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いきなり現れて何を言っているんですか

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 私はアリシア・セイラ・ハート・ランディシア。

 ランディシア王国の第二王女で、聖女だ。

 落ち着いているといえば聞こえがいいけれど、あまり動じない性格から『氷の聖女様』とも呼ばれている。

 銀髪にアイスブルーの目をしている事も、〝氷〟のイメージに拍車を掛けているのだろう。

 私が生まれた時には、この国にはすでに聖女様がいた。

 現在三十八歳の彼女ガーネット様は、現役の聖女を引退しようとしている。

 私は生まれた時にガーネット様に聖属性の魔法の適性があり、聖女となるのに相応しいと判断され、そのときから聖女となるべく英才教育を受けてきた。

 第一王女である二十歳のマーガレットお姉様は、もうすでに隣国の王太子殿下との婚約が決まっている。

 長男で王太子のバルクンドお兄様は二十五歳で、お父様のあとを継いでいずれ国王となる。

 次男で第一王子のルークお兄様は二十一歳で軍所属。

 ランディシアは現在とても平和で、家族仲もとても良かった。

 この世界には天界に住まう神々や、妖精、精霊、魔族がいて、私たちはエルフなどの亜人間と共存している。

 そんな中、人間は魔族に襲われる事が多々あり、悩まされている。

 行方不明者や死者、取り憑かれた者が出るので、主に騎士団や魔術師団が彼らに対抗していた。

 けれどこの国はガーネット様が作った結界で守られているので、魔物の大軍が王都に押し寄せることはない。

 各国には一人聖女がいて、十八歳になった私はガーネット様から聖女の役割を継承する事になっていた。

「用意はいい? アリシア」

 右目に眼帯をしたガーネット様は、マーメイドラインのシンプルな白い聖衣に身を包み、白いベールを被っている。

 目の怪我は彼女が二十代の頃、魔族と大きな戦いをして負ったものらしい。

 今でこそ「こんなの、名誉の負傷だって!」とお酒を飲みながら明るく笑い飛ばしているけれど。

 ……そう。お酒を飲みながら。

 民は聖女が酒豪……と知らないので、その事を知るのは彼女の側にいる者たちだけだ。

 おまけに「薬」と称して薬草で作った煙草を吸っているだなんて……言えない。

 それでもガーネット様は凄腕の聖女様で、私が小さい時から結界の張り方や治癒術の使い方、召喚術や祝福の仕方などを教えてくれた。

 今では彼女の事を、歳の離れた第二の姉のように思っている。

 今、私は式典用の純白のドレスを身に纏い、大聖堂にいる。

 ウエディングドレスのような服に身を包むと、これから神様にお仕えし、役目が終わるまで国を守るのだという気持ちが増し、背筋が伸びる思いだ。

 私とガーネット様は、薔薇窓とステンドグラスが美しい祭壇の裏手に立っている。

 大聖堂では聖職者たちが聖歌を歌い、銀の振り香炉の紐を引いて乳香の煙を舞わせている。

 神聖で厳粛な空気に包まれたなか、ベンチにはお父様を初めとする家族、そして貴族たち、上位騎士や魔術師が座っている。

 これから私はランディシアの聖女となる宣誓をする。

(緊張するわ……。誓いの言葉は暗記したけれど、噛まないようにしないと)

 私は唾を飲み、乾いた喉を湿らせる。

 やがて聖歌が終わったあと、ガーネット様が「いくよ」と声を掛けて前に進み出た。

 壇上に進むと皆の視線を浴び、緊張が増す。

 けれど何回も練習をしたからか、儀式は滞りなく進んでいった。

 私が聖書に片手を当て、神様とこの国への忠誠の言葉を唱えていたとき――。

 ガシャーン!

 大きな音を立てて薔薇窓が割れた。

「っ姫様!」

 とっさに近くにいた騎士たちが動き、私をガラスの破片から守ろうとする。

「何者?!」

 ガーネット様は鋭い声を出し、赤い宝石が嵌まったロッドでシールドを張った。

 薔薇窓の破片はその場にいる者たちに降り注ぎ、傷つけるかと思ったけれど――。

「えっ?」

 破片は私の周りだけに降り、円を描くように空中に浮いて私を閉じ込める。

 その時、大きな羽音が聞こえたかと思うと、私たちに何者かの影がかかった。

 見上げると巨大なコウモリのような羽を三対持った、漆黒の髪に漆黒の服を纏った男性が、ポケットに手を入れたままゆっくり降下してくるところだ。

 黒髪をなびかせた彼は、ルビーのような目を細めて私を見て笑う。

「この時を待ったぞ。アリシア」

 彼がゆっくりと下りてくる間、祭壇に騎士たちが駆けつけて槍を構える。

「三百年……お前が成人するのを待ってい――――ぶぅっ!」

 彼は何かいい事を言おうとしたみたいだけれど、ガーネット様がロッドを構えて思いきりスイングする。

 その瞬間、聖属性の魔法が彼を直撃し、大きな爆発音がした。
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