19 / 40
ホテル
しおりを挟む
けれどここで目を逸らしたら、気持ちを真摯に伝えられない気がした。
修吾は尋ねられて一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得したような、苦笑いの表情になった。
「ならないよ。それは言える。逆に鞠花がもっと引く事を言えば、鞠花となら結婚してもいいと思ってる」
結婚と言われ、鞠花のほうこそ驚いて目をまん丸にした。
「こんな風に価値観を書き換えられたのは初めてなんだ。今までの俺はとても最低な人間だった。そんな俺に鞠花は一般人の常識と、表面だけで判断しない誠実さを教えてくれた。俺は人をあまり簡単に信用しない。でも、鞠花は勘で『信じていい』と思っているんだ。……あんまりにも直感的で、自分でも笑ってしまうんだが」
聞けば三十四歳という修吾が、学生のような事を言ってはにかんでいる。
けれど彼の環境を考えると、今まで人を信じられずに過ごしてきたというは仕方がないように思えた。
「……じゃあ、信じます」
鞠花の心の奥に、コトリと納得が落ちる。
だから彼女は頷いていた。
**
入ったのは日比谷にある五つ星ホテルだった。
生まれて初めて入るスイートルームを一通り満喫したあと、裸を見られるのは恥ずかしいからと、一人で風呂に入らせてもらった。
東京の夜景を見下ろしながらジェットバスに入るのがとてもゴージャスで、それだけで満足してしまったが、ここには修吾に抱かれるために来た。
(もっとエステとか行ってれば良かった)
シャワーブースで丁寧に髪と体を洗った鞠花は、しっかり温まりながら溜め息をつく。
一応、同僚にデート前に何に気を遣っているか尋ね、とりあえず自宅でパックやスクラブなどを全身に念入りに施してきた。
幸か不幸か、脱毛はしてある。
というのも男性のためではなく、病院勤めをしていると「脱毛してあると、下のお世話するのに楽だよね」という生々しい話を同僚としていたからだ。
自分にもいつ何が起こるか分からず、その時は衛生を考えてお金のあるうちに脱毛を……と思い、してあったのだ。
「肌……、気持ちいいって思ってくれたらいいな」
何とはなしに自分の腕や太腿を撫でれば、自分では「悪くない」と思える手触りがある。
全身の無駄毛という無駄毛を脱毛したので、どこもかしこもスベスベ……と自分では思っている肌が、密かな自慢だった。
他の女性だって普通に脱毛している時代だし、肌の手入れをしている人はもっとしているので、自分が特別にとは思わないが。
(あんまり待たせても悪いから、そろそろ出よう)
絶景を見下ろしながらの風呂に別れを告げ、バスルームを出た鞠花はバスタオルで丁寧に体を拭き、今日のための少しいい下着をつける。
ドライヤーで髪を乾かし、有名ハイブランドのアメニティを恐る恐る使い、最後に火照りが収まった体にバスローブを羽織った。
「お待たせしました」
リビングに戻ると、修吾はオットマンに足をのせて水割りを飲んでいた。
「もっとゆっくり入っていても良かったのに。俺も入っていいか?」
「どうぞ」
「キッチンにある飲み物は自由に飲んでいいよ」
「はい、お気遣いありがとうございます」
鞠花に微笑んだあと、修吾はバスルームに向かった。
シャンデリアの下がったラグジュアリーなリビングを見回し、窓辺に寄って摩天楼をぼんやりと眺める。
やがて鞠花は息をつくと、厚意に甘えてキッチンに向かう事にした。
冷蔵庫にはいわゆるミニバー的に様々な飲料が入っていて、他にワインやブランデーなどもある。
(凄いな……)
触るのは怖いので見るだけだが、どれも一本数万円以上しそうだ。
大人しく水のペットボトルをもらうと、鞠花はリビングに戻ってソファに座り、コクコクと飲み始めた。
(男の人に抱かれるのって、久しぶりだな)
そう思うと今更ながらドキドキしてくる。
夕食からはあっという間の流れだったので、受け入れたものの状況を冷静に理解できないままだった。
別に変態的な事をされる訳ではない。
二十代にもなればセックスなど誰でも普通にしている。
元彼とは大した喧嘩はせず、セックスにも不満はなかった。
ただ時々友人が「凄く上手い人がいて、とっても気持ち良かった」と言っていた事については、未知の領域だった。
