10 / 58
相談
しおりを挟む
(お相手の年齢ばかり気にしている場合じゃない。結婚したあとの妻には、役目がある。私が望む〝妻〟像は何? そこそこいい家柄の男性に嫁いで、社交界で目が回るほどワルツを踊って、お菓子を摘まんでおかしくもないのに笑いながら、腹の底が見えない相手におべっかを使う事?)
自分に問いかけ、クローディアは少ない社交界経験を振り返る。
確かに今までの生活にはなかった事だから、綺麗なドレスを着て男性に求められるがままにダンスを踊ったのは楽しかった。
皆、女性としての自分を求めてくれていて、綺麗、美しいと褒めてくれた。
(でも私が本当に嬉しいのは、外見を褒められる事ではないわ。私が誇りに思っているのは、ミケーラにいて身につけた、人を守るための知識や戦い方。そしてそれらは、恐らく社交界にいれば〝お転婆〟と言われてしまう、良くないもの……)
深く考え、自分が素のままでありたいと願うほど、周りは良く思わないだろう事を理解していく。
(皆、誰々が綺麗とか、ドレスやアクセサリー、扇とかが流行の先端、素敵とか褒め合っている。でもハッキリ言って私には、彼女たちが本音で褒めているとは思えない。けれどそれを口にしてしまえば、私がつまはじきにされるのは目に見えている)
女性たちの友情というのものは厄介で、お互いに褒めていないと関係を良好に結べないようだ。
本音では自分が一番美しいと思っているのに、互いを平等に褒めて全員で「そうよね」と微笑み合っている。
そこで「私はそうは思わない」など本音を言ってしまえば、空気の読めない人間として嫌われてしまう。
(社交界で見た、イェールン伯爵家のアネッタ様……。あの方は誘いを断るのが苦手なようで、男性に求められるがままになっていたら、あっという間に令嬢たちの間で『男好き』という事にされてしまった。彼女の困った顔を見ていれば、そうではないとすぐ分かるはずなのに……)
アネッタは可愛らしくおっとりした印象の女性で、裕福な伯爵家で大切に育てられた令嬢という印象だった。
両親も遠くから見て、温厚な人なのだろうなと感じた。
優しそうな彼女が男性にグイグイと迫られ、困った表情で微笑みながらも、断り切れず次々にダンスを踊って疲れた顔を見せていたのを、クローディアは目撃していた。
他の令嬢たちいわく、「踊りたくもない下級貴族なら、ハッキリ断った方がお互いのため」「下級貴族にいい顔をしていれば、自分も同類と見られる」との事だが、アネッタは他人から求められて断る行為そのものが苦手なのだろう。
こうして〝少し人と違っている〟だけで、女性たちの群れからあっという間に追い出されてしまう。
追い出されてその後関わらないのならいいのだが、ありもしない悪い噂を立てられ、意中の男性に「あの女性はこんな悪い事を影でしているから、関わらない方がいいですよ」と言われてしまう。
そんな恐ろしい世界にいたいのか? と言われれば、答えはノーだ。
(かといって……、辺境伯の地で森に囲まれて生きる? 静かではあるだろうけれど……)
考え込んだクローディアを、騎士たちは心配そうに見守っている。
「……私に、宮中での貴婦人たちとの付き合いが務まると思う?」
やがて顔を上げて騎士たちに問いかけると、彼らはドッと笑った。
「いや、無理だな」
「そうそう。姫様は俺たちが育てたと言っても過言ではない。言ってしまえばかなり男勝りで変わった令嬢だ。俺たちはたまに城主様と一緒に王都まで行って貴族の女性たちを見る事もあるが、あんなツンツンして腹の底が知れない蛇みたいな女と、素直が一番の美徳な姫様が合う訳がないと思うね」
「大体、姫様は大して非のない人間を、ちょっと気に入らない事があるからって『皆で無視しましょう、意地悪しましょう』って言われて、言う通りにできるか? 罪を犯した訳でもない、威張っている奴の勘に障っただけの哀れな奴を、大勢でいたぶって精神的に殺す事をよしとできるのか? 宮中はそういう場所だぜ」
騎士たちの言葉を聞き、クローディアの心は決まった。
「嫌だわ。私は、そんな心の曲がった事は絶対にしない。魂が穢れるわ」
顔を上げて言い切ると、誰かが「そうだ!」と合いの手を入れて拍手をした。
「……バフェットでイグナット様と過ごしたあと、仮に私が女辺境伯になったとして、務まると思う?」
凛として言い放ったというのに、クローディアは急に自信なさげな顔になり、騎士たちに尋ねる。
「それは姫様次第じゃないか?」
「え?」
そう言ったのはマクリーンだ。彼は椅子に腰掛けたまま、ニヤリと笑ってみせる。
「何も姫様自身が、鬼のように強くなきゃいけない必要などない。要は、辺境伯の地にいる兵士たちの心を掌握し、味方とできるかどうかだ。仮にエチルデの地を巡ってまた戦が起きたとして、姫様は兵士たちの〝頭脳〟となり、姿を見るだけで士気があがる〝勝利の女神〟とならなければいけない。必要なのは物理的な力ではなく、心を掴む精神的な力だ」
