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番外編3:新婚調教12
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「ど……っして……」
一歩、二歩、とリディアが逃げかける。
母、妻。どちらとも定まっていない心が弱い時に、オーガストに側にいてほしくなかった。彼の前では完璧な『お母様』か『妻』でありたい。思い悩んでは心をくじけさせようとする、『一人の女』の顔を見せたくない。
「一人では心配だ」
真剣な顔でこちらを見るオレンジガーネットの瞳が、少し伸びた黒髪が、厚い胸板に割れた腹部が目に入るたび、リディアの心の中がオーガストで一杯になってゆく。
「今は……っ、まだ、――来ないでっ」
涙を流した顔で言葉を叩きつけたあと、リディアは湖の中心部に向かって泳ぎだした。
「リディア! そっちは深くなっているから駄目だ!」
オーガストも声を荒げ、水音がしたかと思うと凄まじいスピードで泳ぐ音がする。
(駄目……っ、ダメ!)
懸命に両手で水を掻き、リディアが逃げる。
あの絶対的な捕食者に囚われれば、自分の意志すらかなぐりすてて、恋慕と肉体の熱に溺れてしまう。
そんな状況になって、冷静な判断などくだせるはずもない。
リディアは本当に、自分が置かれた現状を考え直したかったのだ。
しかし、水を蹴っていた足首が掴まれ、グッと引き寄せられる。
「!」
息継ぎをしたタイミングで水中に引き込まれ、そのあと水面に顔が出たかと思うと、リディアはオーガストに抱えられていた。
「……馬鹿なことをする」
水を滴らせた美貌が目の前に迫り、低い声が苛立ちを伴って呟く。剣呑な目で見つめられたあと、オーガストが唇を重ねてきた。
「……んっ」
一度食むような口づけをしてから、彼は「戻るぞ」と告げ泳ぎだす。リディアの体を片腕に引っかけ、残る片腕としなやかなキックでぐいぐいと進んでゆく。
やがて足がつく深さになり、オーガストはリディアを抱き上げてゆったりと歩み、湖の途中で座り込んだ。
二人とも髪も何もずぶ濡れで、肌を隠すものもない。
「……何が、気に入らなかった」
リディアの額に唇をつけ、オーガストが問う。
冷たい水に浸かっていたからか、彼の唇がやけに熱く思えた。
「……あなたに女扱いされるのに、慣れていないの。……まだ私の覚悟が足りないのだわ」
情事のさなかならともかく、服を身につけソファに座っている状況で性的なことを匂わされると、どうしていいのか分からなくなる。
『お母様』として怒るでもなく、『妻』として素直に受け入れることもできない。ただ、『女』として恥ずかしく思い、動揺してしまうのだ。
「好きだと言われるのに、抵抗はあるか?」
「ないわ。その気持ちも言葉も、ずっと抱き続けてきたものだもの」
「では、愛しているは?」
「……方向性による、かも。家族愛ならずっと前からあって、異性愛ならまだ……慣れていないわ」
「今まで恋をした事は? 父上への想いも含め」
オーガストの問いに、リディアは深く考える。
「……社交界デビューしてから、色んな方に声をかけて頂いたわ。舞踏会でダンスを踊れば付添人とお相手が喜ぶのは分かっていた。……でも正直言って、その先にあるものを何も分かっていなかったわ。自分より圧倒的に大人な男性を相手に、『素敵』とか『触れたい』と思えなかった。付添人が『あの方はどこそこのご子息で、お家柄はこんな感じで……』と言っても、『そうなのね』としか思えなかった」
まったくもって、デビューした十七歳の段階でリディアの心はまだ未成熟だった。
