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番外編 2 タワマン事件簿

奥原家

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 俊希を連れて行ってもいいと言ってくれたので、二人で子守しつつお菓子を頂いて雑談する日々が結構続いていた。

 勿論、文香が嫉妬するので、彼女との時間もしっかり取った上でだけど。

 清花さんは私に対して心を開いてくれたようで、色んな事を話してくれた。

 その上で思うけれど、彼女はこの一連の事に関係ないなと感じた。

 これで演技をしていたなら「すげーな」と思うけど、今までE&Eフーズに勤めていた時も含め、私に懐いてくれるというか、好意を寄せてくれる女性の雰囲気は掴んでいるつもりだ。

 私が自分なりの心構えを貫いている事や、外見を整えている事も含め、総合的に評価し、尊敬してくれている人の態度は、何となく分かる。
「自分もそうなりたい」と憧れ、色々聞いて学ぼうとしてくれているのを感じる。

 今まで、こういう態度を取る人が敵に回る事はなかった。

 人間だから、多少なりともどこか嫉妬する部分はあるのかもしれないけど、清花さんはそれをうまくコントロールできている人だと分かる。

 私は私で、慕ってくれる人、求めてくれる人には手を差し伸べたい人だから、需要と供給が一致する。

 私の何気ない話でも、彼女はとてもありがたがって聞いてくれた。

 加えて、これ以上隠す事はないんじゃないかってぐらい、色々話してくれているので、彼女が敵に回る事はないだろうなぁ……と思っている。

 そんな清花さんが教えてくれた事だから、さやかさんが言っていたという〝伝聞〟であっても、ほぼ事実だろうと思っていた。

(……けど、絶対に警察案件なのに、旦那さんを心配させたくないからって、警察には言わないって……。物だって取られてるのに)

 モヤモヤして、腑に落ちない。

 なのでお節介と思いつつ、お見舞いの品に美味しいケーキ屋さんのプリンを持って、彼女を訪ねた。
 清花さんの話では顔に痣があったとの事で、噛むのに負担にならないプリンなら……と思ってのチョイスだ。

 いきなり子連れでお邪魔するのはアレなので、今回もシッターさんに俊希をお願いした。

 チャイムを押すと、少ししてからドアが開き、さやかさんが不安そうな顔を覗かせる。

「……優美さん……」

 応対してくれたのは、きちんとインターフォンで私だと確認したからだろう。

「ごめんなさい。話を聞いてしまって、お見舞いに……と思って。プリン、どうぞ」

「ありがとうございます。……上がっていかれますか?」

 パステルカラーのワンピースを着たさやかさんは、簡単に纏めたゆるふわヘアを撫でつけ、遠慮がちに笑う。
 その頬には大判のガーゼが、サージカルテープで貼られてある。

 きっと痣があるんだろうな……。

 痛々しさに私は眉を下げる。

 そのあと、とりあえず玄関に入らせてもらってから尋ねた。

「大丈夫ですか?」

 彼女は弱々しく微笑む。

「毎日、一人で過ごすのが怖くて堪らないんです。お友達を呼ぶにも、向こうの都合がありますし」

「そうですね。友達が心配してくれるって言っても、それぞれの生活がありますもんね」

 もし文香がそういう目に遭って和人くんが長期出張しているなら、私は彼女が安心するまで一緒に暮らすだろう。

 けど、それは私が独身で家を空けても構わず、通勤するのにも問題ない場合だ。

 文香側も、二人暮らしになっても大丈夫な環境があるか、心理的に負担がないかなどの問題がある。
 一人が怖くて誰かにいてほしいと思っても、誰でもいい訳ではない。

 そのところ、うまくマッチしなければ友達に一緒にいてもらう、とはならないだろう。

「汚いですが、どうぞ」

「お邪魔します」

 さやかさんに招き入れられ、私は上がらせてもらう。

 リビングダイニングは広々としていて、シンプルナチュラルな感じで清潔感があった。
 ホワイトグレーのソファに、パイン材の色の薄いテーブル。
 ラグマットやキッチン台なども白に統一して、他は床も含め明るい色のウッド調に統一している。
 カーテンもサラリとしたシンプルな白で、リビング全体が明るい印象でお洒落だ。

「座ってください」

 さやかさんに言われてソファに腰かけ、持ってきたプリンを食べる事にした。

「旦那さんは何も言っていないんですか?」

 確か彼女の夫は芸能人だと聞いた。

 忙しいのは分かるけど、基本的に活動場所は東京だと思うし、こんな大変な事件が起こったのに何もないとは思いたくない。
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