修吾は尋ねられて一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得したような、苦笑いの表情になった。
「ならないよ。それは言える。逆に鞠花がもっと引く事を言えば、鞠花となら結婚してもいいと思ってる」
結婚と言われ、鞠花のほうこそ驚いて目をまん丸にした。
「こんな風に価値観を書き換えられたのは初めてなんだ。今までの俺はとても最低な人間だった。そんな俺に鞠花は一般人の常識と、表面だけで判断しない誠実さを教えてくれた。俺は人をあまり簡単に信用しない。でも、鞠花は勘で『信じていい』と思っているんだ。……あんまりにも直感的で、自分でも笑ってしまうんだが」
聞けば三十四歳という修吾が、学生のような事を言ってはにかんでいる。
けれど彼の環境を考えると、今まで人を信じられずに過ごしてきたというは仕方がないように思えた。
「……じゃあ、信じます」
鞠花の心の奥に、コトリと納得が落ちる。
だから彼女は頷いていた。
**
入ったのは日比谷にある五つ星ホテルだった。
生まれて初めて入るスイートルームを一通り満喫したあと、裸を見られるのは恥ずかしいからと、一人で風呂に入らせてもらった。
東京の夜景を見下ろしながらジェットバスに入るのがとてもゴージャスで、それだけで満足してしまったが、ここには修吾に抱かれるために来た。
(もっとエステとか行ってれば良かった)
シャワーブースで丁寧に髪と体を洗った鞠花は、しっかり温まりながら溜め息をつく。
一応、同僚にデート前に何に気を遣っているか尋ね、とりあえず自宅でパックやスクラブなどを全身に念入りに施してきた。
幸か不幸か、脱毛はしてある。
というのも男性のためではなく、病院勤めをしていると「脱毛してあると、下のお世話するのに楽だよね」という生々しい話を同僚としていたからだ。
自分にもいつ何が起こるか分からず、その時は衛生を考えてお金のあるうちに脱毛を……と思い、してあったのだ。
「肌……、気持ちいいって思ってくれたらいいな」
何とはなしに自分の腕や太腿を撫でれば、自分では「悪くない」と思える手触りがある。
全身の無駄毛という無駄毛を脱毛したので、どこもかしこもスベスベ……と自分では思っている肌が、密かな自慢だった。
他の女性だって普通に脱毛している時代だし、肌の手入れをしている人はもっとしているので、自分が特別にとは思わないが。
(あんまり待たせても悪いから、そろそろ出よう)
絶景を見下ろしながらの風呂に別れを告げ、バスルームを出た鞠花はバスタオルで丁寧に体を拭き、今日のための少しいい下着をつける。
ドライヤーで髪を乾かし、有名ハイブランドのアメニティを恐る恐る使い、最後に火照りが収まった体にバスローブを羽織った。
「お待たせしました」
リビングに戻ると、修吾はオットマンに足をのせて水割りを飲んでいた。
「もっとゆっくり入っていても良かったのに。俺も入っていいか?」
「どうぞ」
「キッチンにある飲み物は自由に飲んでいいよ」
「はい、お気遣いありがとうございます」
鞠花に微笑んだあと、修吾はバスルームに向かった。
シャンデリアの下がったラグジュアリーなリビングを見回し、窓辺に寄って摩天楼をぼんやりと眺める。
やがて鞠花は息をつくと、厚意に甘えてキッチンに向かう事にした。
冷蔵庫にはいわゆるミニバー的に様々な飲料が入っていて、他にワインやブランデーなどもある。
(凄いな……)
触るのは怖いので見るだけだが、どれも一本数万円以上しそうだ。
大人しく水のペットボトルをもらうと、鞠花はリビングに戻ってソファに座り、コクコクと飲み始めた。
(男の人に抱かれるのって、久しぶりだな)
そう思うと今更ながらドキドキしてくる。
夕食からはあっという間の流れだったので、受け入れたものの状況を冷静に理解できないままだった。
別に変態的な事をされる訳ではない。
二十代にもなればセックスなど誰でも普通にしている。
元彼とは大した喧嘩はせず、セックスにも不満はなかった。
ただ時々友人が「凄く上手い人がいて、とっても気持ち良かった」と言っていた事については、未知の領域だった。
4
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる