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番外編 2 タワマン事件簿
こじらせ自炊男
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「ヒンシュク決定でしょ!」
「ホストかっつーの」
全員でひとしきり笑ったあと、正樹が目尻を指で拭って言う。
「ま、言えるのは人間関係で金が変なふうに絡んだら、健康的な付き合いはできないって事かな。友達や会社の人、恋人で一時的な貸し借りならまだいい。でも大して親しくない相手に金銭的な借りができると『じゃあ何らかの形で返して』ってなるのが普通の感覚だよね。一方的に搾取されるのが好きなドMは別だけど、無償で貢げないよ。贈り物とかマメにする人でも、『日頃の感謝』って思ってるからやってる訳で。恩を感じなかったら、お歳暮もお中元も成り立たないでしょ」
「確かに」
私はうんうんと頷く。
と、文香が言った。
「私、思うけど、さっきの慎也のエセホスト発言もそうだけど、外見にお金を払うとか、デートできるからお金を払うとか、プロ目線に思える。ほら、太夫とか花魁とかいるでしょ。すっごいお金を積まないと、ああいう人に会えなかったって言うじゃない。それと似たものを感じるな。今だと有名人とかコスプレイヤーに、お金を払って何かしてもらうイベントとか」
「だねー。一般人同士だと『今日は付き合ってくれてありがとう。感謝……!』って貢いだりしないなぁ。それこそ、見返りがないと関係が破綻するわ」
プロで奢られて生計を立てている人もいるけど、あれは仕事だしね。
「どっからズレたか知らないけど、そういう意味で、私はなるべく人に借りを作りたくない、弱みを見せたくないから、自分の分は自分で出す。それだけ」
文香が言って、私も頷いた。
「そうだね。自分が食べるご飯代ぐらい、自分で出したいわ」
言ったあと、慎也が肩を組んできた。
「他の男が奢った飯が、優美の血肉になるのは許せないなぁ」
それを聞いて、私たちはまた爆笑する。
「サイコか!」
「自炊男をこじらせたら、こうなんのよ」
「優美ちゃん、男に飯を奢らせる論争だけじゃないんだよ? 自炊男に飯を作らせ続けたら『お前の体は俺が作った。言う事を聞け』ってなるんだから」
正樹がケラケラ笑いながら茶化す。
「んっふふふふ……。もう胃袋は掴まれてるから、遅いわ」
そのあと、飲み物を飲みつつお喋りをしたあと、夜ご飯を皆で食べるために一緒に買い物に行く事にした。
心配事が沢山のマンションから離れたからか、久しぶりに何も不安にならず沢山笑えた気がする。
けど、二人と付き合いだしてからずっと暮らしていたマンションを、ネガティブな感情で捉えてしまうのは寂しいな、と思うのだった。
**
そのあと、どでかい豪邸で正樹と(基本的に)二人暮らしが始まった。
勿論、家政婦さん、シッターさんは来てくれるので、生活は概ね今まで通りと言っていい。
広い家の掃除は、正樹が定期的に業者さんに頼んでいるようで、今後もその方針のようだ。
確かにこの家を掃除するのは……きつい。
それとは別に、こちらにもそれぞれのフロアにお掃除ロボットがいる。
マンションのは太郎と花子という名前がついていたけど、こちらは特にまだ愛着もないので、一号、二号、三号……らしい。
マンションでの事件を実家の家族には言わなかったけど、「今後の事も考えて、一旦一軒家で生活してみる事にした」と、引っ越しの理由を説明した。
家族からは特に疑われず「今度遊びに行くね~」とかるーい返事があっただけでホッとしている。
広々としたリビングで寛ぎつつ、私は俊希が知育おもちゃで遊んでいるのを見守っている。
時刻は昼間で、二人は仕事。
文香とはお互いの家を行きっこする形で会う事になっていた。
今日はこれから文香が来てくれる。
彼女は毎回美味しいスイーツを用意してくれていて、その代わりに……と求められるのは手作りランチだ。
「そんな、お洒落カフェみたいな料理、できないよ」と言っても、「あいつらがいない時に優美のご飯を食べるのが、何より美味いから何でもいい」らしい。
