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番外編 2 タワマン事件簿
あの時に分かっていれば
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彼女は人と付き合う方法や愛される事を、周囲を見ながら学んでいくしかなかった。
学校で宿題が出ても、教えてもらえなかったかもしれない。
それでも彼女は自分の人生に食らいつき、必死に生きてきた。
血の滲むような努力で、色んな事を習得したと思う。
でも両親に愛されて育った人の考え方、帰る家のある人の安心感は理解しがたかったただろう。
そういう人に憧れ、嫉妬し、憎んだ気持ちも想像できる。
恐れを抱かず色んな人の懐に入っていける人って、相手に拒否されない自信があるからじゃないだろうか。
少なくとも「嫌われるかも、怒らせるかも」と顔色を伺っている人は、ズバッとした言い方をできないと思う。
相手を傷つけないように、「~かもしれない」とフワッとした言い方をしがちだ。
自分に自信を持つって、自分の存在に価値があると思える人の事だと思う。
沢山勉強して知識や技術があると誇りがある場合もそうだし、外見を磨いた人、コミュニケーションが抜群にうまい人など特技、長所のある人はそれを武器にしやすい。
家族にしっかり愛された人も、多少の失敗があっても「最低限家族は味方だ」と思えるんじゃないだろうか。
これといった特技がなくても、気持ちが安定していると自信に繋がりやすい。
あんりさんがどんな人か分からないけど、私は何となく彼女のナチュラルな魅力の理由について想像を巡らせた。
彼女は溜め息をついて、続きを口にする。
「嫉妬しました。ナンバーワンは必死に守りましたが、あんりは天性の魅力で色んなお客様を虜にしていました。私を指名してくださるお客様も、あんりを気にしていて……。いつとられるか、毎日ヒヤヒヤしていました」
確かに、そういう人たらしみたいな人は一定数いる。
「優美さんがあまりにあんりと似ていて……」
「えっ?」
けどそう言われて、思わず声を上げてしまった。
「……いや、私あんりさんを知りませんけど……」
宇宙猫みたいな顔になった私を見て、さやかさんは頷く。
「分かってますよ。でも似てるんです。顔が、というより、雰囲気が似ています。顔全体で底抜けに明るく笑う感じや、ものをまっすぐ見る目。自分に自信があって、決しておどおどしないでしょう。立っている姿も堂々としていて、全身から自信が溢れている」
「私、そんなんじゃないですよ? コンプレックスの塊です。そう見えるよう努力しているだけです」
戸惑いながら言う私を、さやかさんは何とも言えない目で見る。
「……心の中では分かっているんです。優美さんにはあなたの人生があって、私の知らない生い立ち、背景がある。冷静になれば分かります。……っでも……、ペントハウスに住んでいて、美形兄弟と暮らしていて、子供もいて、親友は有名人で……」
表情を歪ませる彼女の中で、昏い感情が渦巻いているのが見えるようだ。
「どんなにつらい事があっても、あなたには〝それ〟がある。……っ私は、夫に浮気されて離婚して、多額のお金を得ても一人……っ。――――こんなに努力したのに……っ! 〝成功〟して〝一抜け〟したと思ったのに……っ!」
さやかさんは唇を震わせ、目を涙に滲ませる。
そして私を見てクシャリと表情を歪ませ、笑った。
「あの人がずっと浮気していた相手は、あんりだったんです……っ! 結局、私よりあの女のほうが良かったんです……っ!」
彼女の悲痛な叫びを聞いて、私は静かに息をついて俯く。
「浮気してる奴なんて、全員破滅すればいい! 美香さんも光圀さんも、疑心から関係がぶち壊れて離婚すればいいと思いました!」
さやかさんの私への嫉妬は理解したけど、美香さんたちへの怒りにも納得がいった。
「同情するけどさ、それって優美ちゃんじゃないじゃん。似てるからっていう理由で八つ当たりされても迷惑なんだよ」
正樹はいっさい同情せず、スパッと切り捨てる。
けれどさやかさんは構わず先を続けた。
「…………っだから……っ、――私は、私に懐いていた黒服を利用して、あんりを歩道橋から突き落とさせたんです……っ!」
狂気めいた笑みを浮かべ、さやかさんは自分の罪を告白する。
それを聞いた時、ピンときてしまった。
以前彼女を心配して、プリンを持ってお見舞いに行った時。
さやかさんは職場が同じだった女性に恨まれて、彼女に頼まれた男性に歩道橋から突き落とされたと言っていた。
――あれは、自分のした事を言っていたんだ。
