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君を抱きたい
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完全個室の店でコース料理を頼み、出てくるのはすべて米沢牛を使ったものばかりで圧倒された。
たらふく牛肉を食べたあとは、季節のフルーツと葛切りを頂いた。
「あぁ、美味しかった……。ご馳走様でした」
掘りごたつの個室に座っていた鞠花はお腹をさする。
「美味かった?」
「すっごい美味しかったです! こんなの初めて」
肉なのに口の中でとろける食感は生まれて初めてで、自分がいつも食べている物とは大違いだ。
鞠花が牛肉を食べるのは、少し奮発した特別な時だ。
けれど世の中には肉にもランクというものがあり、頂点にある肉はまったく違う物なのだと思い知った。
「はぁ……。幸せ……」
目を閉じてホウ……と息をついた鞠花を、修吾は優しい目で見ている。
「こんな事でそんなに心底『幸せ』って言ってくれるなら、これからも美味い物をご馳走してあげたいな」
「んふふ。たまーに、で。舌が慣れたらご贅沢病になっちゃいます」
「贅沢病か……」
修吾はしみじみとその言葉を呟き、心当たりがあるのか苦く笑っている。
鞠花は満腹になってぼんやりした頭で、彼に何かお礼ができないか考えていた。
「修吾さん、私に何かしてほしい事ってあります?」
目を開けて彼を見ると、「え?」と瞬きをしている。
「修吾さんが『ご馳走しないと格好がつかない』って言いたいの、男の人の見栄として分かります。でも私だってどこか申し訳ないです。……だから、私にできる事があったら、何でも教えてください」
水を飲んで微笑んだが、修吾はきまりの悪い顔をしている。
何か言いたい事があるのに、言えない。
そんな顔だ。
「どうしました? 無理な案件でも、言うだけタダですよ?」
言った鞠花の足に、トンと修吾の足が当たった。
(ん?)
フットカバーを履いた鞠花の足を、修吾は足でスリ……と撫でる。
今まで彼にエスコート以外で触れられた事がなかったので、妙にその足でのタッチを意識してしまった。
そしてこちらを物言いたげに見ている彼の意図を、何となく察してしまう。
――思い上がりかもしれない。
けれど……。
「……嫌だったら言ってほしい。拒絶しても、今後の俺の態度は変わらないから」
慎重に前置きをされ、「もしかして」と胸が高鳴る。
「……鞠花がほしい。……君を抱きたい」
ストレートな欲求を向けられ、久方ぶりに体の深部で女の本能がジワリと疼いた。
「…………っ」
思わず鞠花は赤面して俯き、スカートの生地をクシャリと握りしめる。
「本当は初対面の時から、鞠花に魅力を感じていた。……こう言ったら『不潔だ』って思われるかもしれないけど、今までその気になったら〝すぐ〟抱けたんだ。でも鞠花だけは、ちゃんと時間をかけて親密になり、君の意志を尋ねてからと思った」
特別扱いをしていると言われ、ドキドキと高鳴る鼓動が止まらない。
「嘘に聞こえるかもしれないけど、鞠花にはとても真剣に向き合っている。信じられないかもしれないけど、鞠花と出会ってから他の女性と会ってない」
ソロリと視線を上げると、修吾の熱っぽい目と視線がかち合った。
「っ…………わ、私……」
ここまで想われていたと知らず、鞠花は肩を竦めまた俯く。
病院では問題のある患者にも、夜勤の幽霊にもどんと構えていた鞠花が、修吾の告白を聞いてうろたえていた。
「……嫌か? 信用できない?」
修吾の足の先が、ほんの少し鞠花の足の指に重なる。
なぜか手を握られているよりも、ずっと卑猥に思えた。
「……失礼な質問をしていいですか?」
「何でも聞いて」
微笑んだ修吾の前で、鞠花は唇を歪める。
本当に失礼な事を言う自覚はあり、彼を怒らせてしまう可能性だってある。
だからこそすぐに言えなかったのだが、深い関係になるのなら、きちんと確認しなければいけないと思った。
「……一回抱いて満足したら、それで終わりになりませんか?」
修吾の目を見つめ、彼の真意を測るように尋ねる。
本当はこんな事は聞いてはいけない。
とても失礼な質問だと分かっていたからこそ、すぐに目を逸らしてしまいたかった。
たらふく牛肉を食べたあとは、季節のフルーツと葛切りを頂いた。
「あぁ、美味しかった……。ご馳走様でした」
掘りごたつの個室に座っていた鞠花はお腹をさする。
「美味かった?」
「すっごい美味しかったです! こんなの初めて」
肉なのに口の中でとろける食感は生まれて初めてで、自分がいつも食べている物とは大違いだ。
鞠花が牛肉を食べるのは、少し奮発した特別な時だ。
けれど世の中には肉にもランクというものがあり、頂点にある肉はまったく違う物なのだと思い知った。
「はぁ……。幸せ……」
目を閉じてホウ……と息をついた鞠花を、修吾は優しい目で見ている。
「こんな事でそんなに心底『幸せ』って言ってくれるなら、これからも美味い物をご馳走してあげたいな」
「んふふ。たまーに、で。舌が慣れたらご贅沢病になっちゃいます」
「贅沢病か……」
修吾はしみじみとその言葉を呟き、心当たりがあるのか苦く笑っている。
鞠花は満腹になってぼんやりした頭で、彼に何かお礼ができないか考えていた。
「修吾さん、私に何かしてほしい事ってあります?」
目を開けて彼を見ると、「え?」と瞬きをしている。
「修吾さんが『ご馳走しないと格好がつかない』って言いたいの、男の人の見栄として分かります。でも私だってどこか申し訳ないです。……だから、私にできる事があったら、何でも教えてください」
水を飲んで微笑んだが、修吾はきまりの悪い顔をしている。
何か言いたい事があるのに、言えない。
そんな顔だ。
「どうしました? 無理な案件でも、言うだけタダですよ?」
言った鞠花の足に、トンと修吾の足が当たった。
(ん?)
フットカバーを履いた鞠花の足を、修吾は足でスリ……と撫でる。
今まで彼にエスコート以外で触れられた事がなかったので、妙にその足でのタッチを意識してしまった。
そしてこちらを物言いたげに見ている彼の意図を、何となく察してしまう。
――思い上がりかもしれない。
けれど……。
「……嫌だったら言ってほしい。拒絶しても、今後の俺の態度は変わらないから」
慎重に前置きをされ、「もしかして」と胸が高鳴る。
「……鞠花がほしい。……君を抱きたい」
ストレートな欲求を向けられ、久方ぶりに体の深部で女の本能がジワリと疼いた。
「…………っ」
思わず鞠花は赤面して俯き、スカートの生地をクシャリと握りしめる。
「本当は初対面の時から、鞠花に魅力を感じていた。……こう言ったら『不潔だ』って思われるかもしれないけど、今までその気になったら〝すぐ〟抱けたんだ。でも鞠花だけは、ちゃんと時間をかけて親密になり、君の意志を尋ねてからと思った」
特別扱いをしていると言われ、ドキドキと高鳴る鼓動が止まらない。
「嘘に聞こえるかもしれないけど、鞠花にはとても真剣に向き合っている。信じられないかもしれないけど、鞠花と出会ってから他の女性と会ってない」
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「っ…………わ、私……」
ここまで想われていたと知らず、鞠花は肩を竦めまた俯く。
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「……嫌か? 信用できない?」
修吾の足の先が、ほんの少し鞠花の足の指に重なる。
なぜか手を握られているよりも、ずっと卑猥に思えた。
「……失礼な質問をしていいですか?」
「何でも聞いて」
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本当に失礼な事を言う自覚はあり、彼を怒らせてしまう可能性だってある。
だからこそすぐに言えなかったのだが、深い関係になるのなら、きちんと確認しなければいけないと思った。
「……一回抱いて満足したら、それで終わりになりませんか?」
修吾の目を見つめ、彼の真意を測るように尋ねる。
本当はこんな事は聞いてはいけない。
とても失礼な質問だと分かっていたからこそ、すぐに目を逸らしてしまいたかった。
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