聖女ですが運命の相手は魔王のようです

臣桜

文字の大きさ
上 下
6 / 15

魔王と送る日常

しおりを挟む
「とにかく、こんな出会いをした相手と結婚するなんてあり得ません。魔王であってもあなたには戦う意志がなく、見境なく人を襲う訳ではない事も理解しました。ですがそれだけです。女性にアプローチしたいと思うなら、正式な手順を踏む事をお勧めします。現れ方一つ間違えると、どれだけ求愛しても聞き入れてもらえないと理解したほうがいいのではありませんか?」

 きっぱり言うと、バルキスは背中を丸めて溜め息をつき、しばし黙る。

「分かったよ。一旦出直す」

 バルキスはベッドから下りると窓に向かい、窓枠に手をかけて飛び乗ったかと思うと、ビシッと私に向けて指を突きつけ振り向いた。

「でも諦めないからな!」

「人に指を向けない」

 冷静に突っ込みを入れると、バルキスは「……冷たい……」と悲しそうな表情をしたあと、窓から身を躍らせた。

「あっ……」

 相手は魔族だし羽もあるから大丈夫と思っていても、私はつい心配になって窓に駆け寄る。冷たくあしらわれたからといって、飛び降り自殺を図られては堪らない。

 窓の外を見ると、敷地内に王宮の建物が見える中、バルキスが大きな羽を広げて滑空していくのが見えた。

 自分を困らせる魔王だというのに、私はその姿を見て思わず溜め息をつく。

「あんなに自由に飛べたら、気持ちいいでしょうね」

 呟いたあと景色を見ると、薔薇窓が割れた大聖堂が見えて今度は別の溜め息をつく。

「……どうしたらいいのかしら」

 私はぼんやりと光る月を見て、激しい疲れを覚えて溜め息をついた。



**



 その後、バルキスは昼夜問わず私の行く先に現れては、花やジュエリーなど、見境のないプレゼント攻撃をはじめた。

 どうやら吸血鬼という種は、物体を透過できるらしい。

 王宮の廊下を歩いていると、いきなり壁からニュッと頭を出して「よう!」と挨拶をしてくるので心臓に悪い。

 現れ方を学習しろと言ったのに、バルキスはまったく学ばない。

 私の側にいる侍女たちは、悪趣味な登場を見るたびに悲鳴を上げる。

 そのたびにバルキスがちょっと嬉しそうな反応をするので、腹を立てた私はもれなく彼を灰化させていた。

 ガーネット様にも相談したけれど、こう言われてしまった。

『あそこまで再生能力の強い魔族は見た事がない。私やアリシアの力でも致命傷を与えられないなら、様子をみるしかない』

 尊敬する彼女に言われては私にできる事はなく、いきなり騒がしくなった日々を受け入れるしかできなくなった。



**



 バルキスが私にちょっかいをかけているのを見て面白くないと思っているのは、いずれ私の婿に……と周囲から言われている宰相の息子エリックだ。

 エリックとお茶を飲んでいた時、彼が心配そうに尋ねてくる。

「アリシア様、お望みなら護衛をつけましょうか?」

「いいえ、必要ありません」

「どうしてですか?」

「必要を感じないからです。考えてもみてください。ガーネット様より聖女としての適性が高いと言われている私ですら、彼に致命傷を与える事ができません。魔に最も有効な力を持つ私とガーネット様が『どうにもできない』と思っているのですから、騎士や魔術師が護衛についてもお話しにならないでしょう。むしろ彼の不興を買えば、余計な犠牲が出てしまいます」

 そこまで言った時、突然バルキスの声がした。

「よく分かってるな」

 今回はどこから現れるのか……と警戒していたら、まさかの天井から逆さまに彼の頭が生えてきた。

「ぎゃっ!」

 エリックは悲鳴を上げ、椅子に座ったまま飛び上がる。素晴らしい体のバネね。

 私は表情を変えないまま、バルキスの頭に向けて光の球を飛ばす。

 ゴシャアッと彼の頭が灰化したあと、バルキスは「ひっど!」と悪態をつきながら頭を復活させる。節操のない頭だ。

 彼は天井から逆さまに全身を現したあと、クルンと空中で回転して足を下に向ける。

「アリシア様、お下がりください!」

 エリックは立ち上がると私の前で剣を構える。

(勇ましいのはいいですが、あなたさっき、悲鳴を上げて飛び上がっていましたよね?)

 私はこちらに背を向け、若干震えているエリックに突っ込みをいれる。あら、寝癖発見。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...