興味があるのは本を開いた先の空想の世界。手元で広がるレースや刺繍の世界。庭の花を見ては美しいと思い、ピアノを弾いて作曲家の思いに触れる。
当時のリディアの世界は、色恋などまったくない、純粋で優しいもののみで構成されていた。
「そんな状況でブライアン陛下に求婚をされて、本当に驚いたわ。確かに陛下は素敵な方だと思ったけれど、正直年齢が少し離れていた。加えて国王陛下だもの。なんの冗談なのかと、とても悩んだわ」
「……でも父上を好きになった?」
オーガストがリディアの顎に触れ、すんなりとした輪郭をなぞる。
二人して湖の中心部を向き、リディアはオーガストの顔を直視しないからこそ、心情を吐露できていた。
「……まだ、分からないの。とても優しくして頂いたし、大人で紳士的な方だったわ。あの方に望まれて子を授かったら、きっと良い母になれると思っていた」
もしもの話でも、ブライアンとリディアに肉体関係ができ、子が生まれるなどとんでもない。
オーガストは遠くにある山の稜線を睨んだ。
「でもすべて、『もしも』のお話で終わったわ。ブライアン陛下は亡くなられてしまった。私には……、私を慕ってくれる小さな『殿下』をお守りすることだけが、すべてになってしまった」
「その『殿下』が、自分を女として見ていると思わなかった?」
やんわりとリディアの乳房をオーガストが揉む。冷えた乳房を温かな手に包まれ、リディアはほう、と息をつく。
「……年の差って不思議ね。私もあなたが思春期を迎えるまでは、子供……としか思えなかったの。でもあなたはグングン成長して、私の背なんてすぐ超してしまった。体も逞しくなって、声も低くなって。気がついたら『男性』になっていたわ。私はそれを直視できなかった。いつまでもあなたは『息子』なのだと懸命に思い込んで……、等身大のあなたを見ようとしなかったわ」
チャプ……と水音をさせ、リディアは水を両手で掻く。いたずらに掌で掬っては、水を零す。
「でも意識はしていた?」
オーガストの問いにリディアは少し沈黙し、コクリと頷く。
「十五歳の時に共寝を拒否したのも、自分がおかしくなりそうだったからよ。あなたに息子以上の想いを抱いてしまいそうだった。あなたに『王妃候補を探して』と言っておきながら、ずっと私だけのオーガストでいてほしいと願ってしまった……っ」
リディアの声が震える。
己の内にしまいこんだ浅ましい思いを吐露し、その顔は羞恥で赤くなっていた。
「あなたが『結婚相手は見つけてある』と言った時、嫉妬でおかしくなりそうだったわ。いい義母にならなくてはと思う理性の私と、あなたの妻となる女性に意地悪してしまいそうな自分がいたわ。……そんな自分が、恐ろしくて堪らなかった……っ」
背後からリディアを抱き締めたオーガストは、一人で目を細めご満悦に微笑んでいた。リディアの髪をかき分け、首の裏や肩に唇を落とす。
リディアの気持ちは手に取るように知っていたが、こうして胸の内を明かしてくれるのが堪らなく心地良かった。
「……だから、あなたに求婚されて本当に驚いたけれど、嬉しい、と思う自分がいたわ。これは私が望んでいたこと。私のすべてを注いで育てたオーガストが、自分の旦那様になると思うと、不思議だったけれどこの上なく幸せだった」
幸せ、というには、リディアの声は辛そうに歪んでいる。
「リディア、こっちを向いて」
「……いや。私いまとても酷い顔をしているもの」
オーガストの願いに、リディアはゆるゆると首を振り彼の膝から下りた。
「リディア」
