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ガードナー邸へ
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「察するに、人外の存在に悩まされているんじゃないか?」
「はぁんっ♡」
真剣に話しているというのに、敏感な体は彼の低い囁き声に反応してしまった。
これじゃあ単なる痴女!
「すっ、すみません! 体がおかしくなっていまして、ちょっと……、し、刺激が……」
私は涙目になって言い訳し、すかさず彼から距離を取る。
でも、てっきり変な目で見られると思っていたのに、彼は思いの外真剣な表情をし、私に手を差しだした。
「エメライン、私の家に来ないか? 何らかの解決策を出せるかもしれない」
「え?」
戸惑った私は、声を漏らす。
悪魔憑きを祓うのは聖職者の役目だ。
彼が信心深い男性だとしても、神に身を捧げた訳ではない。
悪魔を祓う役割を持つ聖なる宝剣は、王宮や教会が管理しているし、一般人が悪魔払いをできる訳がない。
ハロルド様の事は好意的に思っているし、心配されて嬉しく思っている。
でも絶大な力を持つ侯爵の彼でも、できる事とできない事があると思うのだけれど……。
「頼む、来てくれ」
けれど真剣な眼差しの彼を見て、ここまで言ってくれる人の申し出を断るのは失礼だと思った。
「分かりました。では少しお茶をしに伺います」
「ああ」
そのあと、私は「ハロルド様からお誘いを受けたと、家族に伝言してちょうだい。なるべく遅くならないようにするから」と従僕にお願いした。
そして皆さんと現地解散の挨拶をしたあと、私はハロルド様の馬車に乗り、彼のタウンハウスへ向かったのだった。
**
体の火照りは少しずつ落ち着いてきている。
触手に襲われ続けて分かった事だけれど、触手の粘液に催淫効果があるのか、襲われたあとの私は、しばらく感度が上がりボーッとしてしまう。
けれど馬車に乗って一時間もする頃には、体はすっかりいつもの調子を取り戻していた。
「どうぞ」
ガードナー侯爵家のタウンハウスに着いたあと、ハロルド様に中に入るよう勧められ、私は帽子を脱いで屋敷に入った。
「おじゃまします」
屋敷の中には人の気配がなく、主人が帰っても年嵩の家令が挨拶をしただけだ。
「歓迎する者がいなくてすまない。あまり人に囲まれるのは好きではないんだ。着替えやお茶を淹れるぐらいは自分でできるし、身の回りの事は家令に、食事は料理人に任せ、屋敷の掃除は定期的に通いのメイドがしている」
「そうなのですね。合理的で良いと思います」
微笑むと、ハロルド様は安心したように微笑み返してくれた。
「そう言ってくれて助かる。中には俺を『ケチ』とか『貧乏なのを隠している』と噂する者もいる。いつもは相手にしていないが、それほど交流していない人の耳に入ると、多少気まずい思いをする」
「人それぞれ心地よい生き方があるのですから、気にする事はありません。意地悪な方々はハロルドに嫉妬しているのです。だから少しでも変わっている点があれば、殊更悪く言えばあなたが傷付くと思っているのですわ」
憧れているハロルド様に悪口を言う人がいると知り、私は憤慨する。
彼は女性から人気があるし、あまり饒舌ではないから人から誤解を受けやすい。
『貴族とはこうあるべき』という生活を送っていれば満足するのかもしれないけれど、少し普通と違う点があるだけで〝変わり者〟扱いされてしまう。
他人の生活なんて自分の人生に関係しないというのに、人というものは他人に興味を持ち、文句を言いたがるものだ。
要するに、暇なのよ。
「こうしてお話しすれば、ハロルド様が素敵な方だと誰もが分かります。あなたが友人にと思う人にあなたの良さを分かってもらえたなら、それでいいと思います」
「ありがとう。君は優しいな」
会話をしながら、私たちは玄関ホールから階段を上がり、応接室に向かう。
やがてお茶が出され、私は芳醇な香りのするそれを飲み人心地つく。
「それで……、解決策とは……?」
肝心の話について切り出すと、ハロルド様は笑みを深める。
「まず、あなたの〝悩み〟がいつ、どうやって始まったのか教えてくれないか?」
「はぁんっ♡」
真剣に話しているというのに、敏感な体は彼の低い囁き声に反応してしまった。
これじゃあ単なる痴女!
