが食堂からいなくなったあと、騎士の誰かが呟く。
「あーあ、いつかここからいなくなるとは思ってたけど、いざその時が来ると、まるで自分の娘が嫁に行くみたいだな」
「そうだなぁ。あんなに小さかったのに、あっという間だな」
「どうせラギは連れていくんだろ? あいつは愛想は悪いけど剣の腕は一流だし、姫様への忠誠心は誰よりも高い」
「姫様に、俺たちから伝書鳩でもプレゼントしようか。寂しい時、何か困った事があった時、手紙のやり取りでもできれば、遠い場所でも心の安らぎになるんじゃないか?」
「それは名案かもな」
口々に言う騎士たちの言葉を聞き、マクリーンは暖炉に薪を入れて火かき棒で位置を調節し、微笑む。
「鳥はいつか飛び立つ。その目に見る景色は……」
赤々と燃えている暖炉の火が新しい薪に燃え移り、パチンと水分を含んだ薪が爆ぜる音がした。
**
そしてクローディアは十八歳になった年に、西の辺境伯イグナットに嫁いだ。
ミケーラからついてきてくれたのは、護衛のラギと数人の騎士、そして侍女たちだ。
ラギはクローディアが十歳になった頃には側にいた存在で、初めはミケーラの騎士団に所属していたが、どうしてもクローディアの個人的な護衛になりたいと父に申し出たようだ。
そしてあらゆる試験や実戦を経て周囲に認められ、現在の地位にいる。
普段は黒い装束に身を包み、言葉も少なく本当に影のように寄り添ってくれている。
貴人の護衛をするからこそ、無駄口は叩かない性格も求められるのだろう。かといってまったく会話が弾まないのではなく、クローディアが求めればきちんと話をしてくれる。
さらに彼がクローディアづきの護衛として認められたのは、その外見の良さもある。
剣を振るうのに体を鍛えているため、胸板や体の厚みはある。だが身長が高く顔立ちも整っているため、主人に同行して貴人と会う場につれて行っても見栄えがする。
戦うのが仕事の護衛を顔で選び、腕が伴っていなければ話にならない。
だが幸か不幸か、ラギは外見の良さと強さの両方を持ち合わせていた。
ミケーラの騎士団全員と手合わせし、その頂点に立つとまでは言わないが、五本の指に入る強者と互角に渡り合える力量を持つ。
だからこそ、騎士団の者たちも大切な姫様をラギに託そうと思ったのだろう。
イグナットは嫁ぐ際の条件をまったく設けず、クローディアが望むままにしてくれた。
輿入れの隊列には、ミケーラの騎士が護衛としてついてくれ、バフェットの地まで守り抜いてくれた。
平地の多いミケーラから北西に向かうと、年中雪を被っているエルガー山脈が見える。
山に向けて馬車を走らせ続けると、次第に街道が森に包まれるようになっていった。
盗賊は森に隠れて襲ってくる事が多いので、騎士たちは警戒を強める。
バフェットからミケーラまで迎えに来てくれた騎士たちも、「この辺りは盗賊が出やすいですが、大勢で隊列を守っていれば安全です」と言っていた。
だがクローディアたちは何事もなくバフェットの地に辿り着いた。
初めてバフェット領の地を踏んだクローディアは、森に囲まれた湖とほとりにある街、そして尖塔が美しい城を見て感嘆の溜め息をついた。
呟くクローディアに、別の騎士が話し掛ける。
「姫様ならできると思うぜ。何せ俺たちに舐められまくっていたガキの頃から、木の剣を振り回し続けて、その小さな手に肉刺を作るまでの努力を見せた。努力と折れない心は、人の心を動かすと俺たちが身をもって知った」
昔の事を言われ、クローディアは思わず笑み崩れる。
「姫様は美しい。だが本当の魅力はそれだけじゃない。心が強く美しいから、皆ついてくるんだ。もっと自分の美点に自信を持て」
別の騎士に大きな手で背中をドンと叩かれ、クローディアの心に強い力が宿る。
「……私、この縁談をお受けしてみようと思うわ。他の令嬢と比べると、普通ではない生き方になるかもしれない。けれど、私は元からその辺にいる普通のお嬢様じゃないもの」
顔を上げて吹っ切れた笑みを浮かべると、騎士たちが「そうだ!」と応援してくれた。
「寂しくなるけど、本当に戦が起こったのなら、俺たちはすぐにでも駆けつける。同じハーティリアの騎士なんだからな」
「ありがとう!」
騎士たちに勇気をもらったクローディアは、彼らに最大限の敬意を持ってお辞儀をしたあと、背中を見せて父の元に向かった。
クローディアが食堂からいなくなったあと、騎士の誰かが呟く。
「あーあ、いつかここからいなくなるとは思ってたけど、いざその時が来ると、まるで自分の娘が嫁に行くみたいだな」
「そうだなぁ。あんなに小さかったのに、あっという間だな」
「どうせラギは連れていくんだろ? あいつは愛想は悪いけど剣の腕は一流だし、姫様への忠誠心は誰よりも高い」
「姫様に、俺たちから伝書鳩でもプレゼントしようか。寂しい時、何か困った事があった時、手紙のやり取りでもできれば、遠い場所でも心の安らぎになるんじゃないか?」
「それは名案かもな」
口々に言う騎士たちの言葉を聞き、マクリーンは暖炉に薪を入れて火かき棒で位置を調節し、微笑む。
「鳥はいつか飛び立つ。その目に見る景色は……」
赤々と燃えている暖炉の火が新しい薪に燃え移り、パチンと水分を含んだ薪が爆ぜる音がした。
**
そしてクローディアは十八歳になった年に、西の辺境伯イグナットに嫁いだ。
ミケーラからついてきてくれたのは、護衛のラギと数人の騎士、そして侍女たちだ。
ラギはクローディアが十歳になった頃には側にいた存在で、初めはミケーラの騎士団に所属していたが、どうしてもクローディアの個人的な護衛になりたいと父に申し出たようだ。
そしてあらゆる試験や実戦を経て周囲に認められ、現在の地位にいる。
