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番外編 2 タワマン事件簿
防犯カメラが捕らえた人物
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「……怖いです」
彼女の弱音を聞いて、私は頷いた。
清花さんが涙を零したので、私は立ちあがって彼女の隣に座り、トントンと背中を叩く。
「怖かったですね」
私もあの写真を見て嫌な気持ちになった。
その気持ちを皆にシェアしてもらって、幾分楽になった。
だから、彼女ともそうしたい。
「夫から聞いていると思いますが、私も不気味な写真の被害に遭いました。同じマンションに住む住人を疑いたくありませんが、誰にどう思われているか分からないのは気持ち悪いですよね」
彼女はマスカラが落ちないように涙を拭い、コクコクと頷く。
ティッシュで洟をかんでから、清花さんは本題を切りだした。
「実は、警察から防犯カメラを確認した結果を聞いたんです」
「犯人が分かったんですか?」
私は瞠目して尋ねる。
清花さんは頷き、話してくれた。
「上下黒の服を着た男性だったみたいです。キャップを被ってマスクとサングラス……って、いかにもですが、このマンションにはジョギングに行く男性もいますし、マスクとサングラスさえ外してしまえば分からないと思います」
「確かに」
私は頷いた。
「でも、このマンションはコンシェルジュさんもいますし、セキュリティ万全でしょう? どうやって入り込んだんです?」
「それが、防犯カメラによると宅配と一緒にエントランスに入って、コンシェルジュの前を通る時は『成宮さんに呼ばれた友人です』と言ったそうなんです。丁度あの日、私のところに本当に学生時代の友人が遊びに来る予定があったんです。だからコンシェルジュはその人だと思って通してしまったみたいなんです」
私は表情を歪める。
「……清花さんの来客情報が漏れてたんですか?」
「……かもしれません」
彼女は暗い表情で頷く。
「突き落とされたのは非常階段ですが、そこへはどうやって呼び出されたんですか?」
「それが……。……家の前にメモがあったんです。見てみたら、……〝ある人〟からで……」
急に歯切れが悪くなる。
「……それは、誰かは言えませんか? ……いえ、すべて話してほしいって言っている訳じゃないんです。清花さんの事情もあるでしょうし」
逃げ道も作って尋ねると、彼女はしばらく黙っていた。
「……や、あの……」
無理に言わなくていいと言おうと思った時、彼女が口を開いた。
「……杉川さんの旦那さんの名前が書かれてありました」
「え……」
また、予想外の名前が出て私は目を丸くする。
……っていうか、杉川さんの旦那さんってどんな人だっけ?
私が顔を思い出そうとしていたからか、清花さんが遠慮がちに言う。
「あの夫婦の仲が冷え切っているのは有名ですけど、一応マンションの共有部分を使ってのパーティーには、割と顔を出すんです。隅のほうで一人で飲んでいたので覚えていないかもしれませんが、痩せていて少し陰気な感じの、眼鏡を掛けた……」
言われて私は「あーっ」と声を上げた。
そんでもって、そろそろ大丈夫そうなので、もと座っていた所に戻る。
「……いましたね……」
こういう言い方をして同意するのは失礼だけど、確かにそう言われて初めて思いだした。
確かにあのパーティーの日、窓際に立って外の景色を見ながら、一人でマイペースに飲んでいる男性がいた。
四十代半ばぐらいで、言い方は悪いけど地味目の大学生がそのまま成長した印象だった。
けど着ている物はシンプルながら高級な服で、一本ウン万円するワインをフツーに飲んでいたから、さすがこのマンションに住んでいる人とは思った。
あの人を見た時、「つまんないのかな? 混じらないのかな?」と思ったけど、話しかけられてすぐに気持ちがよそに移ってしまった。
皆さんと会話しながらも、パーティー会場全体に気を配ってはいた。
けど、その意識から漏れて空気になっていたと思うので、存在感がない……って言ったら失礼だけど、相当だったと思う。
「旦那さん、杉川光圀さんって言うんです。その名前でメモがあって、話があるから非常階段に来てほしいって……」
「メモは印字だった?」
「はい」
「それじゃあ、なりすまして別の人が呼び出す事もできますね」
