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番外編 2 タワマン事件簿

利佳さんってこの家に住んでたの?

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「正樹にしては趣味いーじゃん」

「あっは、文香ちゃんにしては褒めてくれるじゃん」

 相変わらず、この二人の距離感が分からない……。

 ダイニングとキッチンはその奥にあった。

 黒い長方形のテーブルに、白い革張りの椅子が八脚。

 キッチンは、高級感のある木目調ダークブラウンで統一されたアイランドキッチンだ。
 勿論、大型冷蔵庫、独立した冷凍庫、電子レンジは勿論オーブンまで、何から何まで完備されてある。

 慎也は冷蔵庫を覗いて「流石になんもないなー。あとから買い出しに行くか」と呟いていた。そのあとスパイスやハーブ類もチェックしている。

 反対側にはバーカウンターもあって、棚に色んな種類のお酒の瓶が並んでいた。
 キッチンの奥にはパントリーがあって、そこに保存のきく食べ物が保管されてある。

「すっご……」

 もう、溜め息しか出ない。

「テラス、これ庭じゃん」

「だって向かいに低階層マンションあるしねぇ。目隠しにグリーン植えとかないと、正樹の赤裸々な生活が見えちゃう……」

「あー、はい」

 今は家の凄さにビビっていて、正樹のボケがいまいち入ってこない。

「このスピーカー、お気に入りなんだ。こだわった特注だから、きっと音、気に入ってくれると思う」

「男ってそういうのこだわるよね」

 文香さまがサラリと言い、また正樹に凄い顔をされてる。

 テレビの後ろにある木製の壁には棚があり、やっぱり高そうな置物とか、お皿とかが飾られてあった。
 壁の一部はガラス戸の収納になっていて、やっぱりそこにも高そうなグラスとかお皿が飾られてあった。

「反対側は和室があるよ」

 リビングダイニングを出て、さっきの玄関ホールまで戻り、反対側に入る。

 彼が言った通り畳敷きの部屋があり、窓際は障子になっていた。
 床の間のある所は掘りごたつになっていて、冬場は炬燵も出してゆっくりできるらしい。
 勿論ここにもテレビがある。

「こっちは将来的に、仏間になるのかなって」

 和室は二部屋分をぶち抜きにした感じで、真ん中には襖がある。
 奥のほうには確かに仏壇を入れるのに丁度いい窪みがあるけど、まだ何もない。

「僕、長男だし、親戚もそこそこ大勢いるからね。法事のついでに集まる事もあるだろうし、仏壇周りはちょっと広くしといた」

「家を作る時から、仏壇の事を考えてるから、ホント苦労する長男の性格してるよな」

 慎也が茶化して笑う。

「え~、責任感あるって言って」

 正樹はケタケタ笑いながら、和室を出る。

「んで、こっちが書斎と書庫」

 さらに奥に行くと、図書館みたいに本棚がぎっしりの部屋と、大きなデスクにモニターが三つある正樹の城があった。
 勿論、配線は綺麗に整えられていて、間には図書室みたいに木製のテーブルがあって、六人ぐらいが座って作業ができるようになっている。勿論、コンセントやUSBポート完備だ。

「……あ」

 不意に思った事があって、私は声を漏らす。

「ん?」

 慎也が眉を上げて、私の顔を覗き込んだ。

「……利佳さんってこの家に住んでたの?」

「あー、それね」

 正樹が声を上げる。

「話してなかったっけ? 僕と利佳は別のマンションに住んでいて、そこはもう売り払ったよ」

「あ、そうなんだ……」

 何となく、それを聞いてホッとしてしまった。

「あの女がいた場所に、優美ちゃんを住まわせる訳がないじゃん」

「あはは……」

 言い方に棘があるけど、でもその気持ちはありがたかった。

 何だかんだで、正樹の〝前の女〟を気にしてしまっている節はある。

 仮にこの豪邸で利佳さんが暮らしていて、同じ空間で一時的にもラブラブしていたのかとか、キッチンやベッドを使っていたのか、と想像したら落ち込んでしまうところだった。

 聞いといて良かった……。

「その当時、まだこの家を建ててる途中だったんだよ。完成したら引っ越ししようっていう予定だったんだけど、まぁ別れたよね」

 何でもない事のようにペロッと言い、正樹はまた玄関ホールに戻っていく。
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