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番外編 2 タワマン事件簿
ほんっと、関わりたくないな
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加えて、もともとあった不満やストレスと、接した人に感じた不満をうまく分ける事ができない。
「あの人はこういう状況だったから、ああ答えたんだろうな」という想像力がない。
「あの人は私の事をこう思っているから、ああ答えたに決まっている」と斜め上の妄想が炸裂する。
そのうち、憎い人の事ばかりで頭が一杯になって、ちょっとでも自分にとって良くない事があれば、すべてその人のせいにする。
そうやって、捏造の罪ができあがる。
さっき三笠さんが言っていた、私が慎也と正樹の二人にいい顔をして、裏では「あいつと別れるから」と言っているとか……、ほんっとうに捏造もいいところだ。
ぶっちゃけ、さやかさんとは数えるほどしか話をしていない。
久賀城家の事や、夫婦関係についてなんて一言も話していない。
いつ私がそんな事言った?
なんであなたがそれを語るの?
その言葉の根拠はどこにあるの?
そしてそれを鵜呑みにするほうにも、ただ呆れ果てるしかない。
「優美は奥原さんに『悪い事をしたな』って思う事あったか? 夫婦関係について何か言ったとか」
「ないよ。世間話を数回して、事件のあとプリンを持って慰めに行っただけ。家族の事を話したら面倒な事になるって分かってるから、深い付き合いのある人にしか話すつもりはない。他の人には、前もって三人で相談したように『通勤するのに便利なのと、兄弟仲がいいので同居してます』っていう説明をするだけ」
「だよな。なら完全に当たり屋でいいと思う」
慎也は呆れたように溜め息をついて、お茶の残りを飲み干した。
その時、奥の部屋から正樹と三笠さんが戻って来た。
あーあ、「めっちゃ面白かったー」っていう顔してる……。
一方で、三笠さんはげんなりした表情をしていた。
「すっごいよ、こいつ女の隠し撮りばっかり。ウケる。あのデータ、警察にチクったら一発だろうなぁ」
「ちょ……っ」
三笠さんは日に焼けた顔を真っ青にさせた。
「じょーだんじょーだん。さっきも言ったように、僕らは優美ちゃんのデータが完全に消えたらあとは何も言わない。ま、その悪癖でいつか捕まらないといいね。僕らは知らないけど!」
清々しいほどあっけらかんと言って、正樹は「あははっ」と笑う。
そのあと、意地悪に目を細めた。
「けど、見せてもらったSNSの裏アカウントや、ブックマークしてた掲示板の書き込み……。日頃のストレスを、ワイン片手に炎上を煽って発散させてるんだろうけど、ほどほどにしておいたほうがいいよ。アイドルや動画配信者に粘着クソコメ送るとか、その歳でヤバくない? 僕らが何もしなくても、いずれ誰かが誹謗中傷で訴えたら、すぐに情報開示請求がきて身元がバレるよ。その時は一発アウトだ」
うっわ……。
パッと見、パリピ気質に見える陽キャの裏の顔を知って、私はドン引きする。
正樹が彼のパソコンを開いてそこまで見ちゃったんだ……っていう、強引さも、あとからちょっと叱らないとだけど。
けど、……うわぁ……。
ほんっと、関わりたくないな。
「だ……っ、そ、それは……っ、お、奥原さんからアイドルの〝本当の姿〟を教えてもらったからで……」
あーもー。ここで「誰かに教えてもらったから」って言い訳するのも、なんだかなぁ……。
呆れかえった私は、大きな溜め息をついた。
「三笠さん、そのアイドルや動画配信者、あなたに何かしました?」
「え、……いや……」
「してないでしょう? そもそも三笠さんの存在すら認識していないでしょう? それとも、そのアイドルや動画配信者の熱烈なファンなんですか?」
彼は気まずく沈黙する。
「違うんですよね? 本当はファンでも何でもなくて、炎上しているのを見たから面白がって便乗しているだけですよね?」
三笠さんは立ったまま、俯いて誰とも目を合わせない。
「確かにお仕事が大変そうで、他にもストレスが溜まっているかもしれません。でもまったく関係ない人を悪く言って、スカッとしようっていう価値観はまずいと思います。仮に三笠さんが何らかの理由で炎上したとして、自分を攻撃してくる人に『やめてほしい』って思いませんか? 何か非があるとしても『人格攻撃をされ、仕事にも社会的立場にも影響を与える攻撃をされて当たり前』なんて思わないでしょう?」
「…………はい」
彼は悄然として頷く。
「あの人はこういう状況だったから、ああ答えたんだろうな」という想像力がない。
「あの人は私の事をこう思っているから、ああ答えたに決まっている」と斜め上の妄想が炸裂する。
そのうち、憎い人の事ばかりで頭が一杯になって、ちょっとでも自分にとって良くない事があれば、すべてその人のせいにする。
そうやって、捏造の罪ができあがる。
さっき三笠さんが言っていた、私が慎也と正樹の二人にいい顔をして、裏では「あいつと別れるから」と言っているとか……、ほんっとうに捏造もいいところだ。
ぶっちゃけ、さやかさんとは数えるほどしか話をしていない。
久賀城家の事や、夫婦関係についてなんて一言も話していない。
いつ私がそんな事言った?