だがオーガストは彼女の腰に抱きつき、また膝の上に座らせる。ほっそりとした顎が捉えられ、斜陽のなかいまにも泣き出しそうなリディアの顔が晒された。
「俺を愛しているだろう? 空想の女に嫉妬するほど」
赤く光る目に見つめられ、リディアの腰にゾクッと震えがはしる。小さな顔が震え、視線が頑なに逸らされた。
「…………」
「俺を愛していると言ってくれるなら、この先一生あなたを愛すると誓おう」
すでに式で誓いを立てたが、オーガストはリディアの告白を聞くためなら何だってする。
「……言わなかったら?」
「あなたなら言うさ」
スルリと言われ、リディアは自身がとても単純だと思い知らされる。オーガストが言う通り、彼に言葉を求められ言わないリディアではなかった。
時に体を愛撫され、いつだってリディアはオーガストの欲するものを与えていた。リディアだってオーガストに何かしてあげるのが心地いい。彼が望むなら、何でも与えたい。
「……愛、してる。……わ」
「あなたはいま、母であるより女なのだろう?」
「…………」
コクリ、と小さく頷いた。
オーガストとの共寝を拒否した時期から胸に抱えていたこれは、恋慕だ。そしてオーガストの執着や束縛を感じるたび、リディアも同じだけ彼を独占したいと思っていた。
「……一人の女として……、あなたを愛しているわ」
「なら、俺があなたを女として扱っても怒らないな? 俺はあなたにだけ、卑猥な言葉を言う。それはあなたを怒らせ、恥ずかしがらせて嬉しいからだ。あなたが俺の言葉で感じて、羞恥を覚える姿に俺も興奮する。だから先ほどのような言葉も、許してほしい」
硬く閉ざしていた花の蕾を、オーガストはやんわりと丁寧に剥いてゆく。
薄く脆い花びらを一枚ずつはぎ、中心にある誰も見たことがないリディアの花芯――心の最奥をつまびらかにするのだ。
オーガストだけがその花芯を見て、独占する。
花芯を愛で、世話をし育てるのもオーガストだけだ。
今までもこれからも、リディアは心身ともにオーガストに依存し、彼がいなければ生きていけないように作り替える。
嫌だと抵抗する人らしい理性も、道徳も、彼女の矜持すら、オーガストは優しくへし折って彼の思想を植え替える。
頭を優しく撫でられ、丁寧に説明されたリディアは、恥じらったあとに小さく頷いた。
「理由はちゃんと分かったわ。……でもあまり、意地悪をしないで」
「お願いをする時は、相応に対価を払わなくてはいけないな?」
妖艶に笑ったオーガストは、とん、と自身の唇を撫でる。
彼が求めているものを察したリディアは、「もう」と呟いたあと向かい合わせにオーガストの腰を跨いだ。
「……お願い。あまり虐めないで」
ぽそっと囁いたあと、リディアはオーガストの首に両腕を回しキスをする。
ねっとりとリディアの唇と舌を味わいながら、オーガストは彼女の心がもう一段階堕ちたと確信した。
一歩、二歩、とリディアが逃げかける。
母、妻。どちらとも定まっていない心が弱い時に、オーガストに側にいてほしくなかった。彼の前では完璧な『お母様』か『妻』でありたい。思い悩んでは心をくじけさせようとする、『一人の女』の顔を見せたくない。
「一人では心配だ」
真剣な顔でこちらを見るオレンジガーネットの瞳が、少し伸びた黒髪が、厚い胸板に割れた腹部が目に入るたび、リディアの心の中がオーガストで一杯になってゆく。
「今は……っ、まだ、――来ないでっ」
涙を流した顔で言葉を叩きつけたあと、リディアは湖の中心部に向かって泳ぎだした。
「リディア! そっちは深くなっているから駄目だ!」
オーガストも声を荒げ、水音がしたかと思うと凄まじいスピードで泳ぐ音がする。
(駄目……っ、ダメ!)
