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番外編 2 タワマン事件簿
たまにはパーッと遊びたかった
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どうやら正樹の〝融通〟がきくホテルがあるらしく、結局そこのスイートに入り、ルームサービスで和食をとる事になった。
「お泊まりもしないんだよ? 休憩です!」
ラブホテル用語を出し、私はパンパンッとソファの座面を叩く。
「一泊幾らするの?」
無駄遣いは許さない。
いつものように怒っていると、向かいのソファで慎也と正樹が顔を見合わせた。
「だってなぁ……」
「ねー」
こんな時だけ、息ぴったりに仲良しにならんでええ。
「僕らさ、この系列のホテルの株主な訳。泊まるにしても割引価格になるし、優美ちゃんが思ってるよりお安いよ?」
「幾ら株主優待で安くなるって言っても、一泊何十万もするのを、お安いとは言わないの」
私は腕を組み、脚も組んで言う。
すると慎也が溜め息をつき、立ちあがると私の隣に座った。
「なにプリプリ怒ってるんだよ。……可愛いけど。こうやって三人で時間を過ごせる機会、そうそうないの、分かってるよな? 文句ならあとで聞くからさ、楽しまない?」
言われて、こんなに素敵な所に連れてきてもらったのに、怒ってばっかりだったのに気づいた。
「……ごめん。態度悪かった」
二人とも、私を喜ばせてくれようと思っての事なのに。
つい庶民感覚が先に出てしまった。
「や、いいよ。っていうかごめんね? 車の中でも言ったけど、ずっと嫌な雰囲気で緊張してたから、たまにはパーッと遊びたかったんだ」
「……そっか。……そうだよね」
身の危険を感じるビリビリ写真を見つけて、それからマンションの住人が怪我を負ったりなんだり……と、いつ自分が危険な目に遭うか分からない状況が続いた。
気を遣ってくれたんだ。
そう思うと、小さい事でキーキー言っていた自分が情けなくなった。
「……ごめん。そうだよね。もう〝終わった〟んだし、打ち上げ的に楽しんでもいいのかも」
認めると、慎也が頭をポンポンと撫でてきた。
「こうやってすぐ撤回できるところ、優美のいいところだよな」
「ありがと」
私は褒められてちょっと照れくさくなり、慎也の肩に頭を寄せる。
「大人になるにつれ、自分の主張を曲げるって、地味に難しくなるからねー。その辺、柔軟に対応できる人は、精神的に若いって思うよ」
正樹が向かいでのんびり言い、いきなりスマホを私たちに向けると、カシャッと写真を撮ってきた。
「ホラ、知識を蓄えて大人になっていくから、歳を重ねるにつれ、自分なりの正義ができてくじゃん。子供の頃は『それ、間違えてるよ』って言われたら『そうなんだ』って素直に受け入れられるけどね、二十代でも頑なな人はいるし、三十代、四十代ってなるたびに、アップデートしていかないと、どんどん偏屈になっていくんだよね。最後には頑固ジジイやババアのできあがりだよ」
おい、写真を撮った事への説明はなしか。
正樹はスマホを見て、ちょいちょいと何かしてる。加工かな?
慎也もそれは思っているようで、私を見て小さく首を傾げながら言う。
「ま、それはおいといて、子育てと三人の時間と、緩急つけて楽しもうぜ。勿論、俊希の事は一番に大切だけど、たまには息抜きも大事だ」
「うん、ありがと」
今日、泊まりじゃなくて日帰りにしたのも、気を遣ってくれたんだろう。
「ねー! 見てみて~!」
その時、正樹が立ちあがって私にスマホを見せてきた。
「え? 何? 加工できたの? ……っぶふぉんっ」
正樹のスマホを見て、私は激しく噴きだした。
てっきり明るさとか影の修正をされた、まんまの写真が出てくると思いきや、AIも駆使した加工アプリで、私はヒゲの生えたナイスガイ、慎也は黒髪ロングヘアの美女になってる!
