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番外編 2 タワマン事件簿
妻の写真を撮りませんでしたか?
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優美に憎しみの混じったねちっこい嫉妬を向けるのは、どちらかというと女性なのではと思う。
そう考えたほうがしっくりくるからだ。
浜崎みたいな例はあったが、男が粘着化するのは、自分のプライドを傷つけられた時ではと思っている。
分かりやすいのが、愛情を向けていた相手に裏切られた場合や、見下していた相手に刃向かわれた時など。
または昨今煽り運転のニュースが多いが、自分の邪魔をされてささやかなプライドを刺激された場合など。
そういう意味で、優美が男性の神経を逆撫でするような機会はなかったと思うので、可能性は低いと思っている。
だからどちらかというと、彼には写真の穴の件よりも、優美の写真を撮ったか撮らないかを確認したかった。
――人の妻をやらしい目で見やがって。
勿論、夫として当然の怒りが沸き起こるが、事実確認ができるまで抑えておく。
「突然、失礼な事を聞くのは承知の上ですが……。妻の写真を撮りませんでしたか?」
尋ねて、彼の一挙手一投足も見逃さないと凝視する。
三笠さんは表情を変えなかったが、一瞬目が泳いだ。
パーティーでは自信に溢れ堂々としていて、常に人の目を見て話す人だと認識していた。
日本人はどちらかというと、人の目を見続けて話すのが苦手な人が多い。
それを逆手にとって、女性を見つめ続けて焦らせ、照れさせる目的じゃあ……と、端から見ていて思った。
偏見もあるかもしれないが、そうやって自分のスペックを把握した上で女性を試して喜んでいる人は、自分より〝上〟の男に弱い。
自慢している訳ではないが、俺は総合的に彼よりも様々なものが〝上〟だと認識している。
先日のパーティーでも、彼は成宮さんと一緒に優美に話しかけながら、チラチラ俺と正樹を窺っていた。
会場で俺と正樹を見て対抗心を持ったあと、美しく若い妻である優美に近づき、俺たちを焦らせようとしたんだろう。
あの時特に焦って間