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番外編 2 タワマン事件簿

そういうのいいからさぁ

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 嘘をつき慣れている人はスイスイッと嘘を言うけど、そうじゃない人は一瞬の迷いを生む。

 一拍おいたあとにモソモソッと答えた時は、大体嘘だ。

 だから、今のリアクションは、何となく嘘じゃないなと感じた。

 そのあと、三笠さんは唇を歪める。
 何か言いたいけど素直に言えない。そんな感じだ。

「誰がやったのか、知っているんですか?」

 私の問いに、三笠さんは私たちに目を合わせないまま、視線を泳がせた。

「じゃあ、質問を変えます。誰に『写真を撮ってほしい』と頼まれましたか?」

 しばらく、沈黙が落ちた。

 こんなふうに、誰かを追い詰めるのは嫌なんだけどなぁ……。

 何だかんだで遠回りしてしまったけど、彼に聞くのが一番早い気がした。

 立て続けに事件が起こって、私たちは事件Aの犯人はA、事件Bの犯人はBと思っていた。
 けど、このマンションで起こった事すべてが、まるっと誰か一人の意思によるものなら……と思うと、話は変わってくる。

 口を微かに開いては閉じ……と繰り返している三笠さんを見て、正樹が思いきり大きな溜め息をついた。

「僕から言いましょうか? 三笠さん、あなたは銀座のホステスに入れあげているでしょう?」

「な……っ」

 彼は目を剥き、「どうして知っている」という顔をする。

 私も「なんで?」という顔をして隣を見た。

 正樹は私の手をポンポンと叩いてくる。

「僕らも結構色んな事件に遭遇してまして、怪しいなぁ~と思う女性に行き当たったんですよね。で、彼女は元売れっ子ホステスときた。それで現在裏が取れていないのは、その彼女と三笠さんだけ。仮に……、この二人が繋がってたら?」

 正樹は両手の人差し指を立て、ゆっくり近づけてトンと当てる。

「僕、接待でクラブとか誘われるんですよ。あまり興味がないので積極的には行きませんが、ママと知り合いになれば少し得する事もあるので、情報収集がてら行く事もあります。で、知り合いのママに〝彼女〟の事を聞いたら、『秘密ですよ』と教えてくれました。……ついでにあなたの名前も出してみたら……」

 そこまで言って、正樹はいい笑顔になる。

 一方で三笠さんは真っ青だ。

 ……というか、正樹、そこまで動いてたんだ。

 教えてくれたら……と思ったけど、ギリギリだったのかもしれないし、切り札に使いたかったのかもしれないし、分からない。

 特に慎也は正樹より頭に血が上りやすいから、知ったらすぐ殴り込みに行くかもしれなかった。
 このつかみ所のない感じが、正樹の強みでもあるのかな。

「ここまでお膳立てされて、言わない訳にいきませんよねぇ? 黙ってる意味がないんですから」

 あーあー、正樹、楽しそうだなぁ。

 本人は「僕、性格悪いよ」って言ってるけど、こういう時に発揮されてる。

 三笠さんは大きな溜め息をついて、ガックリと項垂れた。

「…………仰る通り、通っていたクラブのホステスに本気になりました。彼女と結婚を考えていて、彼女も僕を好きになってくれたと思って、…………家を調べて訪れたり、プレゼントや指輪を贈りました」

 わあ。

「優しくて美しくて僕好みの女性で、何度かホテルに行きました。なのに僕の告白にはハッキリした返事をしなくて、それも〝営業〟の一部かと思っていたのですが……、……あの女、僕の他にも男がいて……」

 うわあああ……。
 実在した……。

「それで付きまとって迷惑行為をしているんですか?」

 慎也がスパッと言う。容赦ねぇ。

「つ、付きまといなんてしていません! 僕は本気で、彼女だって僕を」

「そういうのいいからさぁ」

 三笠さんの言葉を、正樹の少し大きな声が遮る。

 あー、チンピラモード入った。

「三笠さんのゴチャゴチャした気持ちなんて、どうでもいいんですよ。うちの優美ちゃんを隠し撮りしたのは認めたんでしょう? あれー? 好きな女がいるのに、よその家の女に色目向けたんですねぇ。あららー。浮気性だ」

「ちが……っ」

 ……なんか、ちょっと三笠さんが哀れに思えてきた。

「その辺りもまとめて、奥原さやかさんに何か言われたんですよねぇ?」

 ……おかしい。正樹の側に尋問用のライトが見える気がする。

 三笠さんは表情を歪め、私を見てから、また項垂れる。
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