14 / 40
お礼
しおりを挟む
その後、前菜からコース料理が提供される。
見るも綺麗な料理を、失敗しないように丁寧に食べるのに精一杯で、あまり修吾との会話が弾んでいない。
パンに添えられるバターは、大理石のプレートの上に載せられていて演出の仕方が違う。
前菜二皿に魚料理、肉料理の仔牛のローストが出される。
いつもの鞠花なら「お肉がたった二きれ?」と思ってしまうが、料理と料理の間に絶妙な間があるので、段々お腹一杯になってきていた。
加えてその肉がとても柔らかくて美味しい。
目の前で修吾が残っていたパンをちぎり、ソースをすくって食べたのでこっそり真似をしたが、なるほどフレンチではこのようにパンを食べる方法もあるのかと納得した。
メイン料理が終わったあと、デザートになるのかと思いきやチーズが出される。
ワゴンの上に様々な種類のチーズやドライフルーツが並んでいて、ギャルソンが「どれになさいますか?」と種類を説明してくれた。
「鞠花さんはチーズ、お好きですか?」
「はい。……と言ってもお恥ずかしい事に、裂けるチーズとかなんですが……」
「じゃあ、物は試しに全種類少しずつ頂きましょうか」
「い、いいんですか?」
本当は全部食べてみたいなと思っていたのだが、さすがに図々しいかと思い黙っていた。
けれど修吾は見透かしたように提案してくれ、少し経ってから黒い正方形のプレートに、少しずつカットされたチーズとドライフルーツが並んだ。
「いただきます……」
説明された中には山羊のチーズや羊のチーズ、聞き慣れないウォッシュチーズという物もあり、知っているのはハードチーズとカマンベールチーズだ。
何せ十種類近くあるので説明もあまり覚えておらず、近くにあった物を食器に載せる。
その食器というのも洒落ていて、小さな丸太を模した台だ。
「……ん、美味しい……!」
コクと風味のあるチーズに思わず笑顔になると、向かいで修吾も笑ってくれる。
彼は赤ワインを口にしながらチーズを食べていて、うっすらとした記憶でそれがマリアージュと呼ばれるものなのだと思い出した。
チーズを食べ終えようとしたあたりで、ギャルソンがケーキを持ってきた。
「こちら、記念日用のケーキでございます」
「えっ!?」
記念日と言われ、突如として恥ずかしくなってくる。
十五センチほどの小さめのホールケーキには美しいバラの花が咲き、ガラスの皿はエディブルフラワーで飾り付けがされていた。
皿の上にはチョコレートソースで『Thankyou Marika』と、修吾からの感謝が綴られてある。
「しゅ、修吾さん……」
「これからコースのデザートが出るので、もしお腹一杯なら持ち帰ってください」
「い、いいんですか? だって修吾さんも食べたくありません?」
見るも綺麗なケーキで、せっかく用意されたなら二人で……と思う。
「これは鞠花さんへのお礼のケーキですから。もしご迷惑でなければ、持ち帰って食べてください。きっと美味しいですよ」
「じゃ、じゃあ……そうさせて頂きます」
ケーキは包んでもらう事になり、鞠花はあまりによくしてもらってばかりで溜め息をつく。
メインデザートは、このレストランでスペシャリテ――自慢の逸品として出されている、丸ごと一つの桃のコンポートにソースを掛け、ピスタチオアイスクリームを添えた物だ。
「……っ、おい、しい……っ!」
今まで出された食事も美味しいのだが、スペシャリテというだけあって格別に美味しい。
もうお腹一杯で入らないと思っていても、ついついスプーンが進んでしまう。
「今日一番の笑顔、頂きました」
それに修吾も冗談めかして言ってくれ、笑顔が絶えない。
最後にコーヒーと、さらにコーヒーのための小菓子が出され、ようやく鞠花は一息つく。
「……はぁ、ご馳走様でした。美味しかったぁ……」
香りが良く深みのあるコーヒーにミルクを入れ、味わいながら飲んで鞠花が笑う。
「どう致しまして。本当に命を救ってくれた事に比べたら、大したお礼じゃないんですが」
「いいえ、もう十分お気持ちは受け取りました」
料理に集中するだけでなく、合間に少しずつ会話をしたが、修吾が何の会社の社長であるかなど立ち入った事は聞かなかった。
自分たちはこの距離感が丁度いいのだと思う。
「これで俺の〝お礼〟がすべてと思われたら、困るんですが……」
けれど意味深な微笑みを浮かべられ、鞠花は戸惑う。
「ですが、これ以上の事なんて……」
「広い家に住みたくありませんか? 服もコスメも靴もバッグも、望む物を買って差し上げます」
とんでもない提案をされ、鞠花は目を丸くする。
一瞬、異次元にいる人間ではない何かと話している気持ちになった。
