461 / 539
番外編 2 タワマン事件簿
よし! 許す!
しおりを挟む
「あの人なら、こんな丑の刻参りみたいな事をするより、言いたい事があるならズパッと言いそうだよね」
「そうなんだよねぇ……。キャラに似合わない」
口に出して問題を整理していくと、気持ちは大分落ち着いていた。
ちょっと気持ち悪いけど写真を手に取り、表裏を確認してピラリと弄ぶ。
「成宮さん夫婦も、フツーの人っていう感じだよね。奥さんはちょっとミーハーで風見鶏っぽい雰囲気はあるけど、その中途半端さゆえに悪党にはなりきれないっていうか」
「俺もそう思う」
そして私たち三人は、三笠さんを思い浮かべる。
「チャラいなー」
「チャラい」
「チャラいわ」
満場一致だ。
「あの人と共有スペースのジムで、何回か遭遇してたんだよね。チャラいなとは思ってたけど、深く考えずに挨拶とかしてたわ」
私は今までの事を思いだし、知らなかったとはいえ迂闊だったなと反省する。
「まあ、同じマンションの住人がヤベー奴って最初から思わないから、そこはノーカンにしとこうよ」
正樹に言われ、頷く。
「優美を隠し撮りしたのは認めたけど、〝頼まれた〟っていうのがな……」
慎也が呟き、溜め息をつく。
「優美ちゃん、心当たりある?」
「ないよー。そこまで交流なかったもん」
「だよね」
正樹がお笑い芸人がやる「ゲッツ」みたいに両手の人差し指を立てる。
「……うーん、〝振り出しに戻る〟か」
私は脚を組み、顎に手をやってうなる。
「俺が知った情報はここまで」
慎也はパッと両手を開き、そのあと息をつく。
「優美、黙っていてごめん。今言った通り、最初は理由が分からなくて、優美を危険にさらすかもしれなかったから、慎重になろうと思っていた。けどよその女性に誘われたのに黙っていたのは、理由がどうこうより嫌だったよな。本当にごめん」
「ん……」
私は頷き、っはー……、と溜め息をつく。
そのあとしばらく、窓の外に広がる夜景を見て、ボーッとした。
おもむろにチョコレートをポイッと口の中に入れ、ムグムグ口を動かす。
「感情的になってたなら、当たり散らしたかもしれない。けど、慎也を信じてたし、理由があると思ってた。……で、私の勘は当たった。……けど、そうだね。やっぱり最初から全部打ち明けてもらえなかったのは嫌だった」
自分の気持ちを整理しつつ、私は頷く。
それから慎也をまっすぐ見つめた。
「でも、もうしないでしょ? うちの家族に挨拶した時、ホウ・レン・ソウをちゃんとするって宣言してくれたよね」
まだ正樹との仲を知られる前、慎也と二人で家族と会った時、確かに慎也はそう言った。
「うん。……今回は約束破ったな。ごめん」
慎也は項垂れ、本当に反省しているようだった。
そんな姿を見せられて、しかもきちんと理由があるのにいつまでもネチネチ言う訳にいかない。
「よし! 許す!」
きっぱり言い放つと、慎也がびっくりした表情で顔を上げる。
「ただし!」
私はビシッと指を突きつけた。
「今度国産フィレのいいステーキを、お腹いっぱい食べたい。あと、お気に入りのチョコブランドが幾つかあるけど、一番でっかいご褒美ボックスがほしい。そんで美味しい最中も食べたい」
「食かよ!」
隣で正樹が膝を打って笑い転げる。
「勿論、〝もうしない〟は大前提だよ。OK?」
「分かった」
慎也は泣きそうな顔でクシャッと笑ったあと、安心したように息をついた。
「これで私からはおーわり!」
私は両手の甲を慎也に見せ、キュッと指を閉じながら下げる。
これ、手話で「終わり」を意味するんだそうだ。
最近時間の空いた時に、手話の動画を見てちょっとずつ学んでる。
街角で何かあった時、もしかしたら役に立つかもしれないからだ。
「明日、チョコレートのボックス買って、夜は肉食いに行こう」
「よしきた」
私は慎也にサムズアップする。
「そうなんだよねぇ……。キャラに似合わない」
口に出して問題を整理していくと、気持ちは大分落ち着いていた。
ちょっと気持ち悪いけど写真を手に取り、表裏を確認してピラリと弄ぶ。
「成宮さん夫婦も、フツーの人っていう感じだよね。奥さんはちょっとミーハーで風見鶏っぽい雰囲気はあるけど、その中途半端さゆえに悪党にはなりきれないっていうか」
「俺もそう思う」
そして私たち三人は、三笠さんを思い浮かべる。
「チャラいなー」
「チャラい」
「チャラいわ」
満場一致だ。
「あの人と共有スペースのジムで、何回か遭遇してたんだよね。チャラいなとは思ってたけど、深く考えずに挨拶とかしてたわ」
