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偶然釣った魚は鯛
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そんな欲がわき起こって堪らない。
「……畜生。イライラする……」
ままならない感情を抱き、祥吾は舌打ちする。
調子を崩されている自分を誤魔化すために、彼は鞠花が喜びそうなレストランを手配する事を決め、当日の流れもシミュレーションし始めた。
**
修吾を助けたのは日曜日の早朝だ。
それからまた鞠花の毎日が始まっていくのだが、その中に〝修吾からの連絡〟という異分子が混じり始める。
二年彼氏がいなかったため、修吾から連絡があると、やけに浮き足だってしまう自分がいる。
(彼はただ恩返しをしたいだけなんだから、調子に乗らないようにしないと)
そう思っていた水曜日の夕方、マンションに来客があった。
火曜日に修吾から水曜日の予定を聞かれ、夜勤明けで午後には起きるという旨を伝えたので、彼かと思ったのだが――。
「だ、誰ですか?」
目を瞬かせた先には、知らない人が数人いる。
とてもお洒落で洗練された女性に、こちらも夏場なのにきちんとスーツを着た男性。
全員手に何らかの荷物を持っていて、何事なのかよく分からない。
「修吾さまよりご依頼がありまして、金曜日の準備のためにお荷物をお届けに上がりました」
「ど……どうも。ご苦労様です……」
お洒落な宅配の一種なのかと思っていると、女性が「少し上がらせて頂いても構いませんか?」と尋ねてくる。
「どういうご用件でしょうか?」
修吾の……と言われて安堵したものの、業者を家の中に入れて押し売りをされては困る。
「金曜日に修吾さまとお食事をされるに当たって、西城さまが気に入る服や靴などを確認してほしいというご依頼です。もちろん、西城さまが買い取る必要はありません。料金は修吾さまがお支払いで、西城さまには『気に入った物を身につけて、金曜日に来てほしい』との事です」
「えぇ……?」
どこのシンデレラだ、と心の中で突っ込みながら、鞠花は一応信頼して彼女たちを家の中に入れる。
「狭くてすみません」
「いいえ、とんでもございません」
女性は高級アパレルブランドの紙袋を床に置き、そこから薄紙に包まれた数着のワンピースを取り出す。
同様に他の者は箱から様々な色、形のハイヒールを出し、また別の者はそういう事に疎い鞠花でも知っている、ハイブランドの紙袋から箱を出し、ハンドバッグを取りだした。
「えっ? えぇえ……」
あまりに高価な物が並び、鞠花は嬉しいというより引き気味でそれらを眺める。
「こんな高価な物、受け取れません」
「ですが、もう修吾さまが買い取りされたあとですので……」
「うっ……」
正確な値段は分からないが、数万円で済まないのは確かだ。
(……胃が痛い……)
渋々……という感じで、鞠花は彼女たちが持ってきたワンピースや靴を試着し、果ては体のサイズも測られて明日には下着も持って来られる羽目となった。
**
同僚や先輩から「やけにソワソワしてるね?」とからかわれつつ木曜日の夜勤を終え、金曜日の昼間に鞠花は起きた。
「はぁ……」
一応、木曜日に夜勤に行く前、ネイルサロンを予約してハンドとフットのケアのみしてもらった。
足をお湯につけて踵の角質を落とし、手足ともに甘皮処理をされて爪を磨かれる。
そのあとはいい匂いのするオイルでマッサージされ、ピカピカになった爪を見て満足した。
職場にネイルはしていけないので、着ていく服に合わせて買ったポリッシュネイルを塗る事にした。
「食事をするだけなのに、こんな大事になると思わなかった……」
鞠花としてはその辺の少しお洒落なレストランに入って、話して終わり……と思っていただけなのだが、そうはいかないようだ。
「お金持ちなんだろうなぁ……」
ハァ……、と溜め息をつき、理想と現実は違う……と痛感した。
「……畜生。イライラする……」
ままならない感情を抱き、祥吾は舌打ちする。
調子を崩されている自分を誤魔化すために、彼は鞠花が喜びそうなレストランを手配する事を決め、当日の流れもシミュレーションし始めた。
**
修吾を助けたのは日曜日の早朝だ。
それからまた鞠花の毎日が始まっていくのだが、その中に〝修吾からの連絡〟という異分子が混じり始める。
二年彼氏がいなかったため、修吾から連絡があると、やけに浮き足だってしまう自分がいる。
(彼はただ恩返しをしたいだけなんだから、調子に乗らないようにしないと)
そう思っていた水曜日の夕方、マンションに来客があった。
火曜日に修吾から水曜日の予定を聞かれ、夜勤明けで午後には起きるという旨を伝えたので、彼かと思ったのだが――。
「だ、誰ですか?」
目を瞬かせた先には、知らない人が数人いる。
とてもお洒落で洗練された女性に、こちらも夏場なのにきちんとスーツを着た男性。
全員手に何らかの荷物を持っていて、何事なのかよく分からない。
「修吾さまよりご依頼がありまして、金曜日の準備のためにお荷物をお届けに上がりました」
「ど……どうも。ご苦労様です……」
お洒落な宅配の一種なのかと思っていると、女性が「少し上がらせて頂いても構いませんか?」と尋ねてくる。
「どういうご用件でしょうか?」
修吾の……と言われて安堵したものの、業者を家の中に入れて押し売りをされては困る。
「金曜日に修吾さまとお食事をされるに当たって、西城さまが気に入る服や靴などを確認してほしいというご依頼です。もちろん、西城さまが買い取る必要はありません。料金は修吾さまがお支払いで、西城さまには『気に入った物を身につけて、金曜日に来てほしい』との事です」
「えぇ……?」
どこのシンデレラだ、と心の中で突っ込みながら、鞠花は一応信頼して彼女たちを家の中に入れる。
「狭くてすみません」
「いいえ、とんでもございません」
女性は高級アパレルブランドの紙袋を床に置き、そこから薄紙に包まれた数着のワンピースを取り出す。
同様に他の者は箱から様々な色、形のハイヒールを出し、また別の者はそういう事に疎い鞠花でも知っている、ハイブランドの紙袋から箱を出し、ハンドバッグを取りだした。
「えっ? えぇえ……」
あまりに高価な物が並び、鞠花は嬉しいというより引き気味でそれらを眺める。
「こんな高価な物、受け取れません」
「ですが、もう修吾さまが買い取りされたあとですので……」
「うっ……」
正確な値段は分からないが、数万円で済まないのは確かだ。
(……胃が痛い……)
渋々……という感じで、鞠花は彼女たちが持ってきたワンピースや靴を試着し、果ては体のサイズも測られて明日には下着も持って来られる羽目となった。
**
同僚や先輩から「やけにソワソワしてるね?」とからかわれつつ木曜日の夜勤を終え、金曜日の昼間に鞠花は起きた。
「はぁ……」
一応、木曜日に夜勤に行く前、ネイルサロンを予約してハンドとフットのケアのみしてもらった。
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そのあとはいい匂いのするオイルでマッサージされ、ピカピカになった爪を見て満足した。
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鞠花としてはその辺の少しお洒落なレストランに入って、話して終わり……と思っていただけなのだが、そうはいかないようだ。
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ハァ……、と溜め息をつき、理想と現実は違う……と痛感した。
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