マクリーンは拳でドンと己の胸を叩き、片目を瞑って見せた。
自分に問いかけ、クローディアは少ない社交界経験を振り返る。
確かに今までの生活にはなかった事だから、綺麗なドレスを着て男性に求められるがままにダンスを踊ったのは楽しかった。
皆、女性としての自分を求めてくれていて、綺麗、美しいと褒めてくれた。
(でも私が本当に嬉しいのは、外見を褒められる事ではないわ。私が誇りに思っているのは、ミケーラにいて身につけた、人を守るための知識や戦い方。そしてそれらは、恐らく社交界にいれば〝お転婆〟と言われてしまう、良くないもの……)
深く考え、自分が素のままでありたいと願うほど、周りは良く思わないだろう事を理解していく。
(皆、誰々が綺麗とか、ドレスやアクセサリー、扇とかが流行の先端、素敵とか褒め合っている。でもハッキリ言って私には、彼女たちが本音で褒めているとは思えない。けれどそれを口にしてしまえば、私がつまはじきにされるのは目に見えている)
女性たちの友情というのものは厄介で、お互いに褒めていないと関係を良好に結べないようだ。
本音では自分が一番美しいと思っているのに、互いを平等に褒めて全員で「そうよね」と微笑み合っている。
そこで「私はそうは思わない」など本音を言ってしまえば、空気の読めない人間として嫌われてしまう。
(社交界で見た、イェールン伯爵家のアネッタ様……。あの方は誘いを断るのが苦手なようで、男性に求められるがままになっていたら、あっという間に令嬢たちの間で『男好き』という事にされてしまった。彼女の困った顔を見ていれば、そうではないとすぐ分かるはずなのに……)
アネッタは可愛らしくおっとりした印象の女性で、裕福な伯爵家で大切に育てられた令嬢という印象だった。
両親も遠くから見て、温厚な人なのだろうなと感じた。
優しそうな彼女が男性にグイグイと迫られ、困った表情で微笑みながらも、断り切れず次々にダンスを踊って疲れた顔を見せていたのを、クローディアは目撃していた。
他の令嬢たちいわく、「踊りたくもない下級貴族なら、ハッキリ断った方がお互いのため」「下級貴族にいい顔をしていれば、自分も同類と見られる」との事だが、アネッタは他人から求められて断る行為そのものが苦手なのだろう。
こうして〝少し人と違っている〟だけで、女性たちの群れからあっという間に追い出されてしまう。
追い出されてその後関わらないのならいいのだが、ありもしない悪い噂を立てられ、意中の男性に「あの女性はこんな悪い事を影でしているから、関わらない方がいいですよ」と言われてしまう。
そんな恐ろしい世界にいたいのか? と言われれば、答えはノーだ。
(かといって……、辺境伯の地で森に囲まれて生きる? 静かではあるだろうけれど……)
考え込んだクローディアを、騎士たちは心配そうに見守っている。
「……私に、宮中での貴婦人たちとの付き合いが務まると思う?」
やがて顔を上げて騎士たちに問いかけると、彼らはドッと笑った。
「いや、無理だな」
「そうそう。姫様は俺たちが育てたと言っても過言ではない。言ってしまえばかなり男勝りで変わった令嬢だ。俺たちはたまに城主様と一緒に王都まで行って貴族の女性たちを見る事もあるが、あんなツンツンして腹の底が知れない蛇みたいな女と、素直が一番の美徳な姫様が合う訳がないと思うね」
「大体、姫様は大して非のない人間を、ちょっと気に入らない事があるからって『皆で無視しましょう、意地悪しましょう』って言われて、言う通りにできるか? 罪を犯した訳でもない、威張っている奴の勘に障っただけの哀れな奴を、大勢でいたぶって精神的に殺す事をよしとできるのか? 宮中はそういう場所だぜ」
騎士たちの言葉を聞き、クローディアの心は決まった。
「嫌だわ。私は、そんな心の曲がった事は絶対にしない。魂が穢れるわ」
顔を上げて言い切ると、誰かが「そうだ!」と合いの手を入れて拍手をした。
「……バフェットでイグナット様と過ごしたあと、仮に私が女辺境伯になったとして、務まると思う?」
凛として言い放ったというのに、クローディアは急に自信なさげな顔になり、騎士たちに尋ねる。
「それは姫様次第じゃないか?」
「え?」
そう言ったのはマクリーンだ。彼は椅子に腰掛けたまま、ニヤリと笑ってみせる。
「何も姫様自身が、鬼のように強くなきゃいけない必要などない。要は、辺境伯の地にいる兵士たちの心を掌握し、味方とできるかどうかだ。仮にエチルデの地を巡ってまた戦が起きたとして、姫様は兵士たちの〝頭脳〟となり、姿を見るだけで士気があがる〝勝利の女神〟とならなければいけない。必要なのは物理的な力ではなく、心を掴む精神的な力だ」
マクリーンは拳でドンと己の胸を叩き、片目を瞑って見せた。
11
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる