【R-18】悪人は聖母に跪く

臣桜

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お礼

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 その後、前菜からコース料理が提供される。

 見るも綺麗な料理を、失敗しないように丁寧に食べるのに精一杯で、あまり修吾との会話が弾んでいない。

 パンに添えられるバターは、大理石のプレートの上に載せられていて演出の仕方が違う。
 前菜二皿に魚料理、肉料理の仔牛のローストが出される。

 いつもの鞠花なら「お肉がたった二きれ?」と思ってしまうが、料理と料理の間に絶妙な間があるので、段々お腹一杯になってきていた。
 加えてその肉がとても柔らかくて美味しい。

 目の前で修吾が残っていたパンをちぎり、ソースをすくって食べたのでこっそり真似をしたが、なるほどフレンチではこのようにパンを食べる方法もあるのかと納得した。

 メイン料理が終わったあと、デザートになるのかと思いきやチーズが出される。
 ワゴンの上に様々な種類のチーズやドライフルーツが並んでいて、ギャルソンが「どれになさいますか?」と種類を説明してくれた。

「鞠花さんはチーズ、お好きですか?」

「はい。……と言ってもお恥ずかしい事に、裂けるチーズとかなんですが……」

「じゃあ、物は試しに全種類少しずつ頂きましょうか」

「い、いいんですか?」

 本当は全部食べてみたいなと思っていたのだが、さすがに図々しいかと思い黙っていた。
 けれど修吾は見透かしたように提案してくれ、少し経ってから黒い正方形のプレートに、少しずつカットされたチーズとドライフルーツが並んだ。

「いただきます……」

 説明された中には山羊のチーズや羊のチーズ、聞き慣れないウォッシュチーズという物もあり、知っているのはハードチーズとカマンベールチーズだ。

 何せ十種類近くあるので説明もあまり覚えておらず、近くにあった物を食器に載せる。

 その食器というのも洒落ていて、小さな丸太を模した台だ。

「……ん、美味しい……!」

 コクと風味のあるチーズに思わず笑顔になると、向かいで修吾も笑ってくれる。

 彼は赤ワインを口にしながらチーズを食べていて、うっすらとした記憶でそれがマリアージュと呼ばれるものなのだと思い出した。

 チーズを食べ終えようとしたあたりで、ギャルソンがケーキを持ってきた。

「こちら、記念日用のケーキでございます」

「えっ!?」

 記念日と言われ、突如として恥ずかしくなってくる。

 十五センチほどの小さめのホールケーキには美しいバラの花が咲き、ガラスの皿はエディブルフラワーで飾り付けがされていた。
 皿の上にはチョコレートソースで『Thankyou Marika』と、修吾からの感謝が綴られてある。

「しゅ、修吾さん……」

「これからコースのデザートが出るので、もしお腹一杯なら持ち帰ってください」

「い、いいんですか? だって修吾さんも食べたくありません?」

 見るも綺麗なケーキで、せっかく用意されたなら二人で……と思う。

「これは鞠花さんへのお礼のケーキですから。もしご迷惑でなければ、持ち帰って食べてください。きっと美味しいですよ」

「じゃ、じゃあ……そうさせて頂きます」

 ケーキは包んでもらう事になり、鞠花はあまりによくしてもらってばかりで溜め息をつく。

 メインデザートは、このレストランでスペシャリテ――自慢の逸品として出されている、丸ごと一つの桃のコンポートにソースを掛け、ピスタチオアイスクリームを添えた物だ。

「……っ、おい、しい……っ!」

 今まで出された食事も美味しいのだが、スペシャリテというだけあって格別に美味しい。
 もうお腹一杯で入らないと思っていても、ついついスプーンが進んでしまう。

「今日一番の笑顔、頂きました」

 それに修吾も冗談めかして言ってくれ、笑顔が絶えない。

 最後にコーヒーと、さらにコーヒーのための小菓子が出され、ようやく鞠花は一息つく。

「……はぁ、ご馳走様でした。美味しかったぁ……」

 香りが良く深みのあるコーヒーにミルクを入れ、味わいながら飲んで鞠花が笑う。

「どう致しまして。本当に命を救ってくれた事に比べたら、大したお礼じゃないんですが」

「いいえ、もう十分お気持ちは受け取りました」

 料理に集中するだけでなく、合間に少しずつ会話をしたが、修吾が何の会社の社長であるかなど立ち入った事は聞かなかった。

 自分たちはこの距離感が丁度いいのだと思う。

「これで俺の〝お礼〟がすべてと思われたら、困るんですが……」

 けれど意味深な微笑みを浮かべられ、鞠花は戸惑う。

「ですが、これ以上の事なんて……」

「広い家に住みたくありませんか? 服もコスメも靴もバッグも、望む物を買って差し上げます」

 とんでもない提案をされ、鞠花は目を丸くする。

 一瞬、異次元にいる人間ではない何かと話している気持ちになった。
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