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刺されると思った
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遠くを睨んで頑なに言った彼女は、今思えば心に何かしらの傷を負っていたのだろう。
恐らく、亡くなった両親に関わる何かを……。
当時の祥吾は、鞠花と二人で話していられるのが嬉しくて、彼女自身から深い話を聞こうという思考回路にならなかった。
(……ここで投げ出したら、……鞠花に会えない。……どうして消えたのか、理由も聞けない。『贅沢病』と思われたまま、終わりたくない)
彼女の言葉を思い出したからか、祥吾の目にグッと力が入る。
結婚したいと思っていた割に一方的に彼女に入れ込み、あまり鞠花の話を聞かなかった気がする。
彼女の両親がどうして亡くなったのかとか、現在看護師をするようになるまで、どう過ごしたのかとか、大切な事を見落としていた。
(もしかしたら、それで嫌気が差して離れたのかもしれない。……次は、失敗しないから……っ)
「ぐぅ……っ」
激痛に低く呻きながら、祥吾は手を伸ばして枕元にあるスマホを取った。
そして震える指で、〝119〟を押した。
**
某所。
馴染み始めた家で一人食事を取っていた鞠花は、ニュース速報を見て箸を止めた。
『かなえ銀行代表取締役社長・鳳祥吾氏が何者かに刺され重体』
「…………」
鞠花はキュッと唇を引き結び、茶碗と箸をテーブルの上に置いて息をつく。
「……刺されると思った」
呟いて、また溜め息をつく。
そのまましばらく、目の前の空間を見つめる。
やがて緊急ニュースでキャスターが事件を伝えるのを聞いて、大きく息を吸って止め、吐き出すと共に呟いた。
「…………馬鹿……」
鞠花は何かを堪えるように目を閉じ、クシャリと髪をかき回した。
**
マンションの管理人によって部屋のドアが開けられ、祥吾は救急隊員たちによって病院に運ばれた。
すぐに手術するための準備が始められ、必要な検査が行われたあと彼は手術室に入る。
しばらく安定するまで集中治療室に寝かされ、意識が回復したあとはホテルのような個室に移された。
両親が顔を見に来て、母が祥吾の無事を確認して泣いた。
警察も来て、祥吾は包み隠さず東に刺された事を伝えた。
刺される経緯についても、自分がクズであった事を誤魔化さずすべてを話した。
その上で祥吾は顧問弁護士に連絡を取り、また警察に個室の警備をしてもらった。
彼女が訪れたのは、修吾が個室に入って四日経った時だ。
看護師が部屋を訪れ、「西城さんという方が面会を求めているのですが、どうしますか?」と尋ねてきた。
「!!」
――鞠花だ!
――彼女が心配して、来てくれたに違いない!
暗鬱とした毎日を送っていた祥吾の目の前が、急にパァッと開けた気がした。
「通してください」
「分かりました」
凶器は臓器を損傷するに至っておらず、ごく浅い場所の傷で済んでいた。
恐らく東も感情が高ぶるあまり、どこをどう刺せば確実に殺せるなど考えていなかったのだろう。
だから祥吾は、刺された当初に予想したより、ずっと早く回復していた。
祥吾はリモコンでベッドを起こし、座った状態で鞠花を待つ。
やがて部屋の外で警官と誰かが話す声が聞こえ、横開きのドアが開かれた。
「……鞠花……!」
部屋に入ってきたのは、茶色いダッフルコートを着た鞠花だ。
髪は下ろしたままで、耳にイヤーマフをしている。
祥吾は胸の高鳴りを抑えきれず、久しぶりに彼女に会えた喜びで笑みを零す。
鞠花はイヤーマフを外し、ヒールの低いブーツで歩み寄って来る。
そしてジッと祥吾を見つめてきた。
恐らく、亡くなった両親に関わる何かを……。
当時の祥吾は、鞠花と二人で話していられるのが嬉しくて、彼女自身から深い話を聞こうという思考回路にならなかった。
(……ここで投げ出したら、……鞠花に会えない。……どうして消えたのか、理由も聞けない。『贅沢病』と思われたまま、終わりたくない)
彼女の言葉を思い出したからか、祥吾の目にグッと力が入る。
結婚したいと思っていた割に一方的に彼女に入れ込み、あまり鞠花の話を聞かなかった気がする。
彼女の両親がどうして亡くなったのかとか、現在看護師をするようになるまで、どう過ごしたのかとか、大切な事を見落としていた。
(もしかしたら、それで嫌気が差して離れたのかもしれない。……次は、失敗しないから……っ)
「ぐぅ……っ」
激痛に低く呻きながら、祥吾は手を伸ばして枕元にあるスマホを取った。
そして震える指で、〝119〟を押した。
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某所。
馴染み始めた家で一人食事を取っていた鞠花は、ニュース速報を見て箸を止めた。
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「…………」
鞠花はキュッと唇を引き結び、茶碗と箸をテーブルの上に置いて息をつく。
「……刺されると思った」
呟いて、また溜め息をつく。
そのまましばらく、目の前の空間を見つめる。
やがて緊急ニュースでキャスターが事件を伝えるのを聞いて、大きく息を吸って止め、吐き出すと共に呟いた。
「…………馬鹿……」
鞠花は何かを堪えるように目を閉じ、クシャリと髪をかき回した。
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すぐに手術するための準備が始められ、必要な検査が行われたあと彼は手術室に入る。
しばらく安定するまで集中治療室に寝かされ、意識が回復したあとはホテルのような個室に移された。
両親が顔を見に来て、母が祥吾の無事を確認して泣いた。
警察も来て、祥吾は包み隠さず東に刺された事を伝えた。
刺される経緯についても、自分がクズであった事を誤魔化さずすべてを話した。
その上で祥吾は顧問弁護士に連絡を取り、また警察に個室の警備をしてもらった。
彼女が訪れたのは、修吾が個室に入って四日経った時だ。
看護師が部屋を訪れ、「西城さんという方が面会を求めているのですが、どうしますか?」と尋ねてきた。
「!!」
――鞠花だ!
――彼女が心配して、来てくれたに違いない!
暗鬱とした毎日を送っていた祥吾の目の前が、急にパァッと開けた気がした。
「通してください」
「分かりました」
凶器は臓器を損傷するに至っておらず、ごく浅い場所の傷で済んでいた。
恐らく東も感情が高ぶるあまり、どこをどう刺せば確実に殺せるなど考えていなかったのだろう。
だから祥吾は、刺された当初に予想したより、ずっと早く回復していた。
祥吾はリモコンでベッドを起こし、座った状態で鞠花を待つ。
やがて部屋の外で警官と誰かが話す声が聞こえ、横開きのドアが開かれた。
「……鞠花……!」
部屋に入ってきたのは、茶色いダッフルコートを着た鞠花だ。
髪は下ろしたままで、耳にイヤーマフをしている。
祥吾は胸の高鳴りを抑えきれず、久しぶりに彼女に会えた喜びで笑みを零す。
鞠花はイヤーマフを外し、ヒールの低いブーツで歩み寄って来る。
そしてジッと祥吾を見つめてきた。
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