「ちょっと! 慎子の美に嫉妬するわ!」
正樹が裏声を出してそう言うので、私はゲラゲラ笑ってソファの座面を叩く。
「ちょ、ま。ちょ、見せて」
私はヒイヒイ笑いながら、もう一度スマホを覗き込む。
加工された〝私〟は、ニカッと白い歯を覗かせて笑い、太くて凜々しい眉にしっかりした鼻、そして頬から鼻の下にかけてワサッとヒゲが生えている。
もとはロングヘアの状態で写真を撮ったはずなのに、髪の毛はすっきりベリーショートだ。こういうハリウッド俳優いそう。
「お泊まりもしないんだよ? 休憩です!」
ラブホテル用語を出し、私はパンパンッとソファの座面を叩く。
「一泊幾らするの?」
無駄遣いは許さない。
いつものように怒っていると、向かいのソファで慎也と正樹が顔を見合わせた。
「だってなぁ……」
「ねー」
こんな時だけ、息ぴったりに仲良しにならんでええ。
「僕らさ、この系列のホテルの株主な訳。泊まるにしても割引価格になるし、優美ちゃんが思ってるよりお安いよ?」
「幾ら株主優待で安くなるって言っても、一泊何十万もするのを、お安いとは言わないの」
私は腕を組み、脚も組んで言う。
すると慎也が溜め息をつき、立ちあがると私の隣に座った。
「なにプリプリ怒ってるんだよ。……可愛いけど。こうやって三人で時間を過ごせる機会、そうそうないの、分かってるよな? 文句ならあとで聞くからさ、楽しまない?」
言われて、こんなに素敵な所に連れてきてもらったのに、怒ってばっかりだったのに気づいた。
「……ごめん。態度悪かった」
二人とも、私を喜ばせてくれようと思っての事なのに。
つい庶民感覚が先に出てしまった。
「や、いいよ。っていうかごめんね? 車の中でも言ったけど、ずっと嫌な雰囲気で緊張してたから、たまにはパーッと遊びたかったんだ」
「……そっか。……そうだよね」
身の危険を感じるビリビリ写真を見つけて、それからマンションの住人が怪我を負ったりなんだり……と、いつ自分が危険な目に遭うか分からない状況が続いた。
気を遣ってくれたんだ。
そう思うと、小さい事でキーキー言っていた自分が情けなくなった。
「……ごめん。そうだよね。もう〝終わった〟んだし、打ち上げ的に楽しんでもいいのかも」
認めると、慎也が頭をポンポンと撫でてきた。
「こうやってすぐ撤回できるところ、優美のいいところだよな」
「ありがと」
私は褒められてちょっと照れくさくなり、慎也の肩に頭を寄せる。
「大人になるにつれ、自分の主張を曲げるって、地味に難しくなるからねー。その辺、柔軟に対応できる人は、精神的に若いって思うよ」
正樹が向かいでのんびり言い、いきなりスマホを私たちに向けると、カシャッと写真を撮ってきた。
「ホラ、知識を蓄えて大人になっていくから、歳を重ねるにつれ、自分なりの正義ができてくじゃん。子供の頃は『それ、間違えてるよ』って言われたら『そうなんだ』って素直に受け入れられるけどね、二十代でも頑なな人はいるし、三十代、四十代ってなるたびに、アップデートしていかないと、どんどん偏屈になっていくんだよね。最後には頑固ジジイやババアのできあがりだよ」
おい、写真を撮った事への説明はなしか。
正樹はスマホを見て、ちょいちょいと何かしてる。加工かな?
慎也もそれは思っているようで、私を見て小さく首を傾げながら言う。
「ま、それはおいといて、子育てと三人の時間と、緩急つけて楽しもうぜ。勿論、俊希の事は一番に大切だけど、たまには息抜きも大事だ」
「うん、ありがと」
今日、泊まりじゃなくて日帰りにしたのも、気を遣ってくれたんだろう。
「ねー! 見てみて~!」
その時、正樹が立ちあがって私にスマホを見せてきた。
「え? 何? 加工できたの? ……っぶふぉんっ」
正樹のスマホを見て、私は激しく噴きだした。
てっきり明るさとか影の修正をされた、まんまの写真が出てくると思いきや、AIも駆使した加工アプリで、私はヒゲの生えたナイスガイ、慎也は黒髪ロングヘアの美女になってる!
「ちょっと! 慎子の美に嫉妬するわ!」
正樹が裏声を出してそう言うので、私はゲラゲラ笑ってソファの座面を叩く。
「ちょ、ま。ちょ、見せて」
私はヒイヒイ笑いながら、もう一度スマホを覗き込む。
加工された〝私〟は、ニカッと白い歯を覗かせて笑い、太くて凜々しい眉にしっかりした鼻、そして頬から鼻の下にかけてワサッとヒゲが生えている。
もとはロングヘアの状態で写真を撮ったはずなのに、髪の毛はすっきりベリーショートだ。こういうハリウッド俳優いそう。
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