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番外編 2 タワマン事件簿
こんなん建ててどうするつもりだったの?
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「正樹がとその女が別れた事で、今優美がノーダメージなら、私は評価するよ」
「文香はすがすがしいまでに、優美ファーストだな」
慎也が感心したように言う。
「っていうかあんた、いつのまにか〝さん〟づけやめたね」
「あぁ、そういえば」
「……まぁ、いいけど。こんだけ親しくなったのに、年上だからって理由で〝さん〟をつけられたら、むず痒いわ」
……文香のつれない言い方の中に、デレを感じます。ふふふ……。
そのあと私たちは三階に上がる。
「三階はプライベートゾーンメインだよ」
三階は、二階のあのバカ広いリビングダイニングとかの面積が、それぞれの部屋になっているようだ。
「まだ子供は俊希しかいない訳だけど、今んとこ僕ら大人に加えて、子供四人まで対応できるかな」
「七部屋?」
単純計算すると、正樹は「うん」と頷く。
「四階は客室になってるから、幾らでも対応できる訳だけど」
「マンションか!」
……そう。マンションなのである。
一軒家と聞いて、せいぜい三階建てと思っていたら、どーんと私たちの前にそびえ立ったのは「……ビルじゃん」という高さの建物。
しかも敷地が半端ないし、本当に外観規模で言えばマンションって言っていい。
利佳さんと結婚した時点でこの家を建てようって思ってた訳だから、その当時の正樹が何を考えていたのか、ちょっと知りたくはあるな。
「ねぇ、こんなん建ててどうするつもりだったの?」
「んー……」
最初に入った部屋は、十畳以上はあるトイレ付きの個室。
正樹派備えつきの立派なベッドに腰かけて、半笑いの表情になる。
「何て言えばいいのかな。確かに僕は利佳を愛していなかった。というより、当時の僕は誰も愛していなかった。でも気持ちがないなりに、結婚したならきちんと役目を果たさないとっていう思いはあったんだ。副社長として仕事をきちんとするとか、長男としての振る舞いをするとか、そういう感じ。〝夫〟とか〝父親〟になるなら、ちゃんとしないとって思ってたんだ」
「あぁ……」
そっちか、と私は頷く。
「それで、形から入る事を考えたんだ。まず立派な家を作るところから。『完成する頃には子供ができてるだろう。大きい家でちゃんと家族を養えたら、うまく父親ができるだろうな』って」
そう言ってから、正樹は「あはっ」と笑う。
「ホント馬鹿……」
文香は呆れかえっている。
「そういうふうに〝形〟を作らなかったら、こいつは〝夫〟にも〝父親〟にもなれなかっただろ。一応、これも正樹なりの努力だったんだよ」
訳知りの慎也は、腕を組んで壁に寄りかかっている。
「っていうか、その女のために建てた家じゃん。前言撤回」
文香は溜め息をつき、乱暴に髪を掻き上げた。
彼女が不機嫌になりそうなので、私は慌ててフォローする。
「いや、それはいいんだよ。『正樹と利佳さんがエッチしたベッドを使うのは嫌だな』とか、その程度だったから。そんな理由で嫌だって言ったら、この億単位の豪邸がパァになっちゃうじゃん」
「そうだけどさ」
文香は納得いってない表情だ。
「弟の俺が保証するけど、正樹がこの家に女を上げた事はない。金かけただけあって、この家への思い入れはあると思う。離婚したあとに『再婚するつもりはない』って決意してたけど、『それならこの城で死ぬまで優雅に暮らす』ぐらいの心意気はあったんじゃないかな」
「そっか、そんならいいや」
私は頷く。
「だから、僕は念願叶って本当に好きな女性を妻にできて、理解者の弟とも、子供たちともここで暮らせるってなって、本望だよ」
正樹はニコニコして言う。
「私もちょいちょいお邪魔しに来るけどね」
文香さまがどや顔でピースする。
「あれ、文香ちゃん〝その女のために建てた家〟は嫌なんじゃなかったの?」
「優美が『いいや』って言ったの聞こえなかったの?」
さすがの文香さまモードだ。
