【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】

臣桜

文字の大きさ
上 下
63 / 71

番外編3:新婚調教12

しおりを挟む
「ど……っして……」

 一歩、二歩、とリディアが逃げかける。

 母、妻。どちらとも定まっていない心が弱い時に、オーガストに側にいてほしくなかった。彼の前では完璧な『お母様』か『妻』でありたい。思い悩んでは心をくじけさせようとする、『一人の女』の顔を見せたくない。

「一人では心配だ」

 真剣な顔でこちらを見るオレンジガーネットの瞳が、少し伸びた黒髪が、厚い胸板に割れた腹部が目に入るたび、リディアの心の中がオーガストで一杯になってゆく。

「今は……っ、まだ、――来ないでっ」

 涙を流した顔で言葉を叩きつけたあと、リディアは湖の中心部に向かって泳ぎだした。

「リディア! そっちは深くなっているから駄目だ!」

 オーガストも声を荒げ、水音がしたかと思うと凄まじいスピードで泳ぐ音がする。

(駄目……っ、ダメ!)

 懸命に両手で水を掻き、リディアが逃げる。

 あの絶対的な捕食者に囚われれば、自分の意志すらかなぐりすてて、恋慕と肉体の熱に溺れてしまう。
 そんな状況になって、冷静な判断などくだせるはずもない。

 リディアは本当に、自分が置かれた現状を考え直したかったのだ。
 しかし、水を蹴っていた足首が掴まれ、グッと引き寄せられる。

「!」

 息継ぎをしたタイミングで水中に引き込まれ、そのあと水面に顔が出たかと思うと、リディアはオーガストに抱えられていた。

「……馬鹿なことをする」

 水を滴らせた美貌が目の前に迫り、低い声が苛立ちを伴って呟く。剣呑な目で見つめられたあと、オーガストが唇を重ねてきた。

「……んっ」

 一度食むような口づけをしてから、彼は「戻るぞ」と告げ泳ぎだす。リディアの体を片腕に引っかけ、残る片腕としなやかなキックでぐいぐいと進んでゆく。
 やがて足がつく深さになり、オーガストはリディアを抱き上げてゆったりと歩み、湖の途中で座り込んだ。
 二人とも髪も何もずぶ濡れで、肌を隠すものもない。

「……何が、気に入らなかった」

 リディアの額に唇をつけ、オーガストが問う。
 冷たい水に浸かっていたからか、彼の唇がやけに熱く思えた。

「……あなたに女扱いされるのに、慣れていないの。……まだ私の覚悟が足りないのだわ」

 情事のさなかならともかく、服を身につけソファに座っている状況で性的なことを匂わされると、どうしていいのか分からなくなる。
『お母様』として怒るでもなく、『妻』として素直に受け入れることもできない。ただ、『女』として恥ずかしく思い、動揺してしまうのだ。

「好きだと言われるのに、抵抗はあるか?」
「ないわ。その気持ちも言葉も、ずっと抱き続けてきたものだもの」

「では、愛しているは?」
「……方向性による、かも。家族愛ならずっと前からあって、異性愛ならまだ……慣れていないわ」
「今まで恋をした事は? 父上への想いも含め」

 オーガストの問いに、リディアは深く考える。

「……社交界デビューしてから、色んな方に声をかけて頂いたわ。舞踏会でダンスを踊れば付添人とお相手が喜ぶのは分かっていた。……でも正直言って、その先にあるものを何も分かっていなかったわ。自分より圧倒的に大人な男性を相手に、『素敵』とか『触れたい』と思えなかった。付添人が『あの方はどこそこのご子息で、お家柄はこんな感じで……』と言っても、『そうなのね』としか思えなかった」

 まったくもって、デビューした十七歳の段階でリディアの心はまだ未成熟だった。
 興味があるのは本を開いた先の空想の世界。手元で広がるレースや刺繍の世界。庭の花を見ては美しいと思い、ピアノを弾いて作曲家の思いに触れる。
 当時のリディアの世界は、色恋などまったくない、純粋で優しいもののみで構成されていた。

「そんな状況でブライアン陛下に求婚をされて、本当に驚いたわ。確かに陛下は素敵な方だと思ったけれど、正直年齢が少し離れていた。加えて国王陛下だもの。なんの冗談なのかと、とても悩んだわ」
「……でも父上を好きになった?」

 オーガストがリディアの顎に触れ、すんなりとした輪郭をなぞる。
 二人して湖の中心部を向き、リディアはオーガストの顔を直視しないからこそ、心情を吐露できていた。

「……まだ、分からないの。とても優しくして頂いたし、大人で紳士的な方だったわ。あの方に望まれて子を授かったら、きっと良い母になれると思っていた」

 もしもの話でも、ブライアンとリディアに肉体関係ができ、子が生まれるなどとんでもない。
 オーガストは遠くにある山の稜線を睨んだ。

「でもすべて、『もしも』のお話で終わったわ。ブライアン陛下は亡くなられてしまった。私には……、私を慕ってくれる小さな『殿下』をお守りすることだけが、すべてになってしまった」
「その『殿下』が、自分を女として見ていると思わなかった?」

