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圧倒的弱者への制裁
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「確かにバルキスには迷惑をしていましたが、あなたに解決してほしいなんて一言も言っていません。勘違いしないでください」
「ですが……あいつは吸血鬼です。アリシア様はお美しいですから、きっと襲いかかってくるに違いません」
エリックの決めつけが三百年前の決めつけに重なり、私は目を眇める。
「そうは思いません」
「絶対襲ってきます! あいつは魔王なんですから!」
私は苛立ったように言うエリックを、冷めた目で見る。
「『絶対』? 百パーセントあり得るというのですね? もしも襲ってこなかったらどうするのですか? その命で購いますか?」
「いっ、命でなんて……っ」
自分の命が懸かった途端、エリックは薄笑いを浮かべる。
「『魔族は人類の敵だ』と皆が言うでしょう? 彼らの存在そのものが害悪なのですよ。だから僕はあなたのためを思って、奴を退治してやろうと……」
「弱いくせに恩着せがましくて、非常に不愉快ですね」
ボソッと呟くと、エリックは「え?」と目を瞬かせる。
「あなたは私ほど聖属性の魔術に恵まれていると言うのですか?」
「い、いえ。僕が聖女候補に敵うなんて思っていません」
「なら、お得意の雷撃の魔術でなら……、と思いますが、あなたの実力は魔術師の中では、青の三位でしたね? せいぜい静電気程度でしたっけ。あら、口が滑りましたわ。失礼」
魔術師の位は、上から金、銀、青とあり、それぞれ五位から一位と細分化され、最上位は金の一位だ。
青の三位と言えば、魔術団に憧れて入隊した若者が昇進し、二十三歳ぐらいでなるレベルだ。ハッキリ言わなくても弱い。
「そしてあなたの趣味は詩の朗読と観劇。『汗を流すのは野蛮人のやる事だ』と言って、剣の訓練もしていませんね? 先日は外国から宝剣を買ったと、腰に提げて自慢されていましたが、重たくなって一時間経ったあとには従僕に持ってもらっていましたよね?」
彼を見つめたまま淡々と事実を連ねると、エリックは羞恥で顔を赤くする。
「そ……っ、それがなんだと言うんですか! あなたは女ですよ! 女のくせにそんな口を利いていいんですか!? あなただって剣なんて持てないくせに!」
私はスッと立ちあがると両手で短縮魔法陣の印を切り、その間から細身の剣を出す。
これは私専用の聖剣で、聖剣と言っても伝説級の物凄い剣ではなく、作ろうと思えば誰でも作れる物だ。
けれど聖属性の魔力を纏わせるのに相応しい金属を使い、相応に長い期間清めてあるので、その辺の剣に魔力を付与すれば簡単にできるという訳ではない。
私は聖剣を手にすると、ビュンッと振り下ろしてエリックの顔すれすれの空間を切る。
「ヒッ!」
情けない悲鳴を上げたエリックは、ソファに座ったまま飛び上がる。
凄いわ。お尻の筋肉が発達しているのね。
「言っておきますが、私は毎朝と毎夕走り込みをしていますし、一日二回、腕立て二十回、腹筋三十回、背筋三十回、スクワット五十回を行っています。あなたは?」
私に見下ろされ、エリックは決まり悪く視線を逸らす。
「……お、女が体を鍛えるなど……」
「女だから? その〝女〟よりひ弱なあなたに、何を言う権利があると? ……私はあなたの趣味を否定しませんし、体を動かすのが嫌いならそれもいいでしょう。貴族なら部下や騎士を使うべきですし、有事の時は上に立つ者として指揮を執るべきでしょう。……ですがあなたはお父上にろくに相談もせず、『聖女が魔王に襲われている』と嘘をついて騎士と魔術師を集め、挙げ句の果て彼らを危険な目に遭わせましたね? 上に立つ者として責任をとって然るべきと思いますが」
〝氷の聖女〟と呼ばれた絶対零度の視線を向けると、真っ赤になったエリックは唇をわななかせて立ちあがり、癇癪を起こした。
「僕が! お前を助けてやろうと思ったんだ! 『ありがとうございます』って言えよ! 僕に感謝しろ! お前のためにやってやったんだから!」
地団駄を踏んで憤る彼を、私は冷静に撮影魔術で記録する。
「今のご様子、お父上に報告しておきますね」
「な……っ、なにすんだよぉおおっ! このメスブタ! 売女!」
私は涙と鼻水を流して飛びかかってきたエリックをかわし、軽やかにステップを踏んで後方に下がると、トントンと前に出てから左脚を軸にし、彼のお尻に鋭いキックを叩き込んだ。
「あぎゃんっ!!」
