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番外編 2 タワマン事件簿
喧嘩して出て行かれるみたいだな
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犯人が分かっていない限り、うちに強盗が入るかもしれないし、変な所で遭遇して襲われるか分からない。
万が一、俊希に何かあったらと考えるだけで、恐ろしくて堪らない。
「じゃあ、明日からでも必要になりそうな生活雑貨をまとめといて」
慎也に言われて「うん」と頷いた私に、正樹が言う。
「赤坂の一軒家のほうにしよっか。会社に通いやすいし」
今さらだが、久賀城ホールディングスの本社は虎ノ門にある。
なので元麻布のここより、近いと言えば近い。
「そうしたら? 俺も何かあった時に寄りやすい。向こうの家にも色んな物は揃ってるし、荷物は洋服や下着、洗面用品とかで十分だと思う」
「分かった」
絹ごし豆腐のお味噌汁を飲み、私は溜め息をつく。
「三人で引っ越すんじゃ駄目なの?」
私たちは家族なのであって、二対一に別れると変な感じだ。
慎也は柴漬けを小皿に取って言う。
「いずれ俊希が大きくなって、正樹の子供も生まれたら大きい家に引っ越したいとは言っていただろ?」
「うん」
「だから向こうの家に慣れておくのは悪い事じゃないと思う。それとは別に、俺は一応このマンションの住人として、事件がどうなるか見守りたい。他人事って言えばそれまでだけど、多少なりとも関わってしまった。すぐ解決するか分からないし、さすがに半年以上何もなかったら無駄だ。ただ、数か月……、長くて三か月は様子を見てもいいかな、って」
「そっか……」
慎也が責任感の強い性格なのは分かっている。
それに私も、自分だけこのマンションから逃げて「終わり」ってしたくない。
「そうだね。様子見、お願いできる?」
「任せとけ」
慎也はニッと笑い、サムズアップした。
**
翌日から、私は少しずつ荷物を纏め始めた。
……と言っても慎也が言った通り、すぐ必要になる物を持っていく程度だ。
往復する必要はなく、車に荷物を載せて赤坂に行けばそれで終わり。
もともと、それほど衣装持ちではなかったけど、知らない内に増えてしまった。
高校生、大学生の始め頃は、ファストファッションで買ったシンプルな物をフツーに着回していた。
でも文香と出会ってダイエットが完成形に近づくにつれ、彼女が「これ着られない?」と、一回ぐらいしか着ていない服を私に着せ始めた。
勿論、彼女は「お古でごめん!」とめちゃくちゃ申し訳なさそうにしていた。
ただ、文香のお母さんがファッション関係の人ととても仲良くしているらしく、「お嬢さんに」とあれこれブランド物の服やバッグやら……とプレゼントされるらしい。
文香も本当はお母さんに「あんまり送ってこないで。クローゼットがパンクする」と言っているらしいけれど、そこは〝付き合い〟で断りようがないらしい。
大人の世界は持ちつ持たれつなんだなぁ、とその話を聞いて理解した。
かくして文香は「優美ならこれが似合いそう」と、色んな服を私に譲ってくれた。
中には試着すらしていない物もあって、申し訳ない限りなんだけど……。
彼女いわく、「ファッションはシーズンでどんどん新作が出るから、ほうぼうのブランドから仮に二着もらったとしても、かなりの数になる」らしい。
金持ちハンパネェ……。
そんな訳で、私の所には沢山のブランド服がある。
加えて、文香たちと一緒にグループデートした時、文香が「これ、優美に似合う」と言って、慎也と正樹が「どれどれ……」となり、結局お買い上げになってしまった物もかなりある。
増えすぎた服は、流行もあるし、クローゼットがパンクするので「もったいねー!」と思いながらも手放している。
文香は「どう処分してもいいけど、リサイクルに持ってったら、お金になるんじゃない?」って言っていた。
でも、親友からもらった物をお金にできない。
その話をしたら、お母さんや友達がめっちゃ興味を示したので、時々埼玉まで持って行っては引き取ってもらっている。
それでも着られないとかで余った物は、燃えるゴミの日にさよならした。
そんでもって今、私はよく着る服や下着類、お風呂、洗面で使う物をスーツケースに詰めている。