 やんわりとリディアの乳房をオーガストが揉む。冷えた乳房を温かな手に包まれ、リディアはほう、と息をつく。

「……年の差って不思議ね。私もあなたが思春期を迎えるまでは、子供……としか思えなかったの。でもあなたはグングン成長して、私の背なんてすぐ超してしまった。体も逞しくなって、声も低くなって。気がついたら『男性』になっていたわ。私はそれを直視できなかった。いつまでもあなたは『息子』なのだと懸命に思い込んで……、等身大のあなたを見ようとしなかったわ」

 チャプ……と水音をさせ、リディアは水を両手で掻く。いたずらに掌で掬っては、水を零す。

「でも意識はしていた?」

 オーガストの問いにリディアは少し沈黙し、コクリと頷く。

「十五歳の時に共寝を拒否したのも、自分がおかしくなりそうだったからよ。あなたに息子以上の想いを抱いてしまいそうだった。あなたに『王妃候補を探して』と言っておきながら、ずっと私だけのオーガストでいてほしいと願ってしまった……っ」

 リディアの声が震える。
 己の内にしまいこんだ浅ましい思いを吐露し、その顔は羞恥で赤くなっていた。

「あなたが『結婚相手は見つけてある』と言った時、嫉妬でおかしくなりそうだったわ。いい義母にならなくてはと思う理性の私と、あなたの妻となる女性に意地悪してしまいそうな自分がいたわ。……そんな自分が、恐ろしくて堪らなかった……っ」

 背後からリディアを抱き締めたオーガストは、一人で目を細めご満悦に微笑んでいた。リディアの髪をかき分け、首の裏や肩に唇を落とす。
 リディアの気持ちは手に取るように知っていたが、こうして胸の内を明かしてくれるのが堪らなく心地良かった。

「……だから、あなたに求婚されて本当に驚いたけれど、嬉しい、と思う自分がいたわ。これは私が望んでいたこと。私のすべてを注いで育てたオーガストが、自分の旦那様になると思うと、不思議だったけれどこの上なく幸せだった」

 幸せ、というには、リディアの声は辛そうに歪んでいる。

「リディア、こっちを向いて」
「……いや。私いまとても酷い顔をしているもの」

 オーガストの願いに、リディアはゆるゆると首を振り彼の膝から下りた。

「リディア」

 だがオーガストは彼女の腰に抱きつき、また膝の上に座らせる。ほっそりとした顎が捉えられ、斜陽のなかいまにも泣き出しそうなリディアの顔が晒された。

「俺を愛しているだろう? 空想の女に嫉妬するほど」

 赤く光る目に見つめられ、リディアの腰にゾクッと震えがはしる。小さな顔が震え、視線が頑なに逸らされた。

「…………」
「俺を愛していると言ってくれるなら、この先一生あなたを愛すると誓おう」

 すでに式で誓いを立てたが、オーガストはリディアの告白を聞くためなら何だってする。

「……言わなかったら?」
「あなたなら言うさ」

 スルリと言われ、リディアは自身がとても単純だと思い知らされる。オーガストが言う通り、彼に言葉を求められ言わないリディアではなかった。
 時に体を愛撫され、いつだってリディアはオーガストの欲するものを与えていた。リディアだってオーガストに何かしてあげるのが心地いい。彼が望むなら、何でも与えたい。

「……愛、してる。……わ」
「あなたはいま、母であるより女なのだろう?」
「…………」

 コクリ、と小さく頷いた。
 オーガストとの共寝を拒否した時期から胸に抱えていたこれは、恋慕だ。そしてオーガストの執着や束縛を感じるたび、リディアも同じだけ彼を独占したいと思っていた。

「……一人の女として……、あなたを愛しているわ」
「なら、俺があなたを女として扱っても怒らないな? 俺はあなたにだけ、卑猥な言葉を言う。それはあなたを怒らせ、恥ずかしがらせて嬉しいからだ。あなたが俺の言葉で感じて、羞恥を覚える姿に俺も興奮する。だから先ほどのような言葉も、許してほしい」

 硬く閉ざしていた花の蕾を、オーガストはやんわりと丁寧に剥いてゆく。

 薄く脆い花びらを一枚ずつはぎ、中心にある誰も見たことがないリディアの花芯――心の最奥をつまびらかにするのだ。
 オーガストだけがその花芯を見て、独占する。
 花芯を愛で、世話をし育てるのもオーガストだけだ。

 今までもこれからも、リディアは心身ともにオーガストに依存し、彼がいなければ生きていけないように作り替える。
 嫌だと抵抗する人らしい理性も、道徳も、彼女の矜持すら、オーガストは優しくへし折って彼の思想を植え替える。

 頭を優しく撫でられ、丁寧に説明されたリディアは、恥じらったあとに小さく頷いた。

「理由はちゃんと分かったわ。……でもあまり、意地悪をしないで」
「お願いをする時は、相応に対価を払わなくてはいけないな?」

 妖艶に笑ったオーガストは、とん、と自身の唇を撫でる。
 彼が求めているものを察したリディアは、「もう」と呟いたあと向かい合わせにオーガストの腰を跨いだ。

「……お願い。あまり虐めないで」

 ぽそっと囁いたあと、リディアはオーガストの首に両腕を回しキスをする。
 ねっとりとリディアの唇と舌を味わいながら、オーガストは彼女の心がもう一段階堕ちたと確信した。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

処理中です...