【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】

臣桜

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 父アルバートを喪ったリディアは、母が新しい男性と再婚しても仕方がないと思うぐらいには、できた娘だった。

 父はリディアが十五歳の時に、自ら命を絶ってしまった。

 子爵であった父は領地の管理の他にも商売に手を出していて、主に交易品を扱う仕事をしていた。元々は美術品や珍しいスパイス、植物が好きという好奇心が高じてのものだったが、意外に軌道に乗った商売はランチェスター家の資産を増やしていった。

 けれど金になりやすい商売というものは、敵も安易に作る。
 社交界で「守銭奴」と言われたり「貴族の癖に金勘定が好き」と言われるのは、まだマシな方だ。時には覚えのない親戚が金の無心に来たり、さほど付き合いのない知り合いが親友面をしてくる。
 そういうものにも取り合わず、アルバートは生まれ持っての商才で家を大きくし、家庭も幸せに築いていた。

 だが大事な商品を運ぶ隊商が賊に襲われる事までは、直接アルバートが管理できるものでもなかった。
 雇った護衛にしっかり守らせていたのだが、東方の高価な陶磁器を大量に積んだ隊商は、あっけなく全滅してしまった。ガーランド王国側ではまだ珍しい東方風陶磁器の数々は、アルバートの手腕を見込んだ国王に依頼されたものだ。

 責任を感じたアルバートは、国王に謝罪の手紙を書き、返事も何も待たず自ら命を絶ってしまった。誰もこない領地の森深い場所で、彼は首を吊ったのだ。
 アルバートの死を知る前に、国王は「気にする事はない」と手紙を出した。それを読む前にリディアの父は死を選んでしまった。ショックの大きさに責任を急いたアルバートの死は、ある意味愚行だったのかもしれない。

 父を喪ってから、母は二年間よくぞリディアと下の妹たちを守ったと思う。
 莫大な財産を狙う親戚からあれこれ言われ、時に命を狙われる事もある中、母シェリーは毅然とした態度で娘たちを守ったのだ。

 アルバートは莫大な富を築いたため、万が一の時を思って遺言状を書いていた。
 それには一定の額をシェリーに譲り、残りは次のランチェスター家当主となる者に資産運用のために託されていた。
 ランチェスター家の当主はアルバートの弟がなり、シェリーとリディアたち姉妹はしばらく屋敷に留まっていた。けれど叔父家族との折り合いが悪くなり、次第にリディアたちは自宅だというのに居場所をなくしてゆく。

 母シェリーは娘たちを守るために再婚を決意した。
 それが今のリディアの新しい父、オルブライト伯爵モーリスだ。
 モーリスはシェリーの美貌に以前から懸想していて、彼女が結婚しても一生独身を貫くと言っていたほど熱烈に焦がれていた人物だ。
 オルブライト伯爵家当主でありながら結婚しようとしない彼に、一族は躍起になって結婚相手を宛がおうとしていた。だが初恋を忘れられない初心な男は頑固で、その果てにアルバートの死が訪れた。

「ランチェスター子爵の死からすぐに求婚して申し訳ございません。ですが私はあなたに心から惹かれていました。お子さんともども一生大事にすると誓いますから、どうか私の手をとってください」

 母の前に跪きバラの花束を差し出すモーリスに、娘たちはきゃあっと騒ぐ事はしても再婚を反対しようとしなかった。
 自分たちがこのままでは叔父家族の邪魔になるのは分かっていたし、虐められる日々もうんざりだった。それならこの優しそうなモーリスと新しい家族になった方がいい。

 娘たちの後押しもあり、シェリーは再婚を踏み切る。
 持参金はアルバートの遺言で得た財産だが、それでも十分なほどの額だ。元よりモーリスは持参金などなくても、シェリーを娶れるだけでもいいと言ってくれていたのだが……。




 新しいオルブライト伯爵邸での生活は、父が存命だった頃の生活に劣らないほど幸せだった。
 以前より敷地の広い屋敷に大勢の使用人。義父は優しい人で、シェリーの体が許すなら子をもうけたいと言っていたが、リディアたちの事も変わらず愛してくれる。

