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箱根クリスマス旅行 編

最適解

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 改めて、「折原さんっていいよな」と思いながら、俺たちはオーダーして酒を飲む。

 折原さんから呼ばれたから、もしかしてワンチャンあり? と思っていたが、どれだけ待っても色っぽい雰囲気にはならない。

 彼女が通っているジムで今どんなトレーニングに燃えているかとか、最近の自分の体のどの筋肉が好きかとか、ああ、折原さんらしいな……という話がメインだ。
 仕事の話も少ししたけれど、前向きで意欲に満ちあふれた話ばかり。

 とても健全で健康的な話で飲み会が終わり、「一体何だったんだろう……」と思いながら割り勘で会計をする。

 ……奢らせてもくれないのは、さすが折原さんだ。

 最後に店の前で別れる時、彼女はポンと俺の肩を叩いてきた。

『色々あるだろうけど、頑張って! 最近しんどそうだけど、何かあったら聞くよ。でも岬くんって滅多な事がない限り、人に自分の胸の内を明かさない気がする。だから『話して』ってこじ開けにいく事はしない』

 その言葉を聞いて、ジーンとした。

 今日誘ってくれたのは、俺の不調を感じての事だったんだ。
 彼女が心配してくれていたのが嬉しくて、「やっぱり好きだ!」となる。

『こうやってくだらない話をして飲む程度なら、いつでも付き合うよ。……今まではちょっと……、あー、〝営業部の王子様〟が眩しかったってのもある。ごめんね!』

 そう言われると、それもそうだなと感じた。
 彼女はがむしゃらに仕事をしていて、それ以外の面倒な事は引き受けたくないと、会社にいてもオーラから分かる。

 俺だけに個人的に構っていれば、佐藤さんたちから「岬くんを狙ってる」とか言われかねない。
 折原さんに悪意のない人であっても、「好きなら強力しますよ」とか言うだろう。

 でも彼女はそんな事を望んでいないし、俺だって自分の手で折原さんを口説きたい。

 だからこうやって、色恋は抜きでガス抜きで飲むならいいという意味なんだろう。

『分かりました。ありがとうございます』

 俺は微笑み、その日はそれで解散した。



 そのあとも彼女を遠くから観察しているけれど、相変わらず浜崎さんにイライラしているようだった。

 その上で浜崎さんの結婚報告があり、様子がおかしいと思った彼女をつけたら、ハプバーにたどり着いた流れになったんだが。



**



 現在、旅館にて薄闇の中で目を開くと、優美はもうスゥスゥと寝息を立てていた。

 彼女に恋をした時は、正樹が入ってくると思っていなかった。

 けど多分、これが最適解なんだろうなと思う。

 俺と優美だけでも幸せになれるだろう。

 けれどそれは、正樹を捨てるも同義だ。

 正樹への感情の主幹は、恐らく罪悪感だと思う。
 そして哀れみと、破滅に向かう彼を引き留めたかった気持ち。

 こんな風に兄貴を引きずっている俺を、受け入れてくれる女性がいると思わなかった。

 マンションに引きずり込んでセックスしている最中に、正樹が出張から帰ってくるのも計算ずくだった。
 嫌われる覚悟もあったし、優美なら受け入れてくれるかもしれないという打算が、半々だった。

 結局俺は、自分の賭けに勝った。

 優美も兄貴も、両方手に入れた。

 その分、彼女の今後はきちんと保証するのが筋だ。

 きっと、正樹も全力で協力してくれるだろう。

「……ありがとう、優美」

 彼女に囁いてキスをしたあと、俺は目を閉じて今度こそ寝ようと思った。



**



 翌日は箱根ロープウェイに乗って勇壮な活火山の上を通り、下りたあとに芦ノ湖沿いにある神社にも行った。

 二日目の晩ご飯もクリスマス仕立ての懐石で、美味しくペロッといただく。
 アワビや牡蠣、カニを使った豪華な料理に、メインは国産牛肉なのだから、二日連続高カロリーでも構わない。

 二日連続エステでアロマオイルのマッサージを受け、温泉と美味しい料理で身も心も幸せ、リラックスした。

「明日にはまた東京だね。ちょっと働いて仕事納めだから、頑張らないと」

 あーあ。浜崎くんと顔を合わせるのは気まずい。
 でもお互い遺恨がなくなったと思ってるから、前向きに考えよう。

「ねぇ、優美ちゃん。大切な事を忘れてない?」

「え?」

 寝る前なのでミネラルウォーターを飲んでいたけれど、口の中にあった水をゴクンと嚥下して私は真剣に考える。
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