ここまでくると何が起こっても驚かないようにしておこう、という気持ちになる。
彼女の弱音を聞いて、私は頷いた。
清花さんが涙を零したので、私は立ちあがって彼女の隣に座り、トントンと背中を叩く。
「怖かったですね」
私もあの写真を見て嫌な気持ちになった。
その気持ちを皆にシェアしてもらって、幾分楽になった。
だから、彼女ともそうしたい。
「夫から聞いていると思いますが、私も不気味な写真の被害に遭いました。同じマンションに住む住人を疑いたくありませんが、誰にどう思われているか分からないのは気持ち悪いですよね」
彼女はマスカラが落ちないように涙を拭い、コクコクと頷く。
ティッシュで洟をかんでから、清花さんは本題を切りだした。
「実は、警察から防犯カメラを確認した結果を聞いたんです」
「犯人が分かったんですか?」
私は瞠目して尋ねる。
清花さんは頷き、話してくれた。
「上下黒の服を着た男性だったみたいです。キャップを被ってマスクとサングラス……って、いかにもですが、このマンションにはジョギングに行く男性もいますし、マスクとサングラスさえ外してしまえば分からないと思います」
「確かに」
私は頷いた。
「でも、このマンションはコンシェルジュさんもいますし、セキュリティ万全でしょう? どうやって入り込んだんです?」
「それが、防犯カメラによると宅配と一緒にエントランスに入って、コンシェルジュの前を通る時は『成宮さんに呼ばれた友人です』と言ったそうなんです。丁度あの日、私のところに本当に学生時代の友人が遊びに来る予定があったんです。だからコンシェルジュはその人だと思って通してしまったみたいなんです」
私は表情を歪める。
「……清花さんの来客情報が漏れてたんですか?」
「……かもしれません」
彼女は暗い表情で頷く。
「突き落とされたのは非常階段ですが、そこへはどうやって呼び出されたんですか?」
「それが……。……家の前にメモがあったんです。見てみたら、……〝ある人〟からで……」
急に歯切れが悪くなる。
「……それは、誰かは言えませんか? ……いえ、すべて話してほしいって言っている訳じゃないんです。清花さんの事情もあるでしょうし」
逃げ道も作って尋ねると、彼女はしばらく黙っていた。
「……や、あの……」
無理に言わなくていいと言おうと思った時、彼女が口を開いた。
「……杉川さんの旦那さんの名前が書かれてありました」
「え……」
また、予想外の名前が出て私は目を丸くする。
……っていうか、杉川さんの旦那さんってどんな人だっけ?
私が顔を思い出そうとしていたからか、清花さんが遠慮がちに言う。
「あの夫婦の仲が冷え切っているのは有名ですけど、一応マンションの共有部分を使ってのパーティーには、割と顔を出すんです。隅のほうで一人で飲んでいたので覚えていないかもしれませんが、痩せていて少し陰気な感じの、眼鏡を掛けた……」
言われて私は「あーっ」と声を上げた。
そんでもって、そろそろ大丈夫そうなので、もと座っていた所に戻る。
「……いましたね……」
こういう言い方をして同意するのは失礼だけど、確かにそう言われて初めて思いだした。
確かにあのパーティーの日、窓際に立って外の景色を見ながら、一人でマイペースに飲んでいる男性がいた。
四十代半ばぐらいで、言い方は悪いけど地味目の大学生がそのまま成長した印象だった。
けど着ている物はシンプルながら高級な服で、一本ウン万円するワインをフツーに飲んでいたから、さすがこのマンションに住んでいる人とは思った。
あの人を見た時、「つまんないのかな? 混じらないのかな?」と思ったけど、話しかけられてすぐに気持ちがよそに移ってしまった。
皆さんと会話しながらも、パーティー会場全体に気を配ってはいた。
けど、その意識から漏れて空気になっていたと思うので、存在感がない……って言ったら失礼だけど、相当だったと思う。
「旦那さん、杉川光圀さんって言うんです。その名前でメモがあって、話があるから非常階段に来てほしいって……」
「メモは印字だった?」
「はい」
「それじゃあ、なりすまして別の人が呼び出す事もできますね」
ここまでくると何が起こっても驚かないようにしておこう、という気持ちになる。
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