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魔王と聖女
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バルキスを目にしただけで、彼が今まで倒してきた下級吸血鬼とは格が違うとすぐに理解した。
存在そのもののレベルが違い、ただ玉座に座っているだけなのに、彼の周囲で濃密な魔力が渦を巻いているのを感じる。
(でも、眠っている今なら……)
無防備な相手に攻撃するのは躊躇われたけれど、他の仲間たちはまともに戦っては勝てないと判断し、私が何か言うより先に攻撃を開始した。
魔術師の爆撃魔法が障壁で遮られたあと、補助魔術でスピードと膂力を上げた勇者と聖騎士が雄叫びを上げて斬りかかった。
アレクサンダーの剣はバルキスの喉元を狙い、聖騎士は彼の腹部を貫通する勢いで鋭い突きを入れた。
けれど二人の攻撃は魔王を傷つけられず、まるで鋼鉄の肌を持っているかのようだ。
『ん……』
バルキスは億劫そうに伸びをしながら赤い目を開き、くああっと欠伸をして三対の羽を広げる。
その瞬間、私たちは凄まじい風と魔力の余波とで壁際まで吹っ飛んだ。
『……なんだ、人間か……』
バルキスは興味がなさそうに呟いて私たちを睥睨したが――。
彼は私をジーッと見つめると、立ちあがって歩み寄ってくる。
『アリシア! 逃げろ!』
『聖女だから狙われているんだ!』
仲間たちが言うけれど、私は全身を強かに打ち付けて動けずにいる。
バルキスは靴音を立てて目の前まで歩み寄り、しゃがみ込むとしげしげと私を見てきた。
『好みだ……』
(なんですって)
まさか初対面の吸血鬼の王に好みと言われると思わず、私はピキーンと固まる。
人間をエサとする捕食者ゆえの〝好み〟かと思ったけれど、よくよく彼の顔を見てみると、完全に恋をする者の目をしている。
(どうして?)
私は呆気にとられ、目を見開いてバルキスを見つめる。
彼は私の目の前に跪き、胸に手を当てて尋ねてきた。
『どうだ? 俺の妻にならないか? お前みたいに美しい女を見た事がない』
『ふ……、ふざけないで! 私はあなたを倒しに来た聖女です!』
『気の強いところもいいな。毎日お前に叱られたい』
『……ええ……? ……気持ち悪い……』
素で引かれても、バルキスはニコニコしている。
その様子を見たアレクサンダーたちは、邪心を持った。
彼らは、仲間である私の命よりも、自分たちの名声や魔王を倒すという目的をとったのだ。
魔術師が攻撃魔法を放ち、聖騎士が聖剣で斬りかかるのを、バルキスはつまらなさそうな顔でひょいひょいと避ける。
『アリシア!』
その間にアレクサンダーに声を掛けられ、私は彼の元に向かう。
『作戦を立てないといけませんね』
私が言った瞬間、彼はシャッと腰の裏に装備していた短剣を抜き――、私の腹部に突き立てた。
『え……っ!?』
痛みが腹部を襲ったあと、私は目を見開いて自分のお腹を見る。
そこからは短剣の柄が〝生えて〟いて、聖女の白い衣に血が滲んでいく。
『……どう、……して……』
私は何かの手違いだと思ってアレクサンダーに尋ねるけれど、彼は無慈悲な表情で魔術の印を結んだ。
『切り裂け!』
彼が魔力を込めた言葉で命じた瞬間、私の全身を真空が襲った。
『っきゃあぁあああぁっ!』
何が起こっているか分からないまま、私は全身をズタズタに切り裂かれ、ドッと床の上に倒れ込んだ。
『ほら吸血鬼! お前の大好きな処女の血がたっぷり流れてるぞ!』
ぼんやりした意識のなか、アレクサンダーが哄笑する声が耳に届く。
広間の中ほどに立っていたバルキスは、羽と尻尾とで適当に攻撃をあしらいながら、私を見て呆然と目を見開いていた。
『……お前……』
かすれた声で何か言いかけたあと、バルキスの体から凄まじい闇の魔力が噴出し、彼は闇の力そのものとなってアレクサンダーたちに襲いかかった。
そのあとは、一方的な虐殺となった。