「すっ、すみません! 体がおかしくなっていまして、ちょっと……、し、刺激が……」
私は涙目になって言い訳し、すかさず彼から距離を取る。
でも、てっきり変な目で見られると思っていたのに、彼は思いの外真剣な表情をし、私に手を差しだした。
「エメライン、私の家に来ないか? 何らかの解決策を出せるかもしれない」
「え?」
戸惑った私は、声を漏らす。
悪魔憑きを祓うのは聖職者の役目だ。
彼が信心深い男性だとしても、神に身を捧げた訳ではない。
悪魔を祓う役割を持つ聖なる宝剣は、王宮や教会が管理しているし、一般人が悪魔払いをできる訳がない。
ハロルド様の事は好意的に思っているし、心配されて嬉しく思っている。
でも絶大な力を持つ侯爵の彼でも、できる事とできない事があると思うのだけれど……。
「頼む、来てくれ」
けれど真剣な眼差しの彼を見て、ここまで言ってくれる人の申し出を断るのは失礼だと思った。
「分かりました。では少しお茶をしに伺います」
「ああ」
そのあと、私は「ハロルド様からお誘いを受けたと、家族に伝言してちょうだい。なるべく遅くならないようにするから」と従僕にお願いした。
そして皆さんと現地解散の挨拶をしたあと、私はハロルド様の馬車に乗り、彼のタウンハウスへ向かったのだった。
**
体の火照りは少しずつ落ち着いてきている。
触手に襲われ続けて分かった事だけれど、触手の粘液に催淫効果があるのか、襲われたあとの私は、しばらく感度が上がりボーッとしてしまう。
けれど馬車に乗って一時間もする頃には、体はすっかりいつもの調子を取り戻していた。
「どうぞ」
ガードナー侯爵家のタウンハウスに着いたあと、ハロルド様に中に入るよう勧められ、私は帽子を脱いで屋敷に入った。
「おじゃまします」
屋敷の中には人の気配がなく、主人が帰っても年嵩の家令が挨拶をしただけだ。
「歓迎する者がいなくてすまない。あまり人に囲まれるのは好きではないんだ。着替えやお茶を淹れるぐらいは自分でできるし、身の回りの事は家令に、食事は料理人に任せ、屋敷の掃除は定期的に通いのメイドがしている」
「そうなのですね。合理的で良いと思います」
微笑むと、ハロルド様は安心したように微笑み返してくれた。
「そう言ってくれて助かる。中には俺を『ケチ』とか『貧乏なのを隠している』と噂する者もいる。いつもは相手にしていないが、それほど交流していない人の耳に入ると、多少気まずい思いをする」
「人それぞれ心地よい生き方があるのですから、気にする事はありません。意地悪な方々はハロルドに嫉妬しているのです。だから少しでも変わっている点があれば、殊更悪く言えばあなたが傷付くと思っているのですわ」
憧れているハロルド様に悪口を言う人がいると知り、私は憤慨する。
彼は女性から人気があるし、あまり饒舌ではないから人から誤解を受けやすい。
『貴族とはこうあるべき』という生活を送っていれば満足するのかもしれないけれど、少し普通と違う点があるだけで〝変わり者〟扱いされてしまう。
他人の生活なんて自分の人生に関係しないというのに、人というものは他人に興味を持ち、文句を言いたがるものだ。
要するに、暇なのよ。
「こうしてお話しすれば、ハロルド様が素敵な方だと誰もが分かります。あなたが友人にと思う人にあなたの良さを分かってもらえたなら、それでいいと思います」
「ありがとう。君は優しいな」
会話をしながら、私たちは玄関ホールから階段を上がり、応接室に向かう。
やがてお茶が出され、私は芳醇な香りのするそれを飲み人心地つく。
「それで……、解決策とは……?」
肝心の話について切り出すと、ハロルド様は笑みを深める。
「まず、あなたの〝悩み〟がいつ、どうやって始まったのか教えてくれないか?」
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