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クズからの脱却
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「だって仕方ないじゃないか。俺と鞠花は、同じ学校の学生じゃない。同じ会社に勤めている訳でもない。接触があるのは、お互い会おうと思った時のデートや電話、アプリメッセージだけ。大人の恋って、大体そんなもんじゃないか?」
だが修吾に言われ、「それもそうかも……」と思い直した。
「……私、あまり恋愛らしい恋愛をしてこなかったんです。恥ずかしい話、家が大変だったので、恋愛にのめり込む余裕がありませんでした。彼氏がまだお互いの収入が安定していないのに、フワフワした将来の話をしていると、冷めてしまう悪癖もありました。だから、世間で言う大恋愛って、もっと立派な出会いやプロセスがあるのだと思っていました」
本音を話すと、修吾は息をついて笑い、鞠花と一緒にクッションにもたれ掛かる。
「それぞれ、色んな背景があるよな。こう言うと嫌みだって思われるかもしれないけど、俺は真逆で、あまりに恵まれすぎているから恋愛に対して本気になれなかった。近付いてくる女性はほぼ全員、俺の外見と家柄、社会的地位が目当てだった。最初は嫌になったけど、そのうち『だったら利用してやればいいんだ』って最低な事を考え始めた」
「……理解はできます」
「時々、『私はあなたをこんなに想ってるのに』って、金目当てじゃないとアピールしてくる女性もいた。でもそういう人に、『俺がすべてを捨てて一緒になろうって言ったら、駆け落ちしてくれる?』って言ったら、皆気まずそうに去っていった」
「んー……」
鞠花は曖昧に相槌を打つしかできない。
「結局、その程度だったんだよ。俺は金を持って見た目がいいだけのクズだ。それは自覚してる。世の中『顔さえ良ければそれでいい』っていう人もいるだろうけど、逆に俺はそんな人は嫌だ。……だから、『どうせ俺の事を誰も愛さない』ってさらにクズに拍車がかかっていった」
恐らく、修吾のような人がこのようにして自分の弱さ、格好悪いところを見せるのは、とてもレアなのだろう。
(だから、茶化さないできちんと向き合わないと)
うん、と自分に向かって頷き、鞠花は口を開いた。
「これから私とお付き合いするなら、そのクズから脱却できる……って思っていいんですか?」
「すぐクズから真人間になれるかは分からない。でも、もうすでに今まで遊んでいた女性たちとは手を切ったし、最大限の努力をする。鞠花が『嫌だ』と感じる事があったら、すぐに言ってもらったら善処する」
こちらをまっすぐに見て誓った彼は、きっと本気だ。
だから鞠花も、今まで一人で歩んできた道に、彼を招き入れようと思った。
「……分かりました。これからどうぞ宜しくお願いします。私、色々不慣れな事もあると思いますが、お互い譲歩して良いお付き合いをしていけたらと思います」
「……良かった」
修吾は安堵して笑い、ギュッと鞠花を抱き締めてきた。
鞠花もおずおずと修吾を抱き返し、照れながらチュッと彼にキスをする。
二人は幸せそうに頬を緩めて見つめ合っていたが、不意に修吾が、気まずそうに打ち明けてきた。
「実は……。こんなんなってるんだけど……」
言いながら彼が夏用の羽根布団をめくると、そこにはギンッと臨戦態勢になったモノがある。
「!」
「……もう一回、していい? 俺、割と性欲の強いほうで……」
「……も、もぉ……。……い、いいですけど……」
今までの彼氏は、修吾のように二回目を望んだ事はなかった。
(これも慣れないと……)
恥ずかしいながらも、女としての自分を求めてもらえるのは嬉しく、鞠花は再び押し倒されたのち、修吾のキスを受け入れた。
**
祥吾は生まれて初めて、身も心も満たされた幸せを感じていた。
鞠花は最高の女だ。
質素で真面目な性格で、決してつけ上がらない。
高級店でのマナーなどを教えると、すぐに吸収して身につけてゆく。
時に〝予習〟をしたのか、ネットで自分の知らないマナーを見つけると祥吾に「これはどういう場合に用いられますか?」と尋ねてくるほどの勤勉さで頭が下がる。
今まで側にいた女たちは、どこに行こうが祥吾の機嫌さえ取れていればいいという態度だった。
だが鞠花は食事一つするにも、レストランやシェフ、スタッフへの敬意を欠かさない。
祥吾が今まで店に対して横暴な客であった事はないが、鞠花の姿勢を見て学ばされるものは多々あった。
勿論、祥吾は鞠花との結婚も考えている。
祥吾は由緒正しい家柄の生まれで、親には今まで何度も縁談の話をされた。
だが祥吾は「女なんてどうせどれも同じ」という態度を貫き、見合いが良い結果になる事はなかった。
だが修吾に言われ、「それもそうかも……」と思い直した。
「……私、あまり恋愛らしい恋愛をしてこなかったんです。恥ずかしい話、家が大変だったので、恋愛にのめり込む余裕がありませんでした。彼氏がまだお互いの収入が安定していないのに、フワフワした将来の話をしていると、冷めてしまう悪癖もありました。だから、世間で言う大恋愛って、もっと立派な出会いやプロセスがあるのだと思っていました」
本音を話すと、修吾は息をついて笑い、鞠花と一緒にクッションにもたれ掛かる。
「それぞれ、色んな背景があるよな。こう言うと嫌みだって思われるかもしれないけど、俺は真逆で、あまりに恵まれすぎているから恋愛に対して本気になれなかった。近付いてくる女性はほぼ全員、俺の外見と家柄、社会的地位が目当てだった。最初は嫌になったけど、そのうち『だったら利用してやればいいんだ』って最低な事を考え始めた」
「……理解はできます」
「時々、『私はあなたをこんなに想ってるのに』って、金目当てじゃないとアピールしてくる女性もいた。でもそういう人に、『俺がすべてを捨てて一緒になろうって言ったら、駆け落ちしてくれる?』って言ったら、皆気まずそうに去っていった」
「んー……」
鞠花は曖昧に相槌を打つしかできない。
「結局、その程度だったんだよ。俺は金を持って見た目がいいだけのクズだ。それは自覚してる。世の中『顔さえ良ければそれでいい』っていう人もいるだろうけど、逆に俺はそんな人は嫌だ。……だから、『どうせ俺の事を誰も愛さない』ってさらにクズに拍車がかかっていった」
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「……分かりました。これからどうぞ宜しくお願いします。私、色々不慣れな事もあると思いますが、お互い譲歩して良いお付き合いをしていけたらと思います」
「……良かった」
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鞠花もおずおずと修吾を抱き返し、照れながらチュッと彼にキスをする。
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「!」
「……もう一回、していい? 俺、割と性欲の強いほうで……」
「……も、もぉ……。……い、いいですけど……」
今までの彼氏は、修吾のように二回目を望んだ事はなかった。
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