私は今までの事を思いだし、知らなかったとはいえ迂闊だったなと反省する。
「まあ、同じマンションの住人がヤベー奴って最初から思わないから、そこはノーカンにしとこうよ」
正樹に言われ、頷く。
「優美を隠し撮りしたのは認めたけど、〝頼まれた〟っていうのがな……」
慎也が呟き、溜め息をつく。
「優美ちゃん、心当たりある?」
「ないよー。そこまで交流なかったもん」
「だよね」
正樹がお笑い芸人がやる「ゲッツ」みたいに両手の人差し指を立てる。
「……うーん、〝振り出しに戻る〟か」
私は脚を組み、顎に手をやってうなる。
「俺が知った情報はここまで」
慎也はパッと両手を開き、そのあと息をつく。
「優美、黙っていてごめん。今言った通り、最初は理由が分からなくて、優美を危険にさらすかもしれなかったから、慎重になろうと思っていた。けどよその女性に誘われたのに黙っていたのは、理由がどうこうより嫌だったよな。本当にごめん」
「ん……」
私は頷き、っはー……、と溜め息をつく。
そのあとしばらく、窓の外に広がる夜景を見て、ボーッとした。
おもむろにチョコレートをポイッと口の中に入れ、ムグムグ口を動かす。
「感情的になってたなら、当たり散らしたかもしれない。けど、慎也を信じてたし、理由があると思ってた。……で、私の勘は当たった。……けど、そうだね。やっぱり最初から全部打ち明けてもらえなかったのは嫌だった」
自分の気持ちを整理しつつ、私は頷く。
それから慎也をまっすぐ見つめた。
「でも、もうしないでしょ? うちの家族に挨拶した時、ホウ・レン・ソウをちゃんとするって宣言してくれたよね」
まだ正樹との仲を知られる前、慎也と二人で家族と会った時、確かに慎也はそう言った。
「うん。……今回は約束破ったな。ごめん」
慎也は項垂れ、本当に反省しているようだった。
そんな姿を見せられて、しかもきちんと理由があるのにいつまでもネチネチ言う訳にいかない。
「よし! 許す!」
きっぱり言い放つと、慎也がびっくりした表情で顔を上げる。
「ただし!」
私はビシッと指を突きつけた。
「今度国産フィレのいいステーキを、お腹いっぱい食べたい。あと、お気に入りのチョコブランドが幾つかあるけど、一番でっかいご褒美ボックスがほしい。そんで美味しい最中も食べたい」
「食かよ!」
隣で正樹が膝を打って笑い転げる。
「勿論、〝もうしない〟は大前提だよ。OK?」
「分かった」
慎也は泣きそうな顔でクシャッと笑ったあと、安心したように息をついた。
「これで私からはおーわり!」
私は両手の甲を慎也に見せ、キュッと指を閉じながら下げる。
これ、手話で「終わり」を意味するんだそうだ。
最近時間の空いた時に、手話の動画を見てちょっとずつ学んでる。
街角で何かあった時、もしかしたら役に立つかもしれないからだ。
「明日、チョコレートのボックス買って、夜は肉食いに行こう」
「よしきた」
私は慎也にサムズアップする。
0
お気に入りに追加
1,819
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R-18・短編】部長と私の秘め事
臣桜
恋愛
彼氏にフラれた上村朱里は、酔い潰れていた所を上司の速見尊に拾われ、家まで送られる。タクシーの中で元彼との気が進まないセックスの話などをしていると、部長が自分としてみるか?と言い……。
かなり前に企画で書いたものです。急いで一日ぐらいで書いたので、本当はもっと続きそうなのですがぶつ切りされています。いつか続きを連載版で書きたいですが……、いつになるやら。
ムーンライトノベルズ様にも転載しています。
表紙はニジジャーニーで生成しました
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。
風
恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。
飼主さんが大好きです。
グロ表現、
性的表現もあります。
行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。
基本的に苦痛系のみですが
飼主さんとペットの関係は甘々です。
マゾ目線Only。
フィクションです。
※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる