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人は変わっていけます
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その後、祥吾は仕事を続け、鞠花はひとまず専業主婦として彼を家庭で支えた。
本来なら週末はまったりとデートをするところ、彼が今まで作り上げたわだかまりを解消するために、北は北海道から、南は沖縄まで飛行機で飛び回り、詫びの菓子折を持って謝罪した。
謝られた者たちの大半は、謝罪を受け入れ「お幸せに」と言ってくれた。
だがどうしても祥吾を許せない者たちもいる。
その時は鞠花も一緒になって土下座をし、時に水を掛けられてまで許しを乞うた。
東京で仕事をしながらなので、謝罪には丸一年かかった。
そして年末、仕事納めになる前に、最後の一件に謝罪し終わったあと、二人は疲労と達成感を覚えて帰宅する。
「最後はいいお返事をもらえて良かったですね」
「ああ。それにしても、俺が謝って歩いているって、割と噂になってたんだな」
一年経つ頃には、祥吾の性格はすっかり丸くなっていた。
仕事は以前のようにバリバリこなすものの、社内改革を行ったあと、今では〝部下思い〟と慕われているらしい。
最初こそ社員には「何を今更……」という態度を取られたが、祥吾が一貫して社員が働きやすくする方針を推し進め実行するうちに、「最近の社長はいい感じに変わったね」と受け入れてくれるようになったそうだ。
空いた秘書の座には、父の紹介により、勤勉で祥吾が何か誤った判断をした時にも口出しのできる、しっかりとした人物が就いた。
秘書としてベテランの男性で、祥吾は「教わる事が多い」と笑っている。
鞠花は二十七歳になり、祥吾は三十五歳になった。
すべての禊が終わろうとしているので、鞠花は祥吾に結婚式の計画を進めていいとゴーサインを出し、今は二人で式場やドレス、招待客について話し合っている。
「……もう、俺の事をすべて受け入れてくれる?」
風呂で温まったあと、ミネラルウォーターを飲んで祥吾が尋ねてくる。
「はい。約束を守ってくれましたから」
鞠花は微笑み、優しく彼の頭を撫でた。
「頑張りましたね。偉い、偉い」
子供のように扱ったからか、祥吾が照れながらも物言いたげに見つめてくる。
「鞠花、愛してる」
照れながらも、祥吾はまっすぐな言葉を向けてきた。
「今まで、すべての謝罪についてきてくれてありがとう。嫌な目にだって遭ったのに、鞠花は『婚約者ですから』と引かなかった。君がいたから許してくれた人だって、大勢いた」
鞠花の手を握り、祥吾が微笑む。
「……君は、泥沼に嵌まって抜け出す事を諦めていた俺を、救い出して清らかな水で洗い流してくれた。過去の罪は変えられないけれど、本当に心を入れ替えてこれから頑張っていきたい」
真摯な瞳で宣言する彼に、鞠花は一つ頷いて微笑んだ。
「生きている限り、人は変わっていけますからね。あなたも、私も」
言葉の通り、彼と一緒に謝罪して周り、鞠花も精神的に強くなれた気がする。
看護師として働いていた時とは、また異なる強さだ。
きっとその強さは、これから祥吾の妻として生きるのに役立つと思った。
「私こそ、ありがとうございます」
祥吾に礼を言うと、彼は破顔した。
「まったく君には……、敵わないな……」
心の底から愛しそうな顔で言われ、鞠花も素直な笑顔を向ける。
もう何のわだかまりもなく、彼の妻になれる。
「私も、あなたを愛していますよ。祥吾さん」
彼に抱きつき、鞠花は自分からキスをする。
ちゅっ……と濡れた音を立てて顔を離して祥吾を見ると、彼はすでにその瞳に鞠花を求める色を宿していた。
**
その年の六月、鞠花は都内にある五つ星ホテルのチャペルで祥吾と式を挙げた。
トレーンを引きずる白いウエディングドレスは、子供時代から密かに憧れていた物だ。
見せたいと思った両親はもういないけれど、祥吾と彼の両親から頭を下げられ、きちんと和解した祖父母がいる。
祖父は父の代わりに、鞠花をエスコートしてくれていた。
祥吾は白いモーニングコートを着て、ヴァージンロードの途中で鞠花を待っている。
鞠花が纏うウエディングドレスは、パリコレなどでも筆頭で名の上がるハイブランドの物だ。
初めはそんなに高価な物を着るつもりはなかったのだが、祥吾の妻となるのなら、彼が恥を掻かないように花嫁も相応のドレスを着る必要があると、彼の母に諭された。
もちろん鞠花が質素を好む事を美徳として認めた上で、財布の紐は緩める時とは締める時をわきまえると、話し合った。
かくして鞠花はオフショルダーのAラインドレスを着ていた。
本来なら週末はまったりとデートをするところ、彼が今まで作り上げたわだかまりを解消するために、北は北海道から、南は沖縄まで飛行機で飛び回り、詫びの菓子折を持って謝罪した。
謝られた者たちの大半は、謝罪を受け入れ「お幸せに」と言ってくれた。
だがどうしても祥吾を許せない者たちもいる。
その時は鞠花も一緒になって土下座をし、時に水を掛けられてまで許しを乞うた。
東京で仕事をしながらなので、謝罪には丸一年かかった。
そして年末、仕事納めになる前に、最後の一件に謝罪し終わったあと、二人は疲労と達成感を覚えて帰宅する。
「最後はいいお返事をもらえて良かったですね」
「ああ。それにしても、俺が謝って歩いているって、割と噂になってたんだな」
一年経つ頃には、祥吾の性格はすっかり丸くなっていた。
仕事は以前のようにバリバリこなすものの、社内改革を行ったあと、今では〝部下思い〟と慕われているらしい。
最初こそ社員には「何を今更……」という態度を取られたが、祥吾が一貫して社員が働きやすくする方針を推し進め実行するうちに、「最近の社長はいい感じに変わったね」と受け入れてくれるようになったそうだ。
空いた秘書の座には、父の紹介により、勤勉で祥吾が何か誤った判断をした時にも口出しのできる、しっかりとした人物が就いた。
秘書としてベテランの男性で、祥吾は「教わる事が多い」と笑っている。
鞠花は二十七歳になり、祥吾は三十五歳になった。
すべての禊が終わろうとしているので、鞠花は祥吾に結婚式の計画を進めていいとゴーサインを出し、今は二人で式場やドレス、招待客について話し合っている。
「……もう、俺の事をすべて受け入れてくれる?」
風呂で温まったあと、ミネラルウォーターを飲んで祥吾が尋ねてくる。
「はい。約束を守ってくれましたから」
鞠花は微笑み、優しく彼の頭を撫でた。
「頑張りましたね。偉い、偉い」
子供のように扱ったからか、祥吾が照れながらも物言いたげに見つめてくる。
「鞠花、愛してる」
照れながらも、祥吾はまっすぐな言葉を向けてきた。
「今まで、すべての謝罪についてきてくれてありがとう。嫌な目にだって遭ったのに、鞠花は『婚約者ですから』と引かなかった。君がいたから許してくれた人だって、大勢いた」
鞠花の手を握り、祥吾が微笑む。
「……君は、泥沼に嵌まって抜け出す事を諦めていた俺を、救い出して清らかな水で洗い流してくれた。過去の罪は変えられないけれど、本当に心を入れ替えてこれから頑張っていきたい」
真摯な瞳で宣言する彼に、鞠花は一つ頷いて微笑んだ。
「生きている限り、人は変わっていけますからね。あなたも、私も」
言葉の通り、彼と一緒に謝罪して周り、鞠花も精神的に強くなれた気がする。
看護師として働いていた時とは、また異なる強さだ。
きっとその強さは、これから祥吾の妻として生きるのに役立つと思った。
「私こそ、ありがとうございます」
祥吾に礼を言うと、彼は破顔した。
「まったく君には……、敵わないな……」
心の底から愛しそうな顔で言われ、鞠花も素直な笑顔を向ける。
もう何のわだかまりもなく、彼の妻になれる。
「私も、あなたを愛していますよ。祥吾さん」
彼に抱きつき、鞠花は自分からキスをする。
ちゅっ……と濡れた音を立てて顔を離して祥吾を見ると、彼はすでにその瞳に鞠花を求める色を宿していた。
**
その年の六月、鞠花は都内にある五つ星ホテルのチャペルで祥吾と式を挙げた。
トレーンを引きずる白いウエディングドレスは、子供時代から密かに憧れていた物だ。
見せたいと思った両親はもういないけれど、祥吾と彼の両親から頭を下げられ、きちんと和解した祖父母がいる。
祖父は父の代わりに、鞠花をエスコートしてくれていた。
祥吾は白いモーニングコートを着て、ヴァージンロードの途中で鞠花を待っている。
鞠花が纏うウエディングドレスは、パリコレなどでも筆頭で名の上がるハイブランドの物だ。
初めはそんなに高価な物を着るつもりはなかったのだが、祥吾の妻となるのなら、彼が恥を掻かないように花嫁も相応のドレスを着る必要があると、彼の母に諭された。
もちろん鞠花が質素を好む事を美徳として認めた上で、財布の紐は緩める時とは締める時をわきまえると、話し合った。
かくして鞠花はオフショルダーのAラインドレスを着ていた。
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