「あははっ、分かりましたー」
正樹は立ち上がり、「他も似たようなもんだから、ちゃっちゃと見てこー」と歩きだす。
「文香はすがすがしいまでに、優美ファーストだな」
慎也が感心したように言う。
「っていうかあんた、いつのまにか〝さん〟づけやめたね」
「あぁ、そういえば」
「……まぁ、いいけど。こんだけ親しくなったのに、年上だからって理由で〝さん〟をつけられたら、むず痒いわ」
……文香のつれない言い方の中に、デレを感じます。ふふふ……。
そのあと私たちは三階に上がる。
「三階はプライベートゾーンメインだよ」
三階は、二階のあのバカ広いリビングダイニングとかの面積が、それぞれの部屋になっているようだ。
「まだ子供は俊希しかいない訳だけど、今んとこ僕ら大人に加えて、子供四人まで対応できるかな」
「七部屋?」
単純計算すると、正樹は「うん」と頷く。
「四階は客室になってるから、幾らでも対応できる訳だけど」
「マンションか!」
……そう。マンションなのである。
一軒家と聞いて、せいぜい三階建てと思っていたら、どーんと私たちの前にそびえ立ったのは「……ビルじゃん」という高さの建物。
しかも敷地が半端ないし、本当に外観規模で言えばマンションって言っていい。
利佳さんと結婚した時点でこの家を建てようって思ってた訳だから、その当時の正樹が何を考えていたのか、ちょっと知りたくはあるな。
「ねぇ、こんなん建ててどうするつもりだったの?」
「んー……」
最初に入った部屋は、十畳以上はあるトイレ付きの個室。
正樹派備えつきの立派なベッドに腰かけて、半笑いの表情になる。
「何て言えばいいのかな。確かに僕は利佳を愛していなかった。というより、当時の僕は誰も愛していなかった。でも気持ちがないなりに、結婚したならきちんと役目を果たさないとっていう思いはあったんだ。副社長として仕事をきちんとするとか、長男としての振る舞いをするとか、そういう感じ。〝夫〟とか〝父親〟になるなら、ちゃんとしないとって思ってたんだ」
「あぁ……」
そっちか、と私は頷く。
「それで、形から入る事を考えたんだ。まず立派な家を作るところから。『完成する頃には子供ができてるだろう。大きい家でちゃんと家族を養えたら、うまく父親ができるだろうな』って」
そう言ってから、正樹は「あはっ」と笑う。
「ホント馬鹿……」
文香は呆れかえっている。
「そういうふうに〝形〟を作らなかったら、こいつは〝夫〟にも〝父親〟にもなれなかっただろ。一応、これも正樹なりの努力だったんだよ」
訳知りの慎也は、腕を組んで壁に寄りかかっている。
「っていうか、その女のために建てた家じゃん。前言撤回」
文香は溜め息をつき、乱暴に髪を掻き上げた。
彼女が不機嫌になりそうなので、私は慌ててフォローする。
「いや、それはいいんだよ。『正樹と利佳さんがエッチしたベッドを使うのは嫌だな』とか、その程度だったから。そんな理由で嫌だって言ったら、この億単位の豪邸がパァになっちゃうじゃん」
「そうだけどさ」
文香は納得いってない表情だ。
「弟の俺が保証するけど、正樹がこの家に女を上げた事はない。金かけただけあって、この家への思い入れはあると思う。離婚したあとに『再婚するつもりはない』って決意してたけど、『それならこの城で死ぬまで優雅に暮らす』ぐらいの心意気はあったんじゃないかな」
「そっか、そんならいいや」
私は頷く。
「だから、僕は念願叶って本当に好きな女性を妻にできて、理解者の弟とも、子供たちともここで暮らせるってなって、本望だよ」
正樹はニコニコして言う。
「私もちょいちょいお邪魔しに来るけどね」
文香さまがどや顔でピースする。
「あれ、文香ちゃん〝その女のために建てた家〟は嫌なんじゃなかったの?」
「優美が『いいや』って言ったの聞こえなかったの?」
さすがの文香さまモードだ。
「あははっ、分かりましたー」
正樹は立ち上がり、「他も似たようなもんだから、ちゃっちゃと見てこー」と歩きだす。
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