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貞操帯1
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オーガストが十五歳になるまで共寝は続き、その頃になると彼はリディアの下肢までも弄るようになっていた。
「さすがに十五になってまで同衾するのはおかしいわ」
なぜだかここ数年、朝起きると疲れが抜けていない事が多い。
内心「もっと体力をつけないと」と思いつつ、夕食後オーガストの部屋でお茶を飲み、リディアは息子を諭す。
目の前の彼はすっかり背が伸びて、肉付きこそは騎士と比べるとやや薄いが、すっかり大人の男と遜色ない背丈だ。
冬になって毛皮のマントを羽織った彼は、面白くなさそうに肘掛けに手を置き顎を預ける。
「……俺が寂しいと言っても、母上は俺を突き放すのですか?」
じっとりとした赤茶の目に見つめられ、リディアは一瞬たじろぐ。けれど背筋を伸ばすと正面から息子を見据えた。
「そういう事を言ってもいけません。だってあなた……朝になったら……」
一緒に寝ていて目覚め、オーガストの朝の生理現象を思い出しリディアは赤面する。オーガストは上半身裸に下衣一枚という姿で寝るので、非常にソレが目立つのだ。
「へぇ? 母上は息子の朝勃ちを見て、女として恥ずかしいと思うのですか?」
肘を突いたままニヤニヤと笑うオーガストを、リディアはキッと睨む。
「ふざけないで! あなたは体だけは大人と一緒ですという事を言いたいのです!」
顔を赤くして立ち上がった途端、リディアの胸がユサッと揺れた。
二十二歳のリディアはすっかり女らしい体になり、元から胸が大きかったが最近それも目立つようになってきた。
それを目にしてオーガストはユラリと立ち上がり、リディアの元へ歩み寄る。
「……な、なんですか……」
長身のオーガストに間近で見下ろされると、迫力があり圧倒される。それでも母として毅然と胸を張った時、その乳房がいきなり揉まれた。
下から掬い上げてたぷっと揉み込み、何度か掌で弾ませるように踊らされる。
「こういう事をされても、あなたは自分を女だと思わないのか?」
今度は揶揄する言い方ではなく、真剣な目と口調だった。けれど――。
パンッと乾いた音がし、オーガストは思いきり頬を張られていた。
「やめなさい!」
あまりの勢いに驚いたのは、リディア自身だ。ハァハァと息を乱し、肩を上下させてオーガストを睨む――はずの目は、今にも泣き出しそうだ。
「……っお母様を、からかわないで……っ。ただでさえあなたは素敵に育って、その急な成長に私はついていけないのに……っ」
息子の前なので必死に泣くまいとするが、その声が震えているのはオーガストにも分かる。母の胸を揉んだ手が一瞬迷った後、不器用に背中にまわって抱き寄せる。
「……すみません、母上。悪ふざけが過ぎました」
「……お願いだから、手を掛けさせないで」
謝罪の抱擁にリディアは抵抗しなかった。自分より頭一つ以上背の高いオーガストに抱かれ、昔よりずっと逞しくなった胸板に額をつける。
「……私はただ、あと六年もすれば国王になるオーガストが母親と一緒に寝ていると知られれば、醜聞になると思ったの。勿論あなたの心の成長にも悪いわ。あなたはもっとお母様以外の女性に興味を持つべきだし、結婚も意識するべきだわ」
「結婚……ね」
今度は明らかに気のない返事をし、それにリディアはムッとする。
「お世継ぎを作るのも国王の大事なお務めなのですよ? 私にはできなかったけれど……。オーガストのお嫁さんになる方を早めに決めても損はないと思うの。そうする事がきっと王妃になる方への一番の配慮だと思うわ」
懸命に世継ぎの重要性を訴えるリディアを、オーガストは苛ただしげに見下ろす。
「なら約束をしませんか?」
「約束?」
見上げた先、オーガストは知らない熱を湛えた目でリディアを見てくる。
「俺は即位までに結婚相手を探すから、母上はそれまでに公言している通り誰にも男に振り向かないでほしい。息子が頑張るのなら、母上も見合った対価を払ってください」
「それは構いません。私はもとよりオーガストが即位するまで、誰にも応えるつもりはありませんから」
「じゃあ、その体に俺との約束を纏ってほしい」
「……どういう事?」
オーガストは無言でその場を離れ、続き部屋に行ってしまった。けれどすぐに手に何か革ベルトのような物を持って戻って来た。
「……? 何? それは」
「貞操帯です」
「ていそう……たっ!?」
言葉だけは聞いた事がある。
遠征する騎士達が、妻や恋人の貞操を守るためにつけさせるものだとか……。貞操を守るとは、即ち性交渉ができなくする事だ。つまり、あの革ベルトのような物を、股間につけなければいけない。
赤面しつつそれをまじまじと見つめると、オーガストは目の前に貞操帯をかざした。
「金属製は冷たいでしょうから、革製にしました。よくなめしてありますから、柔らかくて肌を傷付けません。鍵は俺が持っています」
「そっ……そういう問題ではなくて! 私はそういう物をつけなくても、純潔を守ります。よもや私にそのような相手がいると疑っているのですか?」
「母上は宰相のカルヴィンと仲がいいではないですか。よくカルヴィンと顔を寄せ合って笑っているのを見かけます。俺と口論になった時も、あなたはすぐカルヴィンの元へゆく」
「あの方は宰相として、至らない私の相談に乗ってくださっているだけです。私もカルヴィンも他意はありません」
