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番外編 2 タワマン事件簿
よし! 許す!
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「あの人なら、こんな丑の刻参りみたいな事をするより、言いたい事があるならズパッと言いそうだよね」
「そうなんだよねぇ……。キャラに似合わない」
口に出して問題を整理していくと、気持ちは大分落ち着いていた。
ちょっと気持ち悪いけど写真を手に取り、表裏を確認してピラリと弄ぶ。
「成宮さん夫婦も、フツーの人っていう感じだよね。奥さんはちょっとミーハーで風見鶏っぽい雰囲気はあるけど、その中途半端さゆえに悪党にはなりきれないっていうか」
「俺もそう思う」
そして私たち三人は、三笠さんを思い浮かべる。
「チャラいなー」
「チャラい」
「チャラいわ」
満場一致だ。
「あの人と共有スペースのジムで、何回か遭遇してたんだよね。チャラいなとは思ってたけど、深く考えずに挨拶とかしてたわ」
私は今までの事を思いだし、知らなかったとはいえ迂闊だったなと反省する。
「まあ、同じマンションの住人がヤベー奴って最初から思わないから、そこはノーカンにしとこうよ」
正樹に言われ、頷く。
「優美を隠し撮りしたのは認めたけど、〝頼まれた〟っていうのがな……」
慎也が呟き、溜め息をつく。
「優美ちゃん、心当たりある?」
「ないよー。そこまで交流なかったもん」
「だよね」
正樹がお笑い芸人がやる「ゲッツ」みたいに両手の人差し指を立てる。
「……うーん、〝振り出しに戻る〟か」
私は脚を組み、顎に手をやってうなる。
「俺が知った情報はここまで」
慎也はパッと両手を開き、そのあと息をつく。
「優美、黙っていてごめん。今言った通り、最初は理由が分からなくて、優美を危険にさらすかもしれなかったから、慎重になろうと思っていた。けどよその女性に誘われたのに黙っていたのは、理由がどうこうより嫌だったよな。本当にごめん」
「ん……」
私は頷き、っはー……、と溜め息をつく。
そのあとしばらく、窓の外に広がる夜景を見て、ボーッとした。
おもむろにチョコレートをポイッと口の中に入れ、ムグムグ口を動かす。
「感情的になってたなら、当たり散らしたかもしれない。けど、慎也を信じてたし、理由があると思ってた。……で、私の勘は当たった。……けど、そうだね。やっぱり最初から全部打ち明けてもらえなかったのは嫌だった」
自分の気持ちを整理しつつ、私は頷く。
それから慎也をまっすぐ見つめた。
「でも、もうしないでしょ? うちの家族に挨拶した時、ホウ・レン・ソウをちゃんとするって宣言してくれたよね」
まだ正樹との仲を知られる前、慎也と二人で家族と会った時、確かに慎也はそう言った。
「うん。……今回は約束破ったな。ごめん」
慎也は項垂れ、本当に反省しているようだった。
そんな姿を見せられて、しかもきちんと理由があるのにいつまでもネチネチ言う訳にいかない。
「よし! 許す!」
きっぱり言い放つと、慎也がびっくりした表情で顔を上げる。
「ただし!」
私はビシッと指を突きつけた。
「今度国産フィレのいいステーキを、お腹いっぱい食べたい。あと、お気に入りのチョコブランドが幾つかあるけど、一番でっかいご褒美ボックスがほしい。そんで美味しい最中も食べたい」
「食かよ!」
隣で正樹が膝を打って笑い転げる。
「勿論、〝もうしない〟は大前提だよ。OK?」
「分かった」
慎也は泣きそうな顔でクシャッと笑ったあと、安心したように息をついた。
「これで私からはおーわり!」
私は両手の甲を慎也に見せ、キュッと指を閉じながら下げる。
これ、手話で「終わり」を意味するんだそうだ。
最近時間の空いた時に、手話の動画を見てちょっとずつ学んでる。
街角で何かあった時、もしかしたら役に立つかもしれないからだ。