エリックは両手でお尻を押さえ、ピョンピョンと跳びはねてから床の上に伏せる。
私は彼を見下ろし、聖剣をしまってから冷ややかに言った。
「せめて〝女〟の私に勝てるようになってから、『助けてやる』とほざきなさい。圧倒的弱者のあなたには、荷の重い言葉ですけれどね」
私は吐き捨てるように言ったあと、付け加える。
「それから私の婚約者を勝手に名乗るのもやめてください。あなたのような弱い男が婚約者なんて正気を疑われます。これ以上私に付きまとうなら、陛下に一言進言いたしますので、そのおつもりで。聖女を敵に回す覚悟があるのなら、あなたの意思を尊重しますが」
冷淡に言ったあと、私は「ごめんあそばせ」と言って彼の部屋を去った。
**
「ですが……あいつは吸血鬼です。アリシア様はお美しいですから、きっと襲いかかってくるに違いません」
エリックの決めつけが三百年前の決めつけに重なり、私は目を眇める。
「そうは思いません」
「絶対襲ってきます! あいつは魔王なんですから!」
私は苛立ったように言うエリックを、冷めた目で見る。
「『絶対』? 百パーセントあり得るというのですね? もしも襲ってこなかったらどうするのですか? その命で購いますか?」
「いっ、命でなんて……っ」
自分の命が懸かった途端、エリックは薄笑いを浮かべる。
「『魔族は人類の敵だ』と皆が言うでしょう? 彼らの存在そのものが害悪なのですよ。だから僕はあなたのためを思って、奴を退治してやろうと……」
「弱いくせに恩着せがましくて、非常に不愉快ですね」
ボソッと呟くと、エリックは「え?」と目を瞬かせる。
「あなたは私ほど聖属性の魔術に恵まれていると言うのですか?」
「い、いえ。僕が聖女候補に敵うなんて思っていません」
「なら、お得意の雷撃の魔術でなら……、と思いますが、あなたの実力は魔術師の中では、青の三位でしたね? せいぜい静電気程度でしたっけ。あら、口が滑りましたわ。失礼」
魔術師の位は、上から金、銀、青とあり、それぞれ五位から一位と細分化され、最上位は金の一位だ。
青の三位と言えば、魔術団に憧れて入隊した若者が昇進し、二十三歳ぐらいでなるレベルだ。ハッキリ言わなくても弱い。
「そしてあなたの趣味は詩の朗読と観劇。『汗を流すのは野蛮人のやる事だ』と言って、剣の訓練もしていませんね? 先日は外国から宝剣を買ったと、腰に提げて自慢されていましたが、重たくなって一時間経ったあとには従僕に持ってもらっていましたよね?」
彼を見つめたまま淡々と事実を連ねると、エリックは羞恥で顔を赤くする。
「そ……っ、それがなんだと言うんですか! あなたは女ですよ! 女のくせにそんな口を利いていいんですか!? あなただって剣なんて持てないくせに!」
私はスッと立ちあがると両手で短縮魔法陣の印を切り、その間から細身の剣を出す。
これは私専用の聖剣で、聖剣と言っても伝説級の物凄い剣ではなく、作ろうと思えば誰でも作れる物だ。
けれど聖属性の魔力を纏わせるのに相応しい金属を使い、相応に長い期間清めてあるので、その辺の剣に魔力を付与すれば簡単にできるという訳ではない。
私は聖剣を手にすると、ビュンッと振り下ろしてエリックの顔すれすれの空間を切る。
「ヒッ!」
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凄いわ。お尻の筋肉が発達しているのね。
「言っておきますが、私は毎朝と毎夕走り込みをしていますし、一日二回、腕立て二十回、腹筋三十回、背筋三十回、スクワット五十回を行っています。あなたは?」
私に見下ろされ、エリックは決まり悪く視線を逸らす。
「……お、女が体を鍛えるなど……」
「女だから? その〝女〟よりひ弱なあなたに、何を言う権利があると? ……私はあなたの趣味を否定しませんし、体を動かすのが嫌いならそれもいいでしょう。貴族なら部下や騎士を使うべきですし、有事の時は上に立つ者として指揮を執るべきでしょう。……ですがあなたはお父上にろくに相談もせず、『聖女が魔王に襲われている』と嘘をついて騎士と魔術師を集め、挙げ句の果て彼らを危険な目に遭わせましたね? 上に立つ者として責任をとって然るべきと思いますが」
〝氷の聖女〟と呼ばれた絶対零度の視線を向けると、真っ赤になったエリックは唇をわななかせて立ちあがり、癇癪を起こした。
「僕が! お前を助けてやろうと思ったんだ! 『ありがとうございます』って言えよ! 僕に感謝しろ! お前のためにやってやったんだから!」
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