いささかムッとして言い返すが、オーガストはニヤリと笑うだけだ。
「さすがに十五になってまで同衾するのはおかしいわ」
なぜだかここ数年、朝起きると疲れが抜けていない事が多い。
内心「もっと体力をつけないと」と思いつつ、夕食後オーガストの部屋でお茶を飲み、リディアは息子を諭す。
目の前の彼はすっかり背が伸びて、肉付きこそは騎士と比べるとやや薄いが、すっかり大人の男と遜色ない背丈だ。
冬になって毛皮のマントを羽織った彼は、面白くなさそうに肘掛けに手を置き顎を預ける。
「……俺が寂しいと言っても、母上は俺を突き放すのですか?」
じっとりとした赤茶の目に見つめられ、リディアは一瞬たじろぐ。けれど背筋を伸ばすと正面から息子を見据えた。
「そういう事を言ってもいけません。だってあなた……朝になったら……」
一緒に寝ていて目覚め、オーガストの朝の生理現象を思い出しリディアは赤面する。オーガストは上半身裸に下衣一枚という姿で寝るので、非常にソレが目立つのだ。
「へぇ? 母上は息子の朝勃ちを見て、女として恥ずかしいと思うのですか?」
肘を突いたままニヤニヤと笑うオーガストを、リディアはキッと睨む。
「ふざけないで! あなたは体だけは大人と一緒ですという事を言いたいのです!」
顔を赤くして立ち上がった途端、リディアの胸がユサッと揺れた。
二十二歳のリディアはすっかり女らしい体になり、元から胸が大きかったが最近それも目立つようになってきた。
それを目にしてオーガストはユラリと立ち上がり、リディアの元へ歩み寄る。
「……な、なんですか……」
長身のオーガストに間近で見下ろされると、迫力があり圧倒される。それでも母として毅然と胸を張った時、その乳房がいきなり揉まれた。
下から掬い上げてたぷっと揉み込み、何度か掌で弾ませるように踊らされる。
「こういう事をされても、あなたは自分を女だと思わないのか?」
今度は揶揄する言い方ではなく、真剣な目と口調だった。けれど――。
パンッと乾いた音がし、オーガストは思いきり頬を張られていた。
「やめなさい!」
あまりの勢いに驚いたのは、リディア自身だ。ハァハァと息を乱し、肩を上下させてオーガストを睨む――はずの目は、今にも泣き出しそうだ。
「……っお母様を、からかわないで……っ。ただでさえあなたは素敵に育って、その急な成長に私はついていけないのに……っ」
息子の前なので必死に泣くまいとするが、その声が震えているのはオーガストにも分かる。母の胸を揉んだ手が一瞬迷った後、不器用に背中にまわって抱き寄せる。
「……すみません、母上。悪ふざけが過ぎました」
「……お願いだから、手を掛けさせないで」
謝罪の抱擁にリディアは抵抗しなかった。自分より頭一つ以上背の高いオーガストに抱かれ、昔よりずっと逞しくなった胸板に額をつける。
「……私はただ、あと六年もすれば国王になるオーガストが母親と一緒に寝ていると知られれば、醜聞になると思ったの。勿論あなたの心の成長にも悪いわ。あなたはもっとお母様以外の女性に興味を持つべきだし、結婚も意識するべきだわ」
「結婚……ね」
今度は明らかに気のない返事をし、それにリディアはムッとする。
「お世継ぎを作るのも国王の大事なお務めなのですよ? 私にはできなかったけれど……。オーガストのお嫁さんになる方を早めに決めても損はないと思うの。そうする事がきっと王妃になる方への一番の配慮だと思うわ」
懸命に世継ぎの重要性を訴えるリディアを、オーガストは苛ただしげに見下ろす。
「なら約束をしませんか?」
「約束?」
見上げた先、オーガストは知らない熱を湛えた目でリディアを見てくる。
「俺は即位までに結婚相手を探すから、母上はそれまでに公言している通り誰にも男に振り向かないでほしい。息子が頑張るのなら、母上も見合った対価を払ってください」
「それは構いません。私はもとよりオーガストが即位するまで、誰にも応えるつもりはありませんから」
「じゃあ、その体に俺との約束を纏ってほしい」
「……どういう事?」
オーガストは無言でその場を離れ、続き部屋に行ってしまった。けれどすぐに手に何か革ベルトのような物を持って戻って来た。
「……? 何? それは」
「貞操帯です」
「ていそう……たっ!?」
言葉だけは聞いた事がある。
遠征する騎士達が、妻や恋人の貞操を守るためにつけさせるものだとか……。貞操を守るとは、即ち性交渉ができなくする事だ。つまり、あの革ベルトのような物を、股間につけなければいけない。
赤面しつつそれをまじまじと見つめると、オーガストは目の前に貞操帯をかざした。
「金属製は冷たいでしょうから、革製にしました。よくなめしてありますから、柔らかくて肌を傷付けません。鍵は俺が持っています」
「そっ……そういう問題ではなくて! 私はそういう物をつけなくても、純潔を守ります。よもや私にそのような相手がいると疑っているのですか?」
「母上は宰相のカルヴィンと仲がいいではないですか。よくカルヴィンと顔を寄せ合って笑っているのを見かけます。俺と口論になった時も、あなたはすぐカルヴィンの元へゆく」
「あの方は宰相として、至らない私の相談に乗ってくださっているだけです。私もカルヴィンも他意はありません」
いささかムッとして言い返すが、オーガストはニヤリと笑うだけだ。
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