懸命に両手で水を掻き、リディアが逃げる。
あの絶対的な捕食者に囚われれば、自分の意志すらかなぐりすてて、恋慕と肉体の熱に溺れてしまう。
そんな状況になって、冷静な判断などくだせるはずもない。
リディアは本当に、自分が置かれた現状を考え直したかったのだ。
しかし、水を蹴っていた足首が掴まれ、グッと引き寄せられる。
「!」
息継ぎをしたタイミングで水中に引き込まれ、そのあと水面に顔が出たかと思うと、リディアはオーガストに抱えられていた。
「……馬鹿なことをする」
水を滴らせた美貌が目の前に迫り、低い声が苛立ちを伴って呟く。剣呑な目で見つめられたあと、オーガストが唇を重ねてきた。
「……んっ」
一度食むような口づけをしてから、彼は「戻るぞ」と告げ泳ぎだす。リディアの体を片腕に引っかけ、残る片腕としなやかなキックでぐいぐいと進んでゆく。
やがて足がつく深さになり、オーガストはリディアを抱き上げてゆったりと歩み、湖の途中で座り込んだ。
二人とも髪も何もずぶ濡れで、肌を隠すものもない。
「……何が、気に入らなかった」
リディアの額に唇をつけ、オーガストが問う。
冷たい水に浸かっていたからか、彼の唇がやけに熱く思えた。
「……あなたに女扱いされるのに、慣れていないの。……まだ私の覚悟が足りないのだわ」
情事のさなかならともかく、服を身につけソファに座っている状況で性的なことを匂わされると、どうしていいのか分からなくなる。
『お母様』として怒るでもなく、『妻』として素直に受け入れることもできない。ただ、『女』として恥ずかしく思い、動揺してしまうのだ。
「好きだと言われるのに、抵抗はあるか?」
「ないわ。その気持ちも言葉も、ずっと抱き続けてきたものだもの」
「では、愛しているは?」
「……方向性による、かも。家族愛ならずっと前からあって、異性愛ならまだ……慣れていないわ」
「今まで恋をした事は? 父上への想いも含め」
オーガストの問いに、リディアは深く考える。
「……社交界デビューしてから、色んな方に声をかけて頂いたわ。舞踏会でダンスを踊れば付添人とお相手が喜ぶのは分かっていた。……でも正直言って、その先にあるものを何も分かっていなかったわ。自分より圧倒的に大人な男性を相手に、『素敵』とか『触れたい』と思えなかった。付添人が『あの方はどこそこのご子息で、お家柄はこんな感じで……』と言っても、『そうなのね』としか思えなかった」
まったくもって、デビューした十七歳の段階でリディアの心はまだ未成熟だった。
興味があるのは本を開いた先の空想の世界。手元で広がるレースや刺繍の世界。庭の花を見ては美しいと思い、ピアノを弾いて作曲家の思いに触れる。
当時のリディアの世界は、色恋などまったくない、純粋で優しいもののみで構成されていた。
「そんな状況でブライアン陛下に求婚をされて、本当に驚いたわ。確かに陛下は素敵な方だと思ったけれど、正直年齢が少し離れていた。加えて国王陛下だもの。なんの冗談なのかと、とても悩んだわ」
「……でも父上を好きになった?」
オーガストがリディアの顎に触れ、すんなりとした輪郭をなぞる。
二人して湖の中心部を向き、リディアはオーガストの顔を直視しないからこそ、心情を吐露できていた。
「……まだ、分からないの。とても優しくして頂いたし、大人で紳士的な方だったわ。あの方に望まれて子を授かったら、きっと良い母になれると思っていた」
もしもの話でも、ブライアンとリディアに肉体関係ができ、子が生まれるなどとんでもない。
オーガストは遠くにある山の稜線を睨んだ。
「でもすべて、『もしも』のお話で終わったわ。ブライアン陛下は亡くなられてしまった。私には……、私を慕ってくれる小さな『殿下』をお守りすることだけが、すべてになってしまった」
「その『殿下』が、自分を女として見ていると思わなかった?」
やんわりとリディアの乳房をオーガストが揉む。冷えた乳房を温かな手に包まれ、リディアはほう、と息をつく。
「……年の差って不思議ね。私もあなたが思春期を迎えるまでは、子供……としか思えなかったの。でもあなたはグングン成長して、私の背なんてすぐ超してしまった。体も逞しくなって、声も低くなって。気がついたら『男性』になっていたわ。私はそれを直視できなかった。いつまでもあなたは『息子』なのだと懸命に思い込んで……、等身大のあなたを見ようとしなかったわ」
チャプ……と水音をさせ、リディアは水を両手で掻く。いたずらに掌で掬っては、水を零す。
「でも意識はしていた?」
