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番外編 2 タワマン事件簿
前向きに頑張る人
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「ただ、人から何かを言われて、柔軟に『そうだな』と思えるかどうかが、生きやすさを左右すると思います。世の中に沢山ある言葉を自分で取捨選択して、タダでいいとこ取りをして自分に生かせばいいんですから。ネットなんて情報の宝庫じゃないですか。正しく選択する事ができれば、どんどん自分をアップデートできますよ」
さやかさんの表情からは、もう険はとれていた。
「私はさやかさんの人生に責任を持ちません。私がこうやって言っている事も、すべて無責任な言葉です。でも大人なら誰かに責任をとってもらわなくても、自分で決めていけるはずです。〝なりたい将来〟のために、利用できるものはどんどん利用しましょう」
私は彼女の両手をキュッと握り、微笑みかける。
「これからどうなりたいですか? 夢はありますか?」
彼女はしばらく視線をさまよわせ、迷っていたけれど、おずおずと口を開く。
「……失敗しない再婚をしたい。夫と子供に恵まれた、幸せな家庭を築きたい」
「うん!」
彼女の望みを聞き、私はニカッと笑う。
「そのために、何が必要だと思いますか?」
「……出会い。好きになってもらうための努力。……どうしたらいいか、詳細は分からないけど」
「どういう人と結婚したいですか?」
「……お金持ちで、優しくて、……なるべく若くてイケメン」
「んー」
どこかで聞いた返事に、私は「なるほど」と思って頷く。
「優先順位をつけましょう。ある程度生活のためにお金は必要です。優しい人とならいい夫婦になれそうですね。年齢が近いと価値観も似ているかも。イケメンだと、毎日顔を拝んで幸せな気持ちになりますね。でも、全部となると難しいです。宝くじで高額当選するようなもんです。大体そういう人って、すでに〝先客〟がいます。その中で、何を後回しにできるか考えましょう」
彼女は頷く。
「自分の事も見つめ直してみましょう。さやかさんの外見は申し分ないです。二十八歳という年齢も、適齢期ど真ん中。お金も住まいもありますね。離婚歴があると、理由を知りたがるかもしれません。お金に関する事なら、相手は月にどれぐらいお金を使うかとか、家事能力を知りたがると思います。確かにお金を払えば、家政婦さんを雇えます。でも家庭料理が食べたいって思う人かもしれない。料理男子が増えてきましたけど、全員がそうとは限りません。自分の武器として、家事能力を上げる事は可能ですか?」
「……基礎から分かりやすく学べるなら、努力できると思う」
「うん。あと、ある程度の物は持っていると思いますが、結婚相手が将来のためになるべく出費を抑えたいって言ったら、可能ですか?」
「……努力はする。今まであまり物欲を我慢しなかったから、できるか分からないけど」
私はうんうんと頷く。
「結婚って、自分の希望を全部貫こうとすると、なかなか相手が見つからないと思います。『どうしても譲れないこの点はマッチしたから、あとは譲歩しよう』っていうのが多いんじゃないかな? イケメンじゃなくても、性格や価値観が合って一緒にいて楽しい人と結婚したカップルは、ゴロゴロいると思います。別の夫婦は体の相性が良かったから続いているとか、人によって重視する点は異なります。ぶっちゃけ、顔が良くてお金持ちでも、性格が最低なら私は結婚したくないですし」
後ろで正樹がスッと息を吸った音が聞こえたけど、君の事じゃないからね。
「相手にプレゼンできる内容を、どんどん整えていきましょう。営業と同じです。さやかさんという商品を受け入れてもらうために、良い点を沢山作っていくんです。幸い、まだ運命の相手と出会う前です。まだまだ作り込みができますよ? そして、特技を増やすと同時に、考え方も変えていきましょう。前回うまくいかなかった事を、次回に生かすんです。そして幸せになって、見返してやるんですよ」
彼女はコクンと小さく頷いた。
そして溜め息をついて私を見て、疲れたように気弱に笑った。
「……そうですね。私、立ち止まって怒り狂ったままだったと思います。如何にあの二人にやり返すかで頭が一杯になっていました。怨念みたいになった気持ちを捨てきれなくて、自分を支配されて、……前に進めずにいた」
「それだけ傷付いたんです。仕方ありません。でも気付けたなら、少しずつ前に進みましょう。悔しい思いを全部なかった事にするのは、不可能です。嫌な思い出ほど心にこびりつきますから」
「そうですね」
彼女は頷く。
「時々思いだしてもいいです。でもそれを、進むエネルギーの燃料にしましょう。悔しかった事を思いだしたら、成長して『わたくし、こんなにいい女になったんですが? ごめんあそばせ!』って言えるようにしましょう」
私のお嬢様言葉がおかしかったのか、さやかさんは小さく笑う。
