聖女ですが運命の相手は魔王のようです

臣桜

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三百年前の続きを、これから【完】

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「こっわ! アリシアこっわ!」

 宮殿に戻る途中、バルキスが馬車の天井を突き抜けて顔を出してきた。

 なるほど、外から見ると馬車の屋根に突き刺さってる体勢ですね。

「覗き見とは悪趣味ですね」

 私は嬉しそうな顔をしたバルキスを見て溜め息をつき、いつも通りの反応をする。

「そりゃあ、いけ好かない男がフラれる一大イベントだから見なきゃ損だろ」

「性格が悪いです」

「ふふふ、魔王だしな。……っていうか、あいつは何でも言う事を聞く忠犬だったのに、どうしてフッたんだ?」

 彼は空中でクルンと一回転すると、私の隣に座る。

 そして分かっていながら、ニコニコして私の答えを引き出そうとする。

 ――腹が立つ。

 私は前を向いたまま彼に手を向け、聖属性の魔術をぶっ放した。

 途端にゴシャアッ……とバルキスの頭が灰化する。

「久々にきたな!? しかもノールックで!」

「腹の立つ事を言うからです」

「だって仕方ないだろ。アリシアが好きなのはお・れ! なんだから! 俺がいるからあいつを振ったんだろ? うれちい!」

 バルキスは「お・れ!」の時に、親指で自分の胸板を二度差した。

 本当に頭に花が咲いてそうなぐらい、ご機嫌な人ね。

「なー、アリシア、これから暇?」

 まるで子供が遊びに誘うように言われ、私は溜め息をつく。

「暇な訳がないでしょう。聖女は多忙なのです」

「でも俺が壊した大聖堂はまだ修繕中だから、儀式はまだ行えず、正式な聖女にはなっていないだろ?」

「本当にどこの吸血鬼のせいでしょうね」

「ねー」

 同意してくる彼の頬を、私はやはり前を向いたまま思いきりつねっていた。

「いででででで! これ痛い! 地味に痛い! しかも結構握力ある!」

「まったく……」

 溜め息をついて手を放すと、バルキスは私の顔を覗き込んでくる。

「なあ、俺と沢山話をしようぜ」

 そう言われ、私は溜め息をつく。

 三百年前の恋心を思い出したものの、〝今〟のバルキスは相変わらずのお調子者で、真剣に向き合おう自分が馬鹿らしく思える。

 本当はまじめに話したいけど、彼のおふざけが過ぎているのでタイミングが掴めない。

「お? 照れてる?」

 バルキスが嬉しそうに私の顔を覗き込んでくる。

「照れてません」

 私は再びバルキスの頭を吹っ飛ばす。

「照れんなよ~!」

 それでもバルキスは節操なく頭を秒で復活させ、私を抱き締めてきた。

「……そもそも、どうしてエリックごときに嵌められたぐらいで暴走したのですか」

「いやー……、ああいう手合いを見ると〝勇者様〟を思いだしてイラァッとしちまって。カッとなったら暴走してた」

「『カッとなってやりました』と言うのは犯罪者だけで結構です。これからも私の側にいたいと言うなら、軽率な行動は取らないでください」

「おっ!? 聖女じきじきに、側にいていい宣言! いただきました!」

「…………鬱陶しい……」

 私は横を向いてチッと舌打ちをする。

「聖女が舌打ちなんて、はしたない!」

「うるさいですね。大体あなたは……」

 ガタゴトと馬車が揺れるなか、私はバルキスに説教をしながら、彼とまたこうして話せている事に感謝した。

 時間はまだまだたっぷりある。

 けれど三百年待たせたなら、早めに本音で話せるようになったほうがいいだろう。

 魔王が聖女の側をうろつくなんて前代未聞だけれど、バルキスが節操なく城内を透けて歩いているから、最近の皆は割と彼の存在に慣れつつある。

 お父様もガーネット様から話を聞いて、彼の処遇は私に一任してくれている。

(なら、ゆっくり積もる話でもしましょうか)

 温かいお茶でもいれて、ゆっくりと。



 完
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