なんであなたがそれを語るの?
その言葉の根拠はどこにあるの?
そしてそれを鵜呑みにするほうにも、ただ呆れ果てるしかない。
「優美は奥原さんに『悪い事をしたな』って思う事あったか? 夫婦関係について何か言ったとか」
「ないよ。世間話を数回して、事件のあとプリンを持って慰めに行っただけ。家族の事を話したら面倒な事になるって分かってるから、深い付き合いのある人にしか話すつもりはない。他の人には、前もって三人で相談したように『通勤するのに便利なのと、兄弟仲がいいので同居してます』っていう説明をするだけ」
「だよな。なら完全に当たり屋でいいと思う」
慎也は呆れたように溜め息をついて、お茶の残りを飲み干した。
その時、奥の部屋から正樹と三笠さんが戻って来た。
あーあ、「めっちゃ面白かったー」っていう顔してる……。
一方で、三笠さんはげんなりした表情をしていた。
「すっごいよ、こいつ女の隠し撮りばっかり。ウケる。あのデータ、警察にチクったら一発だろうなぁ」
「ちょ……っ」
三笠さんは日に焼けた顔を真っ青にさせた。
「じょーだんじょーだん。さっきも言ったように、僕らは優美ちゃんのデータが完全に消えたらあとは何も言わない。ま、その悪癖でいつか捕まらないといいね。僕らは知らないけど!」
清々しいほどあっけらかんと言って、正樹は「あははっ」と笑う。
そのあと、意地悪に目を細めた。
「けど、見せてもらったSNSの裏アカウントや、ブックマークしてた掲示板の書き込み……。日頃のストレスを、ワイン片手に炎上を煽って発散させてるんだろうけど、ほどほどにしておいたほうがいいよ。アイドルや動画配信者に粘着クソコメ送るとか、その歳でヤバくない? 僕らが何もしなくても、いずれ誰かが誹謗中傷で訴えたら、すぐに情報開示請求がきて身元がバレるよ。その時は一発アウトだ」
うっわ……。
パッと見、パリピ気質に見える陽キャの裏の顔を知って、私はドン引きする。
正樹が彼のパソコンを開いてそこまで見ちゃったんだ……っていう、強引さも、あとからちょっと叱らないとだけど。
けど、……うわぁ……。
ほんっと、関わりたくないな。
「だ……っ、そ、それは……っ、お、奥原さんからアイドルの〝本当の姿〟を教えてもらったからで……」
あーもー。ここで「誰かに教えてもらったから」って言い訳するのも、なんだかなぁ……。
呆れかえった私は、大きな溜め息をついた。
「三笠さん、そのアイドルや動画配信者、あなたに何かしました?」
「え、……いや……」
「してないでしょう? そもそも三笠さんの存在すら認識していないでしょう? それとも、そのアイドルや動画配信者の熱烈なファンなんですか?」
彼は気まずく沈黙する。
「違うんですよね? 本当はファンでも何でもなくて、炎上しているのを見たから面白がって便乗しているだけですよね?」
三笠さんは立ったまま、俯いて誰とも目を合わせない。
「確かにお仕事が大変そうで、他にもストレスが溜まっているかもしれません。でもまったく関係ない人を悪く言って、スカッとしようっていう価値観はまずいと思います。仮に三笠さんが何らかの理由で炎上したとして、自分を攻撃してくる人に『やめてほしい』って思いませんか? 何か非があるとしても『人格攻撃をされ、仕事にも社会的立場にも影響を与える攻撃をされて当たり前』なんて思わないでしょう?」
「…………はい」
彼は悄然として頷く。
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