普段は黒い装束に身を包み、言葉も少なく本当に影のように寄り添ってくれている。
貴人の護衛をするからこそ、無駄口は叩かない性格も求められるのだろう。かといってまったく会話が弾まないのではなく、クローディアが求めればきちんと話をしてくれる。
さらに彼がクローディアづきの護衛として認められたのは、その外見の良さもある。
剣を振るうのに体を鍛えているため、胸板や体の厚みはある。だが身長が高く顔立ちも整っているため、主人に同行して貴人と会う場につれて行っても見栄えがする。
戦うのが仕事の護衛を顔で選び、腕が伴っていなければ話にならない。
だが幸か不幸か、ラギは外見の良さと強さの両方を持ち合わせていた。
ミケーラの騎士団全員と手合わせし、その頂点に立つとまでは言わないが、五本の指に入る強者と互角に渡り合える力量を持つ。
だからこそ、騎士団の者たちも大切な姫様をラギに託そうと思ったのだろう。
イグナットは嫁ぐ際の条件をまったく設けず、クローディアが望むままにしてくれた。
輿入れの隊列には、ミケーラの騎士が護衛としてついてくれ、バフェットの地まで守り抜いてくれた。
平地の多いミケーラから北西に向かうと、年中雪を被っているエルガー山脈が見える。
山に向けて馬車を走らせ続けると、次第に街道が森に包まれるようになっていった。
盗賊は森に隠れて襲ってくる事が多いので、騎士たちは警戒を強める。
バフェットからミケーラまで迎えに来てくれた騎士たちも、「この辺りは盗賊が出やすいですが、大勢で隊列を守っていれば安全です」と言っていた。
だがクローディアたちは何事もなくバフェットの地に辿り着いた。
初めてバフェット領の地を踏んだクローディアは、森に囲まれた湖とほとりにある街、そして尖塔が美しい城を見て感嘆の溜め息をついた。
11
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
消された過去と消えた宝石
志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。
刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。
後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。
宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。
しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。
しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。
最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。
消えた宝石はどこに?
手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。
他サイトにも掲載しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACの作品を使用しています。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
蛇のおよずれ
深山なずな
キャラ文芸
平安時代、とある屋敷に紅姫と呼ばれる姫がいた。彼女は非常に美しい容姿をしており、また、特殊な力を持っていた。
ある日、紅姫は呪われた1匹の蛇を助ける。そのことが彼女の運命を大きく変えることになるとは知らずに……。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
天使の顔して悪魔は嗤う
ねこ沢ふたよ
ミステリー
表紙の子は赤野周作君。
一つ一つで、お話は別ですので、一つずつお楽しいただけます。
【都市伝説】
「田舎町の神社の片隅に打ち捨てられた人形が夜中に動く」
そんな都市伝説を調べに行こうと幼馴染の木根元子に誘われて調べに行きます。
【雪の日の魔物】
周作と優作の兄弟で、誘拐されてしまいますが、・・・どちらかと言えば、周作君が犯人ですね。
【歌う悪魔】
聖歌隊に参加した周作君が、ちょっとした事件に巻き込まれます。
【天国からの復讐】
死んだ友達の復讐
<折り紙から、中学生。友達今井目線>
【折り紙】
いじめられっ子が、周作君に相談してしまいます。復讐してしまいます。
【修学旅行1~3・4~10】
周作が、修学旅行に参加します。バスの車内から目撃したのは・・・。
3までで、小休止、4からまた新しい事件が。
※高一<松尾目線>
【授業参観1~9】
授業参観で見かけた保護者が殺害されます
【弁当】
松尾君のプライベートを赤野君が促されて推理するだけ。
【タイムカプセル1~7】
暗号を色々+事件。和歌、モールス、オペラ、絵画、様々な要素を取り入れた暗号
【クリスマスの暗号1~7】
赤野君がプレゼント交換用の暗号を作ります。クリスマスにちなんだ暗号です。
【神隠し】
同級生が行方不明に。 SNSや伝統的な手品のトリック
※高三<夏目目線>
【猫は暗号を運ぶ1~7】
猫の首輪の暗号から、事件解決
【猫を殺さば呪われると思え1~7】
暗号にCICADAとフリーメーソンを添えて♪
※都市伝説→天使の顔して悪魔は嗤う、タイトル変更
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる