【R-18】悪人は聖母に跪く

臣桜

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殺したいほど憎くて、泣きたいほど愛しい人

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 仕事をして、ただ生きればいい。仕事が生きがい。

 半分自分に言い聞かせていた鞠花に、「本当は愛される事を望んでいるのだろう?」と〝修吾〟といる事で気付かされた。

 だからこそ鞠花は、本当に〝修吾〟には恩を感じていて、彼が本気で自分を愛してくれるなら、心から愛し返そうと思っていたのだ。




 一度彼の前から姿をくらましていた間、鞠花は深く考えた。

 最初こそこみ上げた怒りと憎しみで我を失いそうになったが、祥吾から距離を取り、両親の墓参りをし、仙台の祖父母も訪れ、沢山自分と向き合った。

『鞠花がどれだけその人を憎んでも、あの子たちは生き返らないよ』

 祖父は寂しげに笑い、祖母も傷つきながらも今を生きる者として微笑む。

『鞠花がもしその人を許せるのなら、結婚したら? 許せないと思うなら、無理に結婚して一生苦しむ必要はない。忘れてしまいなさい。ただ、いつかお婆ちゃんたちに紹介してくれるなら、きちんと過去の事に頭を下げ、あの子たちのお墓に手を合わせてくれる人だといいね』

 大切な自分の子供と嫁を失った祖父母がそう言うのなら、その通りだと思った。

 鞠花はしばし仙台の病院で勤務し、祖父母にちょくちょく会って穏やかな日々を過ごした。

 そののち祥吾が刺される事件が起き、心を決めたのだ。


(これもまた、運命なのかもしれない)


 小さく息をついて目を開くと、ホテルと見まごうばかりの病院の個室が視界に入る。

 自分の心の中にいた夜叉に一度別れを告げ、目の前にいる〝刺された祥吾〟を見た。

 彼の今までの行いを思えば、刺されて当たり前だ。
 因果応報なので、同情はしない。

 彼を憎んでいた心の中の自分は、「ざまみろ」と思っている。

 けれど彼が今後本当に悔い改めて生き直すなら、自分はその傍らに立って支え、手伝っていきたいと思った。

 歪んで育ってしまった彼が自分の両親を足蹴にし、破滅に追い込む言葉を口にした。
 その遺族が自分ならば、自分が彼をきちんと更生させるのが筋なのでは、と思う。

 祥吾が自分に惚れた弱みにつけ込んで、彼を言いなりにさせるのは抵抗がある。

 自分の中の〝正しさ〟だって、時には揺らぐ。

 だが周囲の人と話し合って、二人で進んでいけたらと思う。



 殺したいほど憎くて、泣きたいほど愛しい人だから――。



**



「鞠花、受け取ってほしい物があるんだ」

「何です?」

 祥吾に言われ、そちらを見ると、彼は手を伸ばしてベッドサイドの引き出しを開けようとしていた。
 手伝って引き出しを引くと、とある物が目に映り鞠花は胸を高鳴らせる。

「今のこの流れで渡すのが正解なのか、分からないけど……」

 横になっていた紙袋には、セレブ御用達の高級ジュエリー店のロゴが描かれてあった。

(これ……)

 言われなくても、鞠花はそれが何であるか察した。

 祥吾は紙袋の中からリングケースを取り出す。
 パカリと開けるタイプではなく、左右に開く独特の形だ。

 その中から現れたのは、大粒のダイヤモンドが嵌まった婚約指輪だ。

 外から差し込む冬の鈍い日差しに、透明な石が反射し、天井や壁に虹色の影を投げた。

「……結婚、してください」

 鞠花の手を握り、祥吾が真摯に見つめてくる。

 彼の瞳からは、邪悪な感情は消え去っていた。

「……はい」



 ――あなたの覚悟を、見せて。



 頷いた鞠花の指に、何千万か分からない指輪が嵌められる。



 ――私も、この大きな石に見合うだけの覚悟を決める。



「退院したら、必ず鞠花との約束を守る。迷惑を掛けた人は大勢いるから、どれぐらい時間が掛かるか分からない。でもちゃんと謝罪して、そのあと鞠花ときちんと結婚したい」

「……はい。私もお付き合いしますね」

 そう言うと、祥吾はキョトンと目を瞬かせた。

「え? だって……、君は関係ないじゃないか」

 祥吾に向けて、鞠花はにっこり笑ってみせた。
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