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番外編 2 タワマン事件簿
あなたは可能性に満ちているんです
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「あのさぁ、僕らが〝眩しい光を浴びてまっすぐ進んでる〟って、誰が言った? 僕ら、君とじっくり話すの初めてだよね? 僕らの家庭の事とか、仕事の話もまったくしてないよね? 勝手に決めつけないでくれる?」
強い口調で言われ、三笠さんは涙混じりの目で正樹を見る。
「そーいう『じゃあ、久賀城さんにもつらい事あるの?』って伺うような目をされるのも不快なんだけど。お前に話す事なんて一つもねーよ。この犯罪者が」
初めて正樹の口調が乱れた……というか、マジモードになって、私は瞠目して彼を盗み見た。
正樹は少し顎を上げた尊大な態度で、珍しく顔に不快感を露わにしている。
「悪い所が分かってるなら、そこでブレーキ踏んで自分で何とかしろよ。どうにもできなくて他人を羨んで、挙げ句関係ない人にまで迷惑掛けて、自分は被害者です? 言ってる事もやってる事もキモいんだよ」
正樹に容赦のない言葉を掛けられ、三笠さんは視線を伏せる。
私は「あんまり言い過ぎなくていいよ」っていう意味で、正樹の太腿に触れる。
けど彼は応えなかった。
というか、私もかなりズバズバ言っちゃったから、フォローできる立場でもない。
「どんな規模であれ会社の代表やってるなら、責任取れ。お前の下で働いてる社員が気の毒だ」
……そっか。正樹は社長をしてるから、同じ立場として余計に三笠さんのやってる事が許せないのか。
私が納得した時、慎也が口を開いた。
「あなたが置かれている状況は想像できますし、大変だと思います。久賀城ホールディングスは確かに大企業と言われる部類にありますが、何もせず業績が右肩上がりになっている訳ではありません。サービス業ですから、日々お客様の事を考えて働くしかありません。毎日努力しなければいけないのは、誰だって同じなんです」
言われて、立っていた三笠さんは溜め息をついてソファに腰を下ろした。
かなり精神的にやられてるみたいで、肩を落として座っている姿を見ると、あのギラギラした感じが嘘のようだ。
私は息をつき、少しフォローに回る。
「『自分は不幸だ』と思うのにプライドが高いと、うまくいっているように思える人に嫉妬してしまいます。でなければ、自分を守るために他者を見下してしまいます。そうしないと自分の価値を認められなくなるからです」
私は静かに話し始める。
「色んな欲があるのは結構ですが、現在の自分を冷静に分析した上で、『ある程度幸せ』だと認められませんか? 他人の羨ましいところばかり見ていたら、そりゃ自分が劣っているように感じます。自分を見失わないために、今までどれだけ努力したか、何を得たか、もうちょっと認めてあげましょうよ。そんなに自分に厳しくしなくていいし、目標を高く掲げなくていいんです」
三笠さんは放心したまま私の言葉を聞く。
その様子を見て、少し気の毒に思ってしまった。
「今『自分はどん底にいる』と思っても、ずっとは続きませんよ。絶対に」
彼を崖から突き落としたのが私たちなら、帰り道のハシゴもきちんと用意しておきたい。
そう思ってフォローする。
「『良くなりたい』と思う意思があるなら、あなたは可能性に満ちているんです。自分を見つめ直す事だって、交友関係も会社をもっと成長させる事だって、三笠さんの気持ち一つなんです。〝今〟をターニングポイントにしたら、これから良くなっていくかもしれませんよ。一番駄目なのは、今回の事で諦めて投げやりになる事です。会社の部下にだって、ミスをしたら改善してほしいでしょう? 一発退場になんてさせないでしょう? それと同じです」
言ってから、伝わったらいいな、と願った。
そして改めて今の状況を見て、早くこの場から立ち去りたいと思った。
幾ら三笠さんが私を盗撮して、ヤバい事をしていたと分かっても、三人で論破しているこの状況はあまりに一方的だ。
どれだけ正しい事も、力加減を誤れば暴力になる。
気持ち悪い思いをしたし、三笠さんが改心しても五十嵐さんのように好きになれないと思う。
けど、徹底的に潰していいかと言われたら、それは違う。
それでも、彼の事を一から十まで導く必要はない。
例え相手が俊希でも、ある程度の年齢になれば「親の言う事をすべて聞けば間違いない」なんて言わない。
大人なんだから、ある程度のヒントを出したあとは、彼の選択に委ねるしかない。
私たちは彼の人生に責任を持たないんだから。
悪者を作って叩くだけなら、どんな人にだってできる。
でも私たちがしたいのは注意、忠告だ。
『今やっている事をやめてください。改善するなら見逃します』という意味だ。