「明日、チョコレートのボックス買って、夜は肉食いに行こう」
「よしきた」
私は慎也にサムズアップする。
「そうなんだよねぇ……。キャラに似合わない」
口に出して問題を整理していくと、気持ちは大分落ち着いていた。
ちょっと気持ち悪いけど写真を手に取り、表裏を確認してピラリと弄ぶ。
「成宮さん夫婦も、フツーの人っていう感じだよね。奥さんはちょっとミーハーで風見鶏っぽい雰囲気はあるけど、その中途半端さゆえに悪党にはなりきれないっていうか」
「俺もそう思う」
そして私たち三人は、三笠さんを思い浮かべる。
「チャラいなー」
「チャラい」
「チャラいわ」
満場一致だ。
「あの人と共有スペースのジムで、何回か遭遇してたんだよね。チャラいなとは思ってたけど、深く考えずに挨拶とかしてたわ」
私は今までの事を思いだし、知らなかったとはいえ迂闊だったなと反省する。
「まあ、同じマンションの住人がヤベー奴って最初から思わないから、そこはノーカンにしとこうよ」
正樹に言われ、頷く。
「優美を隠し撮りしたのは認めたけど、〝頼まれた〟っていうのがな……」
慎也が呟き、溜め息をつく。
「優美ちゃん、心当たりある?」
「ないよー。そこまで交流なかったもん」
「だよね」
正樹がお笑い芸人がやる「ゲッツ」みたいに両手の人差し指を立てる。
「……うーん、〝振り出しに戻る〟か」
私は脚を組み、顎に手をやってうなる。
「俺が知った情報はここまで」
慎也はパッと両手を開き、そのあと息をつく。
「優美、黙っていてごめん。今言った通り、最初は理由が分からなくて、優美を危険にさらすかもしれなかったから、慎重になろうと思っていた。けどよその女性に誘われたのに黙っていたのは、理由がどうこうより嫌だったよな。本当にごめん」
「ん……」
私は頷き、っはー……、と溜め息をつく。
そのあとしばらく、窓の外に広がる夜景を見て、ボーッとした。
おもむろにチョコレートをポイッと口の中に入れ、ムグムグ口を動かす。
「感情的になってたなら、当たり散らしたかもしれない。けど、慎也を信じてたし、理由があると思ってた。……で、私の勘は当たった。……けど、そうだね。やっぱり最初から全部打ち明けてもらえなかったのは嫌だった」
自分の気持ちを整理しつつ、私は頷く。
それから慎也をまっすぐ見つめた。
「でも、もうしないでしょ? うちの家族に挨拶した時、ホウ・レン・ソウをちゃんとするって宣言してくれたよね」
まだ正樹との仲を知られる前、慎也と二人で家族と会った時、確かに慎也はそう言った。
「うん。……今回は約束破ったな。ごめん」
慎也は項垂れ、本当に反省しているようだった。
そんな姿を見せられて、しかもきちんと理由があるのにいつまでもネチネチ言う訳にいかない。
「よし! 許す!」
きっぱり言い放つと、慎也がびっくりした表情で顔を上げる。
「ただし!」
私はビシッと指を突きつけた。
「今度国産フィレのいいステーキを、お腹いっぱい食べたい。あと、お気に入りのチョコブランドが幾つかあるけど、一番でっかいご褒美ボックスがほしい。そんで美味しい最中も食べたい」
「食かよ!」
隣で正樹が膝を打って笑い転げる。
「勿論、〝もうしない〟は大前提だよ。OK?」
「分かった」
慎也は泣きそうな顔でクシャッと笑ったあと、安心したように息をついた。
「これで私からはおーわり!」
私は両手の甲を慎也に見せ、キュッと指を閉じながら下げる。
これ、手話で「終わり」を意味するんだそうだ。
最近時間の空いた時に、手話の動画を見てちょっとずつ学んでる。
街角で何かあった時、もしかしたら役に立つかもしれないからだ。
「明日、チョコレートのボックス買って、夜は肉食いに行こう」
「よしきた」
私は慎也にサムズアップする。
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