しばしぼんやりしていると、チャイムの音が鳴った。
「ホストかっつーの」
全員でひとしきり笑ったあと、正樹が目尻を指で拭って言う。
「ま、言えるのは人間関係で金が変なふうに絡んだら、健康的な付き合いはできないって事かな。友達や会社の人、恋人で一時的な貸し借りならまだいい。でも大して親しくない相手に金銭的な借りができると『じゃあ何らかの形で返して』ってなるのが普通の感覚だよね。一方的に搾取されるのが好きなドMは別だけど、無償で貢げないよ。贈り物とかマメにする人でも、『日頃の感謝』って思ってるからやってる訳で。恩を感じなかったら、お歳暮もお中元も成り立たないでしょ」
「確かに」
私はうんうんと頷く。
と、文香が言った。
「私、思うけど、さっきの慎也のエセホスト発言もそうだけど、外見にお金を払うとか、デートできるからお金を払うとか、プロ目線に思える。ほら、太夫とか花魁とかいるでしょ。すっごいお金を積まないと、ああいう人に会えなかったって言うじゃない。それと似たものを感じるな。今だと有名人とかコスプレイヤーに、お金を払って何かしてもらうイベントとか」
「だねー。一般人同士だと『今日は付き合ってくれてありがとう。感謝……!』って貢いだりしないなぁ。それこそ、見返りがないと関係が破綻するわ」
プロで奢られて生計を立てている人もいるけど、あれは仕事だしね。
「どっからズレたか知らないけど、そういう意味で、私はなるべく人に借りを作りたくない、弱みを見せたくないから、自分の分は自分で出す。それだけ」
文香が言って、私も頷いた。
「そうだね。自分が食べるご飯代ぐらい、自分で出したいわ」
言ったあと、慎也が肩を組んできた。
「他の男が奢った飯が、優美の血肉になるのは許せないなぁ」
それを聞いて、私たちはまた爆笑する。
「サイコか!」
「自炊男をこじらせたら、こうなんのよ」
「優美ちゃん、男に飯を奢らせる論争だけじゃないんだよ? 自炊男に飯を作らせ続けたら『お前の体は俺が作った。言う事を聞け』ってなるんだから」
正樹がケラケラ笑いながら茶化す。
「んっふふふふ……。もう胃袋は掴まれてるから、遅いわ」
そのあと、飲み物を飲みつつお喋りをしたあと、夜ご飯を皆で食べるために一緒に買い物に行く事にした。
心配事が沢山のマンションから離れたからか、久しぶりに何も不安にならず沢山笑えた気がする。
けど、二人と付き合いだしてからずっと暮らしていたマンションを、ネガティブな感情で捉えてしまうのは寂しいな、と思うのだった。
**
そのあと、どでかい豪邸で正樹と(基本的に)二人暮らしが始まった。
勿論、家政婦さん、シッターさんは来てくれるので、生活は概ね今まで通りと言っていい。
広い家の掃除は、正樹が定期的に業者さんに頼んでいるようで、今後もその方針のようだ。
確かにこの家を掃除するのは……きつい。
それとは別に、こちらにもそれぞれのフロアにお掃除ロボットがいる。
マンションのは太郎と花子という名前がついていたけど、こちらは特にまだ愛着もないので、一号、二号、三号……らしい。
マンションでの事件を実家の家族には言わなかったけど、「今後の事も考えて、一旦一軒家で生活してみる事にした」と、引っ越しの理由を説明した。
家族からは特に疑われず「今度遊びに行くね~」とかるーい返事があっただけでホッとしている。
広々としたリビングで寛ぎつつ、私は俊希が知育おもちゃで遊んでいるのを見守っている。
時刻は昼間で、二人は仕事。
文香とはお互いの家を行きっこする形で会う事になっていた。
今日はこれから文香が来てくれる。
彼女は毎回美味しいスイーツを用意してくれていて、その代わりに……と求められるのは手作りランチだ。
「そんな、お洒落カフェみたいな料理、できないよ」と言っても、「あいつらがいない時に優美のご飯を食べるのが、何より美味いから何でもいい」らしい。
しばしぼんやりしていると、チャイムの音が鳴った。
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