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番外編 2 タワマン事件簿

狂気を孕んだ微笑み

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 Tシャツにジャージ素材のスカートを穿いていたけど、やっぱりハイブランドのロゴが目立つ。

 彼女は私たちの顔を見て、いつもと変わらない微笑みを浮かべた。

「びっくりしました。どうぞお上がりください」

 あんまり驚いたように見えないけど、こうなるって想定していたのかな。
 ある程度予測していなければ、休日にいきなり家族三人で家を突撃されて、驚かないはずがない。

(やっぱり……)

 暗い気持ちになったけど、あえて表情には出さず「お邪魔します」と玄関に入った。
 私たちがソファにつくと、さやかさんは「お茶をお出ししますね」とキッチンに立つ。

「いえ、お構いなく。今まで三笠さんの家にいて、お茶を出して頂いたので」

 慎也がストレートに言うので、ドッキン! と胸が高鳴る。
 そして、ブワッと変な汗を掻いた。

「いいえ。お客様がいらしたというのに、何も出さない訳にいきませんから」

 そう言われると、何も言えなくなる。

 私はソファに座り、ぼんやりとリビングを見ている。
 その時、さやかさんが口を開いた。

「三笠さんに私の事を聞いたんですよね?」

「…………!」

 私は瞠目して彼女を見る。
 けど、さやかさんはまったく動じていない。……というか、むしろその落ち着きがだんだん怖くなってきた。

「……という事は、僕たちが言いたい事が分かってるんですよね?」

 正樹がゆったりと座ったまま応える。

「まぁ、ある程度は」

 電子ケトルで紅茶を淹れて蒸す間、さやかさんは戸棚から高級お菓子を出して、ブランド物のお皿に並べる。
 やがて、私たちの前に紅茶とお茶菓子が出された。

「どうも……」

 私は会釈して、ティーカップに手を伸ばす。

 ――と、その手を正樹に掴まれた。

「ん?」

 何で? と思ったけど、その前にさやかさんが笑った。

「何も入っていませんよ。傷害罪になりますもの」

「~~~~っ」

 可能性は考えておらず、私はゾクッとする。

「万が一を考えて、手はつけません。悪しからず」

 慎也が言い、さやかさんは「お好きに」と微笑んで自分は紅茶を飲んだ。

「どうしてうちの妻なんですか?」

 慎也が直球で尋ねる。
〝何が〟と言わなかったけれど、さやかさんは理解して微笑む。

「だってずるいんですもの」

「…………っ」

 、私はブルッと震えた。

 ……ほんまもんのやつかな。

「私、割とこのマンションに住むのは長いんです。多分、優美さんより長く、お二人と同じマンションにいると思います」

「今まで話した事もない、赤の他人ですけどね」

 正樹が冷ややかに言う。

「何度もエレベーターで一緒になりましたけどね」

 さやかさんが微笑む。
 だんだん、彼女の綺麗な顔が狂気に満ちた笑顔に見えてきた。

「覚えてません。意識しなければいないも同然です」

「あら、意識はしてくれたと思いますよ。私が落としたハンカチ、拾ってくれたじゃありませんか」

 なんつー古風な手を。

「だとしても、覚えてません」

 慎也も態度を変えない。
 さやかさんは溜め息をつき、紅茶をもう一口飲む。

「素敵な方だと思ったんですよ。芸能人かと思いました。マンションを出入りする時に話せないかと思って、ロビーで本を読んでいたら、セールスの方とお話されていたのが聞こえて、久賀城ホールディングスの御曹司だと知りました」

 凄い根性だな。刑事みたいだ。

「素直に怖いですし、気持ち悪いんですけど」

 正樹は愛想笑いもせず、ストレートに言う。

 ガツガツの戦闘態勢に「おああ……」と思うものの、この手の人に愛想を見せたらいけないのは分かってる。

「知らない方だからこそ、知る努力をしなければいけないじゃないですか」

「既婚者ですよ」

 慎也が手をかざして結婚指輪を強調する。
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