よくある手だけど、相談する時に「友達の話だけど」と言って自分の話をするやつだ。
……あの時に分かっていれば。
そう思ったけれど、もう遅い。
学校で宿題が出ても、教えてもらえなかったかもしれない。
それでも彼女は自分の人生に食らいつき、必死に生きてきた。
血の滲むような努力で、色んな事を習得したと思う。
でも両親に愛されて育った人の考え方、帰る家のある人の安心感は理解しがたかったただろう。
そういう人に憧れ、嫉妬し、憎んだ気持ちも想像できる。
恐れを抱かず色んな人の懐に入っていける人って、相手に拒否されない自信があるからじゃないだろうか。
少なくとも「嫌われるかも、怒らせるかも」と顔色を伺っている人は、ズバッとした言い方をできないと思う。
相手を傷つけないように、「~かもしれない」とフワッとした言い方をしがちだ。
自分に自信を持つって、自分の存在に価値があると思える人の事だと思う。
沢山勉強して知識や技術があると誇りがある場合もそうだし、外見を磨いた人、コミュニケーションが抜群にうまい人など特技、長所のある人はそれを武器にしやすい。
家族にしっかり愛された人も、多少の失敗があっても「最低限家族は味方だ」と思えるんじゃないだろうか。
これといった特技がなくても、気持ちが安定していると自信に繋がりやすい。
あんりさんがどんな人か分からないけど、私は何となく彼女のナチュラルな魅力の理由について想像を巡らせた。
彼女は溜め息をついて、続きを口にする。
「嫉妬しました。ナンバーワンは必死に守りましたが、あんりは天性の魅力で色んなお客様を虜にしていました。私を指名してくださるお客様も、あんりを気にしていて……。いつとられるか、毎日ヒヤヒヤしていました」
確かに、そういう人たらしみたいな人は一定数いる。
「優美さんがあまりにあんりと似ていて……」
「えっ?」
けどそう言われて、思わず声を上げてしまった。
「……いや、私あんりさんを知りませんけど……」
宇宙猫みたいな顔になった私を見て、さやかさんは頷く。
「分かってますよ。でも似てるんです。顔が、というより、雰囲気が似ています。顔全体で底抜けに明るく笑う感じや、ものをまっすぐ見る目。自分に自信があって、決しておどおどしないでしょう。立っている姿も堂々としていて、全身から自信が溢れている」
「私、そんなんじゃないですよ? コンプレックスの塊です。そう見えるよう努力しているだけです」
戸惑いながら言う私を、さやかさんは何とも言えない目で見る。
「……心の中では分かっているんです。優美さんにはあなたの人生があって、私の知らない生い立ち、背景がある。冷静になれば分かります。……っでも……、ペントハウスに住んでいて、美形兄弟と暮らしていて、子供もいて、親友は有名人で……」
表情を歪ませる彼女の中で、昏い感情が渦巻いているのが見えるようだ。
「どんなにつらい事があっても、あなたには〝それ〟がある。……っ私は、夫に浮気されて離婚して、多額のお金を得ても一人……っ。――――こんなに努力したのに……っ! 〝成功〟して〝一抜け〟したと思ったのに……っ!」
さやかさんは唇を震わせ、目を涙に滲ませる。
そして私を見てクシャリと表情を歪ませ、笑った。
「あの人がずっと浮気していた相手は、あんりだったんです……っ! 結局、私よりあの女のほうが良かったんです……っ!」
彼女の悲痛な叫びを聞いて、私は静かに息をついて俯く。
「浮気してる奴なんて、全員破滅すればいい! 美香さんも光圀さんも、疑心から関係がぶち壊れて離婚すればいいと思いました!」
さやかさんの私への嫉妬は理解したけど、美香さんたちへの怒りにも納得がいった。
「同情するけどさ、それって優美ちゃんじゃないじゃん。似てるからっていう理由で八つ当たりされても迷惑なんだよ」
正樹はいっさい同情せず、スパッと切り捨てる。
けれどさやかさんは構わず先を続けた。
「…………っだから……っ、――私は、私に懐いていた黒服を利用して、あんりを歩道橋から突き落とさせたんです……っ!」
狂気めいた笑みを浮かべ、さやかさんは自分の罪を告白する。
それを聞いた時、ピンときてしまった。
以前彼女を心配して、プリンを持ってお見舞いに行った時。
さやかさんは職場が同じだった女性に恨まれて、彼女に頼まれた男性に歩道橋から突き落とされたと言っていた。
――あれは、自分のした事を言っていたんだ。
よくある手だけど、相談する時に「友達の話だけど」と言って自分の話をするやつだ。
……あの時に分かっていれば。
そう思ったけれど、もう遅い。
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