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番外編 2 タワマン事件簿

人間関係こっわ……

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「ちょっと貸して」

 彼女は新しいルーズリーフに、相関図を書いていった。
 中央には久賀城家の三人の名前。周りにマンションの住人という感じだ。

 そして〝三笠〟と書いて四角で囲み、その横に赤ペンで〝盗撮クソ野郎〟と書いた。

 私はそれを見て、思わず「ぶふっ」と噴きだす。

「こうしないとすぐ分かんないんだもん。私、このマンションの住人と関わり少ないし」

「まぁ、そりゃそうだね」

 さらに少し離れたところに、杉川夫妻の名前を書いて〝ダブル不倫〟と赤ペンで書く。
 別のところには奥原さんの名前を書き、赤ペンで〝伝説のホステス〟と書く。
 そして光圀さんから奥原さんに矢印を引き〝キス?〟とメモする。

「で、こないだ別の女を見たんでしょ?」

「うん」

 彼女は光圀さんの側に〝浮気女〟と書いて四角で囲み、光圀さんと線を結ぶ。

「あ、突き落とされた人もいるっけ」

 そう言って、文香は私のメモを見て成宮夫妻をそれぞれ〝夫〟〝妻〟として書く。
 彼らの名前の近くに三十一階と書き、〝ギタギタ写真発見〟と赤ペンで書く。

「ついで」

 彼女はさやかさんの名前の近くに〝KOJI〟と書いて〝嘘〟と赤ペンで付け加える。

「慎也は美魔女に迫られたんだっけ?」

 文香が美香さんのところから慎也に線を引きかけたので、彼は慌ててペンを掴んだ。

「迫られてない! 浮気もしてない! ……ただ、彼女がギタギタ写真を見つけて、教えてくれただけだ」

 めっちゃ焦った慎也は、チラッと私を見る。

「……いや、もうその件については、終わったから気にすんな」

 私は両手で「どうどう」と落ち着くようジェスチャーする。

 あの時怒ったのは仕方ないとして、慎也も気にしてたんだな。
 今も引きずってるなら申し訳ないけど、ほんのちょっとだけ「反省してくれてるんだ」と喜ぶ自分がいた。

 その間、文香は三笠さんから私に矢印を引いて〝盗撮〟と書き、美香さんから慎也に〝情報提供〟とメモしていた。

 しばらく全員で相関図を見ていた。

「……うん、分からんな」

 私が呟くと、皆頷いた。

「さやかって女、杉川夫とキスしてたんでしょ? 杉川妻から恨まれてる?」

 文香が言い、「どうよ?」と美香さんを知ってそうな私たちを見る。

「んー……、私は大して話してないからなぁ。慎也、どう? 雰囲気だけでもいいんだけど」

 話を振ると、慎也は難しい顔をして腕組みをする。

「…………、彼女、かなり色んな事を諦めて、受け入れている感じはあったな。中心人物として振る舞っておきながら、裏でどう言われているかも分かっている。仮に光圀さんとさやかさんが関係しているのを知っていたとして、さやかさんを激しく恨むタイプではない気がする。夫に手を出す女を憎むなら、もうすでに他の女に激怒しているはずだろ? あれ、あのパーティーでさやかさんへの態度ってどうだったっけ?」

 そこまで言って、慎也は私にパスしてくる。

「やー、あの時は成宮さん、三笠さんと話してたから、よく分からないな。……っていうかそもそも、最初に私に声を掛けて『マンションの奥様たちが、私を良く思ってないっぽい』って言ってきたのが、さやかさんだった」

 そう言って、初めてこのマンションの住人と関わるようになったきっかけを思いだす。

 当時はさやかさんの話を、「あ、そっすか」と聞きながら受け流した。
 それほど重要な事と思えなかったからだ。

「……当時すでに〝裏〟があって話しかけられたのかな……」

 あの時は、話しかけてきてくれたフレンドリーな人と思ったぐらいだった。

 忠告してくれたのも、ありがたく受け取ると同時に、変な事に巻き込まれる前兆だったら嫌だから、関わるのはほどほどにしておこうと思ったはずだった。

 それが、気がつけば色んな事が一気に起こって、彼女の言動に振り回されるほどになっている。

 人間関係こっわ……。

 文香が尋ねてくる。

「私がこう言ったらどうする? 『マンションの住人に話しかけられて〝他の住人があなたの事を嫌ってるみたい。注意したほうがいい〟って言われた』」

 私は床に座ったまま脚を伸ばし、即答する。

「ネガティブな情報を、わざわざ教えてくる人に深入りしないほうがいい。マンションの住人とは、文香が直接話して、都度判断すればいい」

 彼女が何を言いたいのか察しながら、私は自分の矜持のもと返事をする。

「でしょ? そのさやかって女は〝深入りしないほうがいい〟人だったの」

 改めて言われ、私は溜め息をつく。

「……見破れないもんだなぁ……」

 ちょっと落ち込んだ私を、正樹が慰める。
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