「嫌な思い出を、サッカーボールみたいに蹴飛ばして、前に進むんです。もしかしたらどこかに、華麗にシュートを決められるようになるかもしれません。気がついたらサポーターが増えて、声援をもらえるようになっているかもしれません。全部、さやかさん次第ですよ。人は前向きに頑張る人に勇気をもらって、応援したくなりますから」
そう言って、私はぐっと小さく拳を握った。
さやかさんの表情からは、もう険はとれていた。
「私はさやかさんの人生に責任を持ちません。私がこうやって言っている事も、すべて無責任な言葉です。でも大人なら誰かに責任をとってもらわなくても、自分で決めていけるはずです。〝なりたい将来〟のために、利用できるものはどんどん利用しましょう」
私は彼女の両手をキュッと握り、微笑みかける。
「これからどうなりたいですか? 夢はありますか?」
彼女はしばらく視線をさまよわせ、迷っていたけれど、おずおずと口を開く。
「……失敗しない再婚をしたい。夫と子供に恵まれた、幸せな家庭を築きたい」
「うん!」
彼女の望みを聞き、私はニカッと笑う。
「そのために、何が必要だと思いますか?」
「……出会い。好きになってもらうための努力。……どうしたらいいか、詳細は分からないけど」
「どういう人と結婚したいですか?」
「……お金持ちで、優しくて、……なるべく若くてイケメン」
「んー」
どこかで聞いた返事に、私は「なるほど」と思って頷く。
「優先順位をつけましょう。ある程度生活のためにお金は必要です。優しい人とならいい夫婦になれそうですね。年齢が近いと価値観も似ているかも。イケメンだと、毎日顔を拝んで幸せな気持ちになりますね。でも、全部となると難しいです。宝くじで高額当選するようなもんです。大体そういう人って、すでに〝先客〟がいます。その中で、何を後回しにできるか考えましょう」
彼女は頷く。
「自分の事も見つめ直してみましょう。さやかさんの外見は申し分ないです。二十八歳という年齢も、適齢期ど真ん中。お金も住まいもありますね。離婚歴があると、理由を知りたがるかもしれません。お金に関する事なら、相手は月にどれぐらいお金を使うかとか、家事能力を知りたがると思います。確かにお金を払えば、家政婦さんを雇えます。でも家庭料理が食べたいって思う人かもしれない。料理男子が増えてきましたけど、全員がそうとは限りません。自分の武器として、家事能力を上げる事は可能ですか?」
「……基礎から分かりやすく学べるなら、努力できると思う」
「うん。あと、ある程度の物は持っていると思いますが、結婚相手が将来のためになるべく出費を抑えたいって言ったら、可能ですか?」
「……努力はする。今まであまり物欲を我慢しなかったから、できるか分からないけど」
私はうんうんと頷く。
「結婚って、自分の希望を全部貫こうとすると、なかなか相手が見つからないと思います。『どうしても譲れないこの点はマッチしたから、あとは譲歩しよう』っていうのが多いんじゃないかな? イケメンじゃなくても、性格や価値観が合って一緒にいて楽しい人と結婚したカップルは、ゴロゴロいると思います。別の夫婦は体の相性が良かったから続いているとか、人によって重視する点は異なります。ぶっちゃけ、顔が良くてお金持ちでも、性格が最低なら私は結婚したくないですし」
後ろで正樹がスッと息を吸った音が聞こえたけど、君の事じゃないからね。
「相手にプレゼンできる内容を、どんどん整えていきましょう。営業と同じです。さやかさんという商品を受け入れてもらうために、良い点を沢山作っていくんです。幸い、まだ運命の相手と出会う前です。まだまだ作り込みができますよ? そして、特技を増やすと同時に、考え方も変えていきましょう。前回うまくいかなかった事を、次回に生かすんです。そして幸せになって、見返してやるんですよ」
彼女はコクンと小さく頷いた。
そして溜め息をついて私を見て、疲れたように気弱に笑った。
「……そうですね。私、立ち止まって怒り狂ったままだったと思います。如何にあの二人にやり返すかで頭が一杯になっていました。怨念みたいになった気持ちを捨てきれなくて、自分を支配されて、……前に進めずにいた」
「それだけ傷付いたんです。仕方ありません。でも気付けたなら、少しずつ前に進みましょう。悔しい思いを全部なかった事にするのは、不可能です。嫌な思い出ほど心にこびりつきますから」
「そうですね」
彼女は頷く。
「時々思いだしてもいいです。でもそれを、進むエネルギーの燃料にしましょう。悔しかった事を思いだしたら、成長して『わたくし、こんなにいい女になったんですが? ごめんあそばせ!』って言えるようにしましょう」
私のお嬢様言葉がおかしかったのか、さやかさんは小さく笑う。
「嫌な思い出を、サッカーボールみたいに蹴飛ばして、前に進むんです。もしかしたらどこかに、華麗にシュートを決められるようになるかもしれません。気がついたらサポーターが増えて、声援をもらえるようになっているかもしれません。全部、さやかさん次第ですよ。人は前向きに頑張る人に勇気をもらって、応援したくなりますから」
そう言って、私はぐっと小さく拳を握った。
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