その改善方法も少しお膳立てしたのだから、あとは本人の責任で選択してほしい。
「もうそろそろ、おいとましますね。……あとは三笠さんの判断にお任せします。私たちは関わりません」
私が〝終わり〟を切り出すと、慎也と正樹は息をついた。
強い口調で言われ、三笠さんは涙混じりの目で正樹を見る。
「そーいう『じゃあ、久賀城さんにもつらい事あるの?』って伺うような目をされるのも不快なんだけど。お前に話す事なんて一つもねーよ。この犯罪者が」
初めて正樹の口調が乱れた……というか、マジモードになって、私は瞠目して彼を盗み見た。
正樹は少し顎を上げた尊大な態度で、珍しく顔に不快感を露わにしている。
「悪い所が分かってるなら、そこでブレーキ踏んで自分で何とかしろよ。どうにもできなくて他人を羨んで、挙げ句関係ない人にまで迷惑掛けて、自分は被害者です? 言ってる事もやってる事もキモいんだよ」
正樹に容赦のない言葉を掛けられ、三笠さんは視線を伏せる。
私は「あんまり言い過ぎなくていいよ」っていう意味で、正樹の太腿に触れる。
けど彼は応えなかった。
というか、私もかなりズバズバ言っちゃったから、フォローできる立場でもない。
「どんな規模であれ会社の代表やってるなら、責任取れ。お前の下で働いてる社員が気の毒だ」
……そっか。正樹は社長をしてるから、同じ立場として余計に三笠さんのやってる事が許せないのか。
私が納得した時、慎也が口を開いた。
「あなたが置かれている状況は想像できますし、大変だと思います。久賀城ホールディングスは確かに大企業と言われる部類にありますが、何もせず業績が右肩上がりになっている訳ではありません。サービス業ですから、日々お客様の事を考えて働くしかありません。毎日努力しなければいけないのは、誰だって同じなんです」
言われて、立っていた三笠さんは溜め息をついてソファに腰を下ろした。
かなり精神的にやられてるみたいで、肩を落として座っている姿を見ると、あのギラギラした感じが嘘のようだ。
私は息をつき、少しフォローに回る。
「『自分は不幸だ』と思うのにプライドが高いと、うまくいっているように思える人に嫉妬してしまいます。でなければ、自分を守るために他者を見下してしまいます。そうしないと自分の価値を認められなくなるからです」
私は静かに話し始める。
「色んな欲があるのは結構ですが、現在の自分を冷静に分析した上で、『ある程度幸せ』だと認められませんか? 他人の羨ましいところばかり見ていたら、そりゃ自分が劣っているように感じます。自分を見失わないために、今までどれだけ努力したか、何を得たか、もうちょっと認めてあげましょうよ。そんなに自分に厳しくしなくていいし、目標を高く掲げなくていいんです」
三笠さんは放心したまま私の言葉を聞く。
その様子を見て、少し気の毒に思ってしまった。
「今『自分はどん底にいる』と思っても、ずっとは続きませんよ。絶対に」
彼を崖から突き落としたのが私たちなら、帰り道のハシゴもきちんと用意しておきたい。
そう思ってフォローする。
「『良くなりたい』と思う意思があるなら、あなたは可能性に満ちているんです。自分を見つめ直す事だって、交友関係も会社をもっと成長させる事だって、三笠さんの気持ち一つなんです。〝今〟をターニングポイントにしたら、これから良くなっていくかもしれませんよ。一番駄目なのは、今回の事で諦めて投げやりになる事です。会社の部下にだって、ミスをしたら改善してほしいでしょう? 一発退場になんてさせないでしょう? それと同じです」
言ってから、伝わったらいいな、と願った。
そして改めて今の状況を見て、早くこの場から立ち去りたいと思った。
幾ら三笠さんが私を盗撮して、ヤバい事をしていたと分かっても、三人で論破しているこの状況はあまりに一方的だ。
どれだけ正しい事も、力加減を誤れば暴力になる。
気持ち悪い思いをしたし、三笠さんが改心しても五十嵐さんのように好きになれないと思う。
けど、徹底的に潰していいかと言われたら、それは違う。
それでも、彼の事を一から十まで導く必要はない。
例え相手が俊希でも、ある程度の年齢になれば「親の言う事をすべて聞けば間違いない」なんて言わない。
大人なんだから、ある程度のヒントを出したあとは、彼の選択に委ねるしかない。
私たちは彼の人生に責任を持たないんだから。
悪者を作って叩くだけなら、どんな人にだってできる。
でも私たちがしたいのは注意、忠告だ。
『今やっている事をやめてください。改善するなら見逃します』という意味だ。
その改善方法も少しお膳立てしたのだから、あとは本人の責任で選択してほしい。
「もうそろそろ、おいとましますね。……あとは三笠さんの判断にお任せします。私たちは関わりません」
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