見るも綺麗な料理を、失敗しないように丁寧に食べるのに精一杯で、あまり修吾との会話が弾んでいない。
パンに添えられるバターは、大理石のプレートの上に載せられていて演出の仕方が違う。
前菜二皿に魚料理、肉料理の仔牛のローストが出される。
いつもの鞠花なら「お肉がたった二きれ?」と思ってしまうが、料理と料理の間に絶妙な間があるので、段々お腹一杯になってきていた。
加えてその肉がとても柔らかくて美味しい。
目の前で修吾が残っていたパンをちぎり、ソースをすくって食べたのでこっそり真似をしたが、なるほどフレンチではこのようにパンを食べる方法もあるのかと納得した。
メイン料理が終わったあと、デザートになるのかと思いきやチーズが出される。
ワゴンの上に様々な種類のチーズやドライフルーツが並んでいて、ギャルソンが「どれになさいますか?」と種類を説明してくれた。
「鞠花さんはチーズ、お好きですか?」
「はい。……と言ってもお恥ずかしい事に、裂けるチーズとかなんですが……」
「じゃあ、物は試しに全種類少しずつ頂きましょうか」
「い、いいんですか?」
本当は全部食べてみたいなと思っていたのだが、さすがに図々しいかと思い黙っていた。
けれど修吾は見透かしたように提案してくれ、少し経ってから黒い正方形のプレートに、少しずつカットされたチーズとドライフルーツが並んだ。
「いただきます……」
説明された中には山羊のチーズや羊のチーズ、聞き慣れないウォッシュチーズという物もあり、知っているのはハードチーズとカマンベールチーズだ。
何せ十種類近くあるので説明もあまり覚えておらず、近くにあった物を食器に載せる。
その食器というのも洒落ていて、小さな丸太を模した台だ。
「……ん、美味しい……!」
コクと風味のあるチーズに思わず笑顔になると、向かいで修吾も笑ってくれる。
彼は赤ワインを口にしながらチーズを食べていて、うっすらとした記憶でそれがマリアージュと呼ばれるものなのだと思い出した。
チーズを食べ終えようとしたあたりで、ギャルソンがケーキを持ってきた。
「こちら、記念日用のケーキでございます」
「えっ!?」
記念日と言われ、突如として恥ずかしくなってくる。
十五センチほどの小さめのホールケーキには美しいバラの花が咲き、ガラスの皿はエディブルフラワーで飾り付けがされていた。
皿の上にはチョコレートソースで『Thankyou Marika』と、修吾からの感謝が綴られてある。
「しゅ、修吾さん……」
「これからコースのデザートが出るので、もしお腹一杯なら持ち帰ってください」
「い、いいんですか? だって修吾さんも食べたくありません?」
見るも綺麗なケーキで、せっかく用意されたなら二人で……と思う。
「これは鞠花さんへのお礼のケーキですから。もしご迷惑でなければ、持ち帰って食べてください。きっと美味しいですよ」
「じゃ、じゃあ……そうさせて頂きます」
ケーキは包んでもらう事になり、鞠花はあまりによくしてもらってばかりで溜め息をつく。
メインデザートは、このレストランでスペシャリテ――自慢の逸品として出されている、丸ごと一つの桃のコンポートにソースを掛け、ピスタチオアイスクリームを添えた物だ。
「……っ、おい、しい……っ!」
今まで出された食事も美味しいのだが、スペシャリテというだけあって格別に美味しい。
もうお腹一杯で入らないと思っていても、ついついスプーンが進んでしまう。
「今日一番の笑顔、頂きました」
それに修吾も冗談めかして言ってくれ、笑顔が絶えない。
最後にコーヒーと、さらにコーヒーのための小菓子が出され、ようやく鞠花は一息つく。
「……はぁ、ご馳走様でした。美味しかったぁ……」
香りが良く深みのあるコーヒーにミルクを入れ、味わいながら飲んで鞠花が笑う。
「どう致しまして。本当に命を救ってくれた事に比べたら、大したお礼じゃないんですが」
「いいえ、もう十分お気持ちは受け取りました」
料理に集中するだけでなく、合間に少しずつ会話をしたが、修吾が何の会社の社長であるかなど立ち入った事は聞かなかった。
自分たちはこの距離感が丁度いいのだと思う。
「これで俺の〝お礼〟がすべてと思われたら、困るんですが……」
けれど意味深な微笑みを浮かべられ、鞠花は戸惑う。
「ですが、これ以上の事なんて……」
「広い家に住みたくありませんか? 服もコスメも靴もバッグも、望む物を買って差し上げます」
とんでもない提案をされ、鞠花は目を丸くする。
一瞬、異次元にいる人間ではない何かと話している気持ちになった。
12
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる