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甘えていいんだよ
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元彼とのセックスは、触れ合ってイチャイチャするのは好きでも、乳首や秘部を強く扱われると痛く、時に我慢が必要な行為だった。
「痛いから優しくして」と理由と要望を言えば、きっと聞き入れてくれたかもしれない。
けれど男性は性的な事において意見を言うと、とても傷ついてやる気を失うとも聞いていたので、言えなかった。
(修吾さんはどうなんだろう……。女性に慣れてそうだけど)
ソファの上で膝を抱え、鞠花は膝に顔を伏せて目を閉じた。
どれだけそうしていたのか、トントンと肩がつつかれる。
「っ……はい!?」
ウトウトしかけていた鞠花は素っ頓狂な声を上げ、バッと顔を上げた。
「疲れてる? 大丈夫か?」
目の前にはバスローブを羽織った修吾がいて、気遣わしげな目を向けていた。
「あ、いえ。大丈夫です」
「なら良かった」
彼は手に持っていた水のペットボトルを、ゴッゴッ……と喉を鳴らして飲み干してゆく。
(あ……。喉仏)
上下する喉仏を見て、彼の性を改めて意識した。
「……できる?」
トン、と空になったペットボトルをテーブルに置き、修吾が尋ねてくる。
その問いかけは、「嫌ならここで引き返してもいいよ」と、鞠花に逃げ道を示していた。
「……大丈夫です」
鞠花は立ち上がり、俯いて赤面しつつもハッキリとした声で返事をする。
「じゃあ……、おいで」
差し出された手は、大きい。
節くれ立った男性の手を見て鞠花は胸を高鳴らせ、自分の手を重ねた。
ベッドルームのすぐ手前には茶室があり、皇居を望む大きな一枚ガラスの窓の手前に、キングサイズのベッドがあった。
勿論、生まれて初めてのキングサイズベッドだ。
鞠花はおずおずとベッドの上にのり、どうしたらいいか分からず正座した。
修吾はリラックスした様子でベッドに座り、指の背で鞠花の頬を撫でてくる。
「ん……」
優しく何度か撫でられ、壊れ物でも扱うかのような手つきだ。
やがて修吾は鞠花のロングヘアに指を掻き入れ、サラサラと梳っていく。
元彼にこんな風に優しく扱われた事はなく、鞠花は戸惑って彼を見る。
「ん? どうした?」
その目に気づき、修吾が微笑む。
「……すぐ、キスしたりしないんだなって思って……」
すると彼はクシャッと笑った。
「せっかくのご馳走があるのに、すぐ食べ散らかしたら勿体ないだろう? 料理もワインも、まず見て楽しんで、香りを嗅ぐとか順番はある。女性を抱けるからってすぐにがっつくのは、慣れてない奴のする事だ。相手はちゃんと心のある、人間だからな」
鞠花を見つめ、修吾は彼女の頭を撫でる。
「…………っ」
頭を撫でられた事など、子供の頃以来ない。
甘えていいんだよ、というサインに思えて、長年「一人で頑張らないと」と張り詰めてきた鞠花の心が震える。
このままでは泣き出してしまいそうで、鞠花は下を向き必死に唇を噛む。
彼女の心の内を察したかのように、修吾が囁いてきた。
「甘えていいんだよ。抱きついて、泣いてもいい。セックスは心を見せる行為だから。鞠花が俺を信頼して心を見せてくれるなら、きっとお互い気持ち良くなれると思う」
修吾の言葉が、やけに胸に響いた。
元彼と修吾を比べてはいけないが、自分は元彼に甘えられていなかったと今自覚した。
いつも気を張っていて、元彼の前でも「きちんとしないと」と思っていた。
彼の少しだらしない所を見つけては、「仕方ないなぁ」と母親のように思って、悪癖が直ればいいなとやんわり注意をしていた。
時々、「お前って母親みたいだよな」と言われたあの台詞は、きっと鞠花が甘える事を望む裏返しの言葉だったのだろうか。
――申し訳ない。
今さらになってズシッと情けなさと悲しみが押し寄せ、涙が零れる。
「……っごめ、……なさ……っ」
こみ上げたものを堪えきれず、鞠花は小さく嗚咽しだす。
「痛いから優しくして」と理由と要望を言えば、きっと聞き入れてくれたかもしれない。
けれど男性は性的な事において意見を言うと、とても傷ついてやる気を失うとも聞いていたので、言えなかった。
(修吾さんはどうなんだろう……。女性に慣れてそうだけど)
ソファの上で膝を抱え、鞠花は膝に顔を伏せて目を閉じた。
どれだけそうしていたのか、トントンと肩がつつかれる。
「っ……はい!?」
ウトウトしかけていた鞠花は素っ頓狂な声を上げ、バッと顔を上げた。
「疲れてる? 大丈夫か?」
目の前にはバスローブを羽織った修吾がいて、気遣わしげな目を向けていた。
「あ、いえ。大丈夫です」
「なら良かった」
彼は手に持っていた水のペットボトルを、ゴッゴッ……と喉を鳴らして飲み干してゆく。
(あ……。喉仏)
上下する喉仏を見て、彼の性を改めて意識した。
「……できる?」
トン、と空になったペットボトルをテーブルに置き、修吾が尋ねてくる。
その問いかけは、「嫌ならここで引き返してもいいよ」と、鞠花に逃げ道を示していた。
「……大丈夫です」
鞠花は立ち上がり、俯いて赤面しつつもハッキリとした声で返事をする。
「じゃあ……、おいで」
差し出された手は、大きい。
節くれ立った男性の手を見て鞠花は胸を高鳴らせ、自分の手を重ねた。
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「ん……」
優しく何度か撫でられ、壊れ物でも扱うかのような手つきだ。
やがて修吾は鞠花のロングヘアに指を掻き入れ、サラサラと梳っていく。
元彼にこんな風に優しく扱われた事はなく、鞠花は戸惑って彼を見る。
「ん? どうした?」
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「……すぐ、キスしたりしないんだなって思って……」
すると彼はクシャッと笑った。
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鞠花を見つめ、修吾は彼女の頭を撫でる。
「…………っ」
頭を撫でられた事など、子供の頃以来ない。
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このままでは泣き出してしまいそうで、鞠花は下を向き必死に唇を噛む。
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――申し訳ない。
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こみ上げたものを堪えきれず、鞠花は小さく嗚咽しだす。
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