【本編完結】【R-18】逃れられない淫らな三角関係~美形兄弟に溺愛されています~

臣桜

文字の大きさ
上 下
86 / 539
箱根クリスマス旅行 編

岬くん、ちょっといい?

しおりを挟む
『岬くん、ちょっといい?』

『はい?』

 ある日の帰り、折原さんに話しかけられて俺は返事をする。

 その時は正樹が行方不明になっていて、何度電話を掛けても繋がらず、『もしかして……』を考えては絶望していた時だった。
 父は『成人男性だし、金も持っているはずだし、社会的責任のある正樹を信じる』と言っていたけれど、母は心配して顔色を青くしていた。

 一週間をタイムリミットにして、それを過ぎたら警察に相談しようと家族で相談していた。

 当時、正樹も俺もそれぞれ別の所で一人暮らしをしていたから、俺は正樹の異変に気付けずにいた。
 正樹がいないと知らせてくれたのは秘書で、彼から連絡がなかったらどうなっていたか分からない。

 役員は有給がないから、休みを取れるといえば取れる。
 いつ休みをとっても構わないと言えばそれまでだが、誰にも何も言わず長期間行方をくらましているのは、明らかに異常事態だった。

 正樹は軽くていい加減な性格に思われがちだが、仕事は責任を持ってしっかりやっていた。
 表面上はおちゃらけていても、芯の部分ではまじめなのを家族は分かっている。

 一か月前、正樹は結婚していた元妻と離婚し、同居していたマンションから引っ越した。

 それが一段落ついて家族ともども「気を取り直して……」という雰囲気になった矢先だった。

 俺は正樹の元妻――利佳さんに会った事があるが、上っ面はいいけれど、身内には厳しい人だとすぐに分かった。
 正樹は尻に敷かれた状態で、言い返せば大げんかになるから黙って我慢しているという感じだった。

 相当なストレスが掛かっていたのは想像したが、男兄弟なので立ち入って聞いていいものか分からなかった。
 子供の頃からの確執もあったし、彼にそこまで踏み込んでいいんだろうか? という不安もあった。

 スマホでどれだけ連絡しても、正樹は応えてくれない。

 ――まさか自殺するなんてないよな?
 ――ただ、離婚のストレスで全部嫌んなって、ちょっと小旅行に行ってるだけだよな?

 心の中で正樹に話しかけても、それはただ自分の希望を述べているだけに過ぎない。
 何もできず正樹がここまで追い詰められているのにも気づかなかった自分が、ただただ情けなかった。

 ――俺がグズグズしているせいで。

 そんな後悔があったから、今までと変わらない毎日を送るだけなのに、日々を過ごすのが苦しくて堪らなかった。

 そんな折り、尊敬して憧れている折原さんに声を掛けられた。

『あのさ、えーと』

 いつもハキハキしている彼女にしては珍しく、折原さんは言葉を迷わせる。

 彼女の事が好きで、あの時街角で会った大学生だと気づいてほしくて、俺は今まで何度も折原さんを食事に誘っていた。

 けど答えはいつも『ごめん! また今度!』。

 明るくサバサバとして言うので、最初はその言葉を信じて〝次の機会〟を待っていたが、何度も断られるうちに分かってきた。

 ――こりゃ、避けられてるな。

 ガッカリしたのは否めない。

 けど、ここでしつこくすれば、ストーカーに成り下がる。
 絶対に彼女の味方で〝いい男〟ポジションを死守したかった俺は、涙を呑んで誘うのを控えた。
 それで〝無害な後輩〟ポジを守れるなら、お安いご用だ。

 彼女が浜崎さんや佐藤さんを中心とする一部の人からヒソヒソ言われているのは、端から見ていてすぐに分かった。

 大人になってまで、何やってんだよくだらねぇ。

 そう思うものの、この会社では俺は無力な新入社員だ。

 モノを言うには仕事で結果を出して、発言力をつけなければいけない。
 そのためにトップの折原さんに学び、ガンガン働いている真っ最中だった。

 常に彼女の良き後輩であり、徐々に後輩以上に思われるようになりたい。
 恋人まで見られなくても、信頼されるバディくらいにはなりたい。

 自分の求めるものがハッキリしていたからこそ、彼女を敵視する存在が鬱陶しくて堪らなかった。

 だからこそ、彼女の立場になって考えてみて分かる事がある。

 同僚と付き合って痛い目に遭ったから、男を避けているのかな? とか。
 俺は一応部署内で女性社員にキャーキャー言われている部類ではあるから、敵を作らないために避けているのかな? とか。

 色んな事を察するからこそ、俺は積極的に彼女に近づくのを一旦諦めた。

 今は彼女に憧れてE&Eフーズに入社したものの、〝いつか〟は久賀城ホールディングスに戻る事になるかもしれない。

 その時が来たら改めて告白しよう。

 それまでに、折原さんに恋人ができないよう祈るしかないけれど……。と、消極的な事を考えていた。

 その矢先だったので、彼女に声を掛けられて浮かれる自分がいた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...