聖女ですが運命の相手は魔王のようです

臣桜

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ゴキブリの名はバルキス

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 曲がりなりにも私は第二王女で、次の聖女となる存在だ。

 そんな女性の部屋に、男性などいるはずもない。

(……誰……が……)

 私はプルプル震えながら、ゆっくりと声がしたほうを見る。

 いつの間にか寝室の窓は開け放たれており、そこには窓枠に座った男性のシルエットがあった。

 しかも夜の薄闇の中で、彼の目はぼんやりと赤く光っている。

(あの魔族!)

 叫ぶより早く、私は聖なる力を高めて魔族目がけて放つ。

「あっ! ちょっ、まっ」

 何か言うより前に彼はボッと吹き飛ばされ、サラッ……と灰と化した。

「はぁ……っ、はぁっ、はぁ……」

 呼吸を乱した私はとりあえずベッドから下りようと思ったけれど――。

「待てよ」

 いきなり手首を掴まれ、あっという間にベッドに押し倒されてしまった。

「きゃあっ!?」

「そうつれなくするなよ」

「いつの間に蘇ったのですか!? 生命力がゴキブリ並みですね!」

「ひどい」

 ゴキブリと言われ、魔族は傷付いたようだ。

「私に何の用ですか」

 私はアイスブルーの目を細め、ゴキブリを見る目で魔族を睨む。

 押し倒されたままだけれど、もう一度聖なる力を使って男を灰化させ、その隙に逃げなければ。

 けれど、彼は「やめとけ」と言うと同時に私の額をトンと指で打つ。

「!?」

 その瞬間、いつもなら滞りなく巡っている魔力がどこかで詰まってしまう。

(苦しい……っ)

 仕方なく、私は魔力を高めるのをやめた。

 すると苦しさも引いていったので、恐らく今のは抵抗を止めるための処置だったのだろう。

「無理をするとつらい思いをするぞ。ひとまず人の話を聞いてくれ」

「……あなた、魔族ですけどね」

 攻撃できないと分かった私は、ふてくされて口答えをする。

 諦めてまな板の上の鯉のように仰向けになっていると、私を押し倒した体勢で魔族が元気に自己紹介した。

「俺の名前はバルキス。魔族とかつれない言い方しないで、まずは名前を呼んでくれ」

「人を押し倒しておきながら、いきなり自己紹介ですか? 馴れ馴れしくも第二王女に名を呼んでほしいなど図々しいですね」

 ヒヤリとした態度を取りつつも、私は内心驚いていた。

 魔族などの人外の存在には、真名というものがある。

 それを他者に教えると自身の魂を委ねるも同然になるし、偽りの名であってもある程度の効力を発揮する。

 魔族は高位の存在ほど多くの名を持っているので、封じようとしても、彼のごく一部しか封じる事はできないだろう。

 そうであっても、名を教えるのはリスクのある行為だ。

「アリシアになら名前を教えてもいいと思って。バルたんって呼んでくれてもいいぞ」

「シンプルに気持ち悪いです」

 真顔で言うと、バルキスはしょんぼりとした。

「……まぁ、とりあえずお前の言う事にも一理あるから……」

 そう言ってバルキスは私の上からどき、私は体の自由を取り戻す。

 起き上がった私に、彼は笑顔で尋ねてきた。

「少しは信頼してくれたか?」

「小指の爪の先ぐらいなら」

「ホントに少しだな」

 彼は残念そうに言い、肩を落とす。

「そんな戯れ言などどうでもいいのです。あなたは何者です? なぜ私を狙うのですか?」

 王女としての威厳を失わないよう少し高圧的に尋ねたけれど、思いも寄らない返事を聞いて私は目を丸くした。

「俺はお前の両親と『アリシアが十八歳になったら、妻として迎えにくる』と約束したんだけど」

「ええ!?」

 まさか両親が娘を魔族に売っていたと思わず、私は声を上げる。

「何も聞かされていません」

「んまー、そうだろうな」

 バルキスはのんびりと言い、こちらは混乱しているというのに、その態度が腹立たしい。
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