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男の純真を弄びやがって

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「もう仕事か?」

 アリシアは第二王女であり聖女だから、何かと忙しい生活を送っている。

 彼女を探して続き部屋をゆったり飛行していると、テーブルの上にメモが置いてあるのに気づいた。

 これが人間なら、他人のメモを勝手に見てはいけないと思うのだろうが、俺にはそんな概念はない。

「お」

 メモは俺宛だった。

【バルキスへ 明朝夜明ける前、東の見張り塔で待っています。このメモは読み次第破棄してください。 アリシア】

「ふふふふふふ……」

 低く笑う俺の目の前で、メモは黒い炎に絡め取られてあっという間に炭になる。

「ようやく俺の気持ちに応えてくれるか」

 満面の笑みを浮かべた俺は、誰もいない室内で大きくガッツポーズをとった。



**



 俺はその日もアリシアを陰から見守り、夜になるとワクワクして次元の狭間に戻った。

 ――どんな告白をしてくれるんだろうか?

 クールで今のところデレが分からないツンツンだが、彼女は笑うと年相応に可愛い。

 月光を溶かし込んだような銀髪も、永久氷壁のような目の色も、整った顔立ちも均整の取れた肢体も、すべてが美しい。

 加えて彼女は聖女だ。

 ……と言っても、先日俺が儀式を邪魔したせいで、まだ正式な聖女にはなれていないが。

 だが彼女は物心ついた頃から聖女としての活動をしていて、貴族は勿論、民にも好かれている。

 アリシアが好かれると俺も嬉しくなるが、「俺だけを見てほしい」という独占欲にも駆られるので難しい。

 俺はそんなことを考えながら眠りにつく。

 浮かれていたからか、夢はとても楽しく幸せなものだった。






(……そろそろ夜明けが近いか)

 次元の狭間で俺はまどろみから意識を戻す。

 いつもはアリシアの生活に合わせて行動するため、意識の端を人間界に出して時間の経過を感じつつ休憩している。

 俺は次元の狭間からズルリと人間界に体を出すと、羽を出して東の見張り塔に飛んでいく。

 ランディシアの王城は一つの大きな建物でできているのではなく、大小様々な建物の集合体だ。

 中央宮殿と呼ばれている城は一つの大きな建物だが、これから向かう見張り塔は敷地の外れにある。

「アリシア」

 東の見張り塔に着いた俺は、羽を畳んで屋上に降り立つ。

 約束は守る男なので、彼女に言われた通りきっかり日の出直前だ。

 遠くの景色を見ると、夜の闇に包まれていた空がうっすら明るくなっている。

(好きな女と見る夜明けは、さぞ美しいだろうなあ)

 屋上にはフード付きマントを被ったアリシアが立ち、フードから出た銀髪が風に吹かれて靡いている。

「アリシア、いつから待っていてくれた? 早朝は冷えるし風邪を引くから……」

 その時、俺は彼女から漂う匂いにスンと鼻を鳴らし、――気づいた。

「お前、――――誰だ?」

 眉をひそめて問いかけた瞬間、体を透明化させて潜んでいた魔術師が俺に攻撃魔法を放ってきた。

「っち!」

 人数は二十人程。

 それぞれ違う属性の魔法を使い、補助と攻撃のバランスも考えている。

 俺の影を大地に縫い止める術を使う者もいて、連携の取れた攻撃に俺は一瞬だけ動きを封じられてしまう。

 そして、――朝陽が昇る。

「死ね!! 化け物!!」

 アリシアのフリをしていた人物は、男の声を出して銀の短剣を振りかざしてきた。

 バンッと扉が開いたかと思うと騎士たちが屋上になだれ込み、銀の矢がドドドッと俺の体を射貫く。

 そしてアリシアのフリをしていた男――エリックが俺の心臓に銀の短剣を突き立てた。

「アリシア様は渡さない! あの女は僕のものだ!」

「………………っ」

 一応、俺の弱点は銀とも言える。

 ――この野郎。男の純真を弄びやがって。

 激しい怒りに駆られた瞬間、俺は口端からグプッと黒い血を吐き出した。



**
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