 リディア自身も『子爵家令嬢』から『伯爵家令嬢』になり、外での評判はますます上がっていった。
 当時はまだ社交界に出る前の年齢だったが、ガーランド王国の翠玉と呼ばれる瞳や母親譲りの美貌は、一人歩きをして周辺国まで広がっていったほどだ。

 やがてリディアは十七歳になり社交界デビューをして、すぐ数多の男性より求婚を受けた。
 けれど二人の父や使用人以外の男性を知らないリディアは、あまり積極的にダンスを楽しめない、どちらかと言えば内向的な少女だった。

 転機が訪れたのは、交流のある令嬢が社交界に出てすぐ結婚した時。結婚相手の侯爵家でのガーデンパーティーだった。

**

 色とりどりの花が咲き乱れるエイミス侯爵家の庭で、大勢の人が溢れ返っていた。
 式を終えて新郎新婦は祝福され、皆が美しい庭を愛でつつ酒宴を楽しんでいた時。

「あんまりですわ、コリン様。あの時私の事を可愛いと仰ってくださったのに」

 酒に酔ってしまったからか、招待客の中の女性が赤い顔で新郎に絡んできたのだ。話の流れから、昔コリンと付き合いのあった女性なのだろう。
 だがコリンは今の花嫁――クレアを選び、絡んできた彼女も涙を呑んで納得した筈だ。
 けれど幸せそうな二人を見せつけられ、酒精も悪戯して感情が溢れてしまったもかもしれない。

「こんな小娘! 私の方が美しいに決まっているのに!」

 引き攣った声を上げ、女性は手にしていた赤ワインをクレアにぶちまけた。

「きゃあっ!」

 純白のドレスを纏っていた花嫁は、みるみる赤い染みに侵されてゆく。それを見て女性が高笑いをした。

「あーっははは! みっとない! 赤い濡れ鼠のあなたが、コリン様にお似合いとでも思って?」

 その日、友人の式とあってリディアはブライズメイドの役を引き受けていた。数人の令嬢達と揃いのバラ色のドレスを着て、クレアの幸せを祈っていたのに――。
 幸せの日をぶち壊しにする行為に、引っ込み思案だったリディアも流石に怒り心頭に発した。頭にカッと血が集まり、後になっても自分がどうしてそんな行動をとったのか分からない。
 けれどリディアはその女性とクレアとの間に立ちはだかり、近くにあった赤ワインのデキャンタを掴むと、自ら頭から被ったのだ。

「な……っ」

 美しい銀髪が赤く染まり、バラ色のドレスも胸元から腰に掛けてすぐに赤く濡れてゆく。
 周囲の人々が更にざわめき、リディアを注目する。
 人に見られるとすぐにあがってしまう彼女だったが、その時は違った。

「これで私も『みっともない』事になりますわね? 花嫁様よりもたっぷり濡れてしまいましたから、この場で私が一番『みっともない』女ですわ」

 晴れやかな笑みを浮かべたリディアは、鮮烈な赤にまみれてなお、美しかった。
 その姿が、お忍びで来ていたとんでもない人の目を奪っていたとも知らずに――。

「な、何をしているの!? 頭がおかしいのではなくて!?」

 その女性は毒づきながらどこかへ去ってしまった。

「リディア……! なんて事! すぐに着替えを用意させるから!」
「気にしないでください。クレア様こそどうぞお召し物を……」

 血相を変えたクレアが使用人を呼び、コリンの命令もあってすぐに屋敷の中に連れられた。貴賓室で入浴と着替えをするようにと言われ、侍女に手伝われて湯浴みを終えた後だった。

「え……っ?」

 続き部屋には侍女がいて着替えの手伝いをしてくれる筈だったのだが、シュミーズとドロワーズ姿のリディアの前に知らない男性がいた。

「きゃ……きゃあっ!」

 慌てて浴室に逃げようとするが、なぜか侍女が先回りして逃げさせてくれない。
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