物理攻撃も魔術もいっさい効かない闇の魔獣に襲われた彼らは、悲鳴を上げて巨大なあぎとに食われていく。
存在そのもののレベルが違い、ただ玉座に座っているだけなのに、彼の周囲で濃密な魔力が渦を巻いているのを感じる。
(でも、眠っている今なら……)
無防備な相手に攻撃するのは躊躇われたけれど、他の仲間たちはまともに戦っては勝てないと判断し、私が何か言うより先に攻撃を開始した。
魔術師の爆撃魔法が障壁で遮られたあと、補助魔術でスピードと膂力を上げた勇者と聖騎士が雄叫びを上げて斬りかかった。
アレクサンダーの剣はバルキスの喉元を狙い、聖騎士は彼の腹部を貫通する勢いで鋭い突きを入れた。
けれど二人の攻撃は魔王を傷つけられず、まるで鋼鉄の肌を持っているかのようだ。
『ん……』
バルキスは億劫そうに伸びをしながら赤い目を開き、くああっと欠伸をして三対の羽を広げる。
その瞬間、私たちは凄まじい風と魔力の余波とで壁際まで吹っ飛んだ。
『……なんだ、人間か……』
バルキスは興味がなさそうに呟いて私たちを睥睨したが――。
彼は私をジーッと見つめると、立ちあがって歩み寄ってくる。
『アリシア! 逃げろ!』
『聖女だから狙われているんだ!』
仲間たちが言うけれど、私は全身を強かに打ち付けて動けずにいる。
バルキスは靴音を立てて目の前まで歩み寄り、しゃがみ込むとしげしげと私を見てきた。
『好みだ……』
(なんですって)
まさか初対面の吸血鬼の王に好みと言われると思わず、私はピキーンと固まる。
人間をエサとする捕食者ゆえの〝好み〟かと思ったけれど、よくよく彼の顔を見てみると、完全に恋をする者の目をしている。
(どうして?)
私は呆気にとられ、目を見開いてバルキスを見つめる。
彼は私の目の前に跪き、胸に手を当てて尋ねてきた。
『どうだ? 俺の妻にならないか? お前みたいに美しい女を見た事がない』
『ふ……、ふざけないで! 私はあなたを倒しに来た聖女です!』
『気の強いところもいいな。毎日お前に叱られたい』
『……ええ……? ……気持ち悪い……』
素で引かれても、バルキスはニコニコしている。
その様子を見たアレクサンダーたちは、邪心を持った。
彼らは、仲間である私の命よりも、自分たちの名声や魔王を倒すという目的をとったのだ。
魔術師が攻撃魔法を放ち、聖騎士が聖剣で斬りかかるのを、バルキスはつまらなさそうな顔でひょいひょいと避ける。
『アリシア!』
その間にアレクサンダーに声を掛けられ、私は彼の元に向かう。
『作戦を立てないといけませんね』
私が言った瞬間、彼はシャッと腰の裏に装備していた短剣を抜き――、私の腹部に突き立てた。
『え……っ!?』
痛みが腹部を襲ったあと、私は目を見開いて自分のお腹を見る。
そこからは短剣の柄が〝生えて〟いて、聖女の白い衣に血が滲んでいく。
『……どう、……して……』
私は何かの手違いだと思ってアレクサンダーに尋ねるけれど、彼は無慈悲な表情で魔術の印を結んだ。
『切り裂け!』
彼が魔力を込めた言葉で命じた瞬間、私の全身を真空が襲った。
『っきゃあぁあああぁっ!』
何が起こっているか分からないまま、私は全身をズタズタに切り裂かれ、ドッと床の上に倒れ込んだ。
『ほら吸血鬼! お前の大好きな処女の血がたっぷり流れてるぞ!』
ぼんやりした意識のなか、アレクサンダーが哄笑する声が耳に届く。
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『……お前……』
かすれた声で何か言いかけたあと、バルキスの体から凄まじい闇の魔力が噴出し、彼は闇の力そのものとなってアレクサンダーたちに襲いかかった。
そのあとは、一方的な虐殺となった。
物理攻撃も魔術もいっさい効かない闇の魔獣に襲われた彼らは、悲鳴を上げて巨大なあぎとに食われていく。
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