「……喧嘩して出て行かれるみたいだな」
「ぶほっ」
部屋の戸口まで来た慎也がしんみり言うので、思わず噴いてしまった。
万が一、俊希に何かあったらと考えるだけで、恐ろしくて堪らない。
「じゃあ、明日からでも必要になりそうな生活雑貨をまとめといて」
慎也に言われて「うん」と頷いた私に、正樹が言う。
「赤坂の一軒家のほうにしよっか。会社に通いやすいし」
今さらだが、久賀城ホールディングスの本社は虎ノ門にある。
なので元麻布のここより、近いと言えば近い。
「そうしたら? 俺も何かあった時に寄りやすい。向こうの家にも色んな物は揃ってるし、荷物は洋服や下着、洗面用品とかで十分だと思う」
「分かった」
絹ごし豆腐のお味噌汁を飲み、私は溜め息をつく。
「三人で引っ越すんじゃ駄目なの?」
私たちは家族なのであって、二対一に別れると変な感じだ。
慎也は柴漬けを小皿に取って言う。
「いずれ俊希が大きくなって、正樹の子供も生まれたら大きい家に引っ越したいとは言っていただろ?」
「うん」
「だから向こうの家に慣れておくのは悪い事じゃないと思う。それとは別に、俺は一応このマンションの住人として、事件がどうなるか見守りたい。他人事って言えばそれまでだけど、多少なりとも関わってしまった。すぐ解決するか分からないし、さすがに半年以上何もなかったら無駄だ。ただ、数か月……、長くて三か月は様子を見てもいいかな、って」
「そっか……」
慎也が責任感の強い性格なのは分かっている。
それに私も、自分だけこのマンションから逃げて「終わり」ってしたくない。
「そうだね。様子見、お願いできる?」
「任せとけ」
慎也はニッと笑い、サムズアップした。
**
翌日から、私は少しずつ荷物を纏め始めた。
……と言っても慎也が言った通り、すぐ必要になる物を持っていく程度だ。
往復する必要はなく、車に荷物を載せて赤坂に行けばそれで終わり。
もともと、それほど衣装持ちではなかったけど、知らない内に増えてしまった。
高校生、大学生の始め頃は、ファストファッションで買ったシンプルな物をフツーに着回していた。
でも文香と出会ってダイエットが完成形に近づくにつれ、彼女が「これ着られない?」と、一回ぐらいしか着ていない服を私に着せ始めた。
勿論、彼女は「お古でごめん!」とめちゃくちゃ申し訳なさそうにしていた。
ただ、文香のお母さんがファッション関係の人ととても仲良くしているらしく、「お嬢さんに」とあれこれブランド物の服やバッグやら……とプレゼントされるらしい。
文香も本当はお母さんに「あんまり送ってこないで。クローゼットがパンクする」と言っているらしいけれど、そこは〝付き合い〟で断りようがないらしい。
大人の世界は持ちつ持たれつなんだなぁ、とその話を聞いて理解した。
かくして文香は「優美ならこれが似合いそう」と、色んな服を私に譲ってくれた。
中には試着すらしていない物もあって、申し訳ない限りなんだけど……。
彼女いわく、「ファッションはシーズンでどんどん新作が出るから、ほうぼうのブランドから仮に二着もらったとしても、かなりの数になる」らしい。
金持ちハンパネェ……。
そんな訳で、私の所には沢山のブランド服がある。
加えて、文香たちと一緒にグループデートした時、文香が「これ、優美に似合う」と言って、慎也と正樹が「どれどれ……」となり、結局お買い上げになってしまった物もかなりある。
増えすぎた服は、流行もあるし、クローゼットがパンクするので「もったいねー!」と思いながらも手放している。
文香は「どう処分してもいいけど、リサイクルに持ってったら、お金になるんじゃない?」って言っていた。
でも、親友からもらった物をお金にできない。
その話をしたら、お母さんや友達がめっちゃ興味を示したので、時々埼玉まで持って行っては引き取ってもらっている。
それでも着られないとかで余った物は、燃えるゴミの日にさよならした。
そんでもって今、私はよく着る服や下着類、お風呂、洗面で使う物をスーツケースに詰めている。
「……喧嘩して出て行かれるみたいだな」
「ぶほっ」
部屋の戸口まで来た慎也がしんみり言うので、思わず噴いてしまった。
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