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初夜1 ☆

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「ん……」

 次にリディアが目を覚ました時は、寝台の上だった。

 自分の部屋の天蓋が見えてホッとし、同時に違和感を覚える。すぐ近く、指でも動かせば触れる距離に誰かがいるのだ。

 恐る恐る首を巡らせると、目の前にオーガストの秀麗な寝顔がある。鋭く息を吸い込んで体を強張らせただけで、目を閉じていたオーガストは目蓋を開いた。

「起きたか? 具合は悪くない? どこか痛い場所は?」

 のそりと上体を起こして肘で支え、オーガストはリディアの頭や頬を撫でてくる。

 彼はもう即位式の衣装を着ておらず、上半身は裸だった。
 息子との共寝は十五まで慣れていたものの、妻にと乞われた後は気持ちが異なる。

 女としての危機を覚えて後ずさろうとするが、それよりも早くオーガストに抱き留められた。

「リディア? 具合の悪い所は?」

 もう一度尋ねられ、渋々とリディアは己の体調を鑑みる。

「……少し疲労がある気がしますが、他は問題ありません」

 そこで改めて己の体に手をやり――、ハッとする。

 リディアもあの豪奢な衣装を脱がされ、オーガスト同様就寝時の格好をしていた。
 結われていた髪も解かれ、ぞんざいに指で梳るとバラの香りがする。まるで、湯浴みをした直後のように髪はサラサラで、そう言えば昼間に暑気と毛皮の暑さで汗を掻いた筈の体も清められている。

「だ、誰が……」

 動揺するリディアを前に、オーガストは余裕綽々だ。

「侍女にやらせた。ついでのあなたの貞操帯も外しておいたから、体の隅々まで綺麗に洗われている筈だぞ」
「侍女に……」

 些か安堵した後は、やや頭が冷静になった気がした。

「あなたが目を覚まし次第、初夜に望もうと思っていた。起きていればまだ色々ぐだぐだ言っただろうから、気絶していてくれた方が都合がいいと言えば良かったな」
「オーガスト、あなた本当に私を女として見ているの?」

 今更になって自分が彼の妻になった事を思い出し、リディアは再度問う。

「何を言う? リディアこそ大司祭様の前で『オーガストがいないと生きていけない』と泣きながら訴えたじゃないか」

 そのままのそりと起き上がったオーガストは、リディアの上に四つ這いになった。
 閉じられていない天蓋の外から蝋燭の明かりが揺らめき、また彼の目を赤く光らせる。

「それは……。確かに言ったけれど……」

 あの言葉は生きがいである子供としての、オーガストに対してだ。一人の異性として考えればどうなのだろう。
 大聖堂では勢いのまま受け入れてしまったが、今更になってリディアは懊悩する。

「どちらにせよ、もう式は挙げたから俺たちはもう夫婦だ」

 オーガストの親指がリディアの唇をなぞり、柔らかな場所が形を変えた。
 リディアはブライアンを思い、彼の息子と閨を共にする事に祈りを呟く。けれど祈る事すら許さないというように、オーガストはリディアにキスをしてきた。

「ん……っ、ン、ぅ」

 同時に大きな手が胸を包み、さするようにまるく揉んでくる。なぜかリディアの先端はオーガストの掌に擦れるだけで、敏感に凝り立ってしまった。
 オーガストの舌がリディアの口腔を探り、歯列やその裏側、舌の根や隠された柔らかな部分。そのすべてを余すことなく暴いてゆく。

「ンぁ……っ、は……」

 苦しくて必死に呼吸をすれば、自分のものと思えない淫らな声が出てしまう。喘ぐように開かれた唇のあわいを、オーガストが舐め、新たに舌を差し入れた。
 ネグリジェの裾から入り込んだ手は素肌を這い回り、リディアは背徳の予感にゾクゾクと背筋を震わせる。
 オーガストの手が太腿を這い上がり臀部に掛かった所で、リディアは自分がドロワーズすら付けさせてもらっていない――ネグリジェの下は素肌だという事に気づいた。

「ま……待って、オーガスト……んっ」

 両手でオーガストの胸板を押し返そうとするも、二十一歳になった彼はずっしりと体重が重くリディアの手では叶わない。

「っ――――」

 記憶にあるオーガストは――。背後からリディアが抱き締め、ヒョイと腋に手を入れて抱えられるほどの体重だった。抱き上げてギュッと抱き締めて、笑い合った温かな思い出。

 けれど目の前の、この獣に似た存在は何なのだろう――?

 目に淫欲の熱を込めてこちらを見下ろし、ジッと切なげに見つめたまま余裕なくキスを繰り返す。義母に対する触れ方とは明らかに違う、一人の女に対する触り方で体をまさぐり――。

「ン……っ、ぁ、……あっ」

 混乱の極みの挙げ句、初めて女として愛撫されたリディアはあえかな声を上げてしまった。夜の寝室を甘く震わせる声は、より一層オーガストを高めてゆく。

「リディア……、とうとうあなたを抱けるんだ」

 キスで蕩けた彼女をそのままに、オーガストは性急にネグリジェのボタンを外してゆく。
 あっという間に一糸纏わぬ姿を晒したリディアは、全身に外気を感じツンと胸の先端を勃たせていた。同時にオーガストから発せられる異様な熱気に、ジュン……と下肢が未知の疼きを覚える。

「そんなに不安な顔をしなくて大丈夫だ、リディア。俺はあなたを心から愛している。互いに初めてだから、不安は一緒だ。あなたを悦ばせられるよう努力するから、感じて」

 手を取られその甲にキスを贈られれば、リディアももう諦めるしかない。

「あぁ……、美しい。リディア……。あなたが目を覚ましている時に、この胸を吸い立てて感じている声を聞きたかった」

 陶然とした顔でオーガストはリディアの胸にしゃぶりついた。
 ふっくらとして柔らかな胸を片手で揉み、指先で優しく擦って更に凝らせる。舌はぐるりと先端を旋回して刺激を与え、プクンと勃ち上がったそこを唇でちゅうちゅうと吸い立てた。

「ん……っ、あ、あぁ……。いけないわ、オーガスト……」

 胸をまさぐられると、少年時代の彼と共寝をし胸に顔を埋められた事を思い出した。あの時は亡き両親を思っての甘えかと思い、優しく受け入れていた。

 けれど十一年が経ち、このような男女の関係として胸に触れられ吸われるとは……。

 それに、オーガストの言葉に引っ掛かるものを覚える。

「あ……、オ、オーガスト。『目を覚ましている時に』って何なの? まるで……」

 ――寝ている時に、何かやましい事をしていたような言い方ではないの。

 そう言いかけて、リディアは縁起でもないと口を噤む。
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