オーガストの問いにリディアは少し沈黙し、コクリと頷く。
「十五歳の時に共寝を拒否したのも、自分がおかしくなりそうだったからよ。あなたに息子以上の想いを抱いてしまいそうだった。あなたに『王妃候補を探して』と言っておきながら、ずっと私だけのオーガストでいてほしいと願ってしまった……っ」
リディアの声が震える。
己の内にしまいこんだ浅ましい思いを吐露し、その顔は羞恥で赤くなっていた。
「あなたが『結婚相手は見つけてある』と言った時、嫉妬でおかしくなりそうだったわ。いい義母にならなくてはと思う理性の私と、あなたの妻となる女性に意地悪してしまいそうな自分がいたわ。……そんな自分が、恐ろしくて堪らなかった……っ」
背後からリディアを抱き締めたオーガストは、一人で目を細めご満悦に微笑んでいた。リディアの髪をかき分け、首の裏や肩に唇を落とす。
リディアの気持ちは手に取るように知っていたが、こうして胸の内を明かしてくれるのが堪らなく心地良かった。
「……だから、あなたに求婚されて本当に驚いたけれど、嬉しい、と思う自分がいたわ。これは私が望んでいたこと。私のすべてを注いで育てたオーガストが、自分の旦那様になると思うと、不思議だったけれどこの上なく幸せだった」
幸せ、というには、リディアの声は辛そうに歪んでいる。
「リディア、こっちを向いて」
「……いや。私いまとても酷い顔をしているもの」
オーガストの願いに、リディアはゆるゆると首を振り彼の膝から下りた。
「リディア」
だがオーガストは彼女の腰に抱きつき、また膝の上に座らせる。ほっそりとした顎が捉えられ、斜陽のなかいまにも泣き出しそうなリディアの顔が晒された。
「俺を愛しているだろう? 空想の女に嫉妬するほど」
赤く光る目に見つめられ、リディアの腰にゾクッと震えがはしる。小さな顔が震え、視線が頑なに逸らされた。
「…………」
「俺を愛していると言ってくれるなら、この先一生あなたを愛すると誓おう」
すでに式で誓いを立てたが、オーガストはリディアの告白を聞くためなら何だってする。
「……言わなかったら?」
「あなたなら言うさ」
スルリと言われ、リディアは自身がとても単純だと思い知らされる。オーガストが言う通り、彼に言葉を求められ言わないリディアではなかった。
時に体を愛撫され、いつだってリディアはオーガストの欲するものを与えていた。リディアだってオーガストに何かしてあげるのが心地いい。彼が望むなら、何でも与えたい。
「……愛、してる。……わ」
「あなたはいま、母であるより女なのだろう?」
「…………」
コクリ、と小さく頷いた。
オーガストとの共寝を拒否した時期から胸に抱えていたこれは、恋慕だ。そしてオーガストの執着や束縛を感じるたび、リディアも同じだけ彼を独占したいと思っていた。
「……一人の女として……、あなたを愛しているわ」
「なら、俺があなたを女として扱っても怒らないな? 俺はあなたにだけ、卑猥な言葉を言う。それはあなたを怒らせ、恥ずかしがらせて嬉しいからだ。あなたが俺の言葉で感じて、羞恥を覚える姿に俺も興奮する。だから先ほどのような言葉も、許してほしい」
硬く閉ざしていた花の蕾を、オーガストはやんわりと丁寧に剥いてゆく。
薄く脆い花びらを一枚ずつはぎ、中心にある誰も見たことがないリディアの花芯――心の最奥をつまびらかにするのだ。
オーガストだけがその花芯を見て、独占する。
花芯を愛で、世話をし育てるのもオーガストだけだ。
今までもこれからも、リディアは心身ともにオーガストに依存し、彼がいなければ生きていけないように作り替える。
嫌だと抵抗する人らしい理性も、道徳も、彼女の矜持すら、オーガストは優しくへし折って彼の思想を植え替える。
頭を優しく撫でられ、丁寧に説明されたリディアは、恥じらったあとに小さく頷いた。
「理由はちゃんと分かったわ。……でもあまり、意地悪をしないで」
「お願いをする時は、相応に対価を払わなくてはいけないな?」
妖艶に笑ったオーガストは、とん、と自身の唇を撫でる。
彼が求めているものを察したリディアは、「もう」と呟いたあと向かい合わせにオーガストの腰を跨いだ。
「……お願い。あまり虐めないで」
ぽそっと囁いたあと、リディアはオーガストの首に両腕を回しキスをする。
ねっとりとリディアの唇と舌を味わいながら、オーガストは彼女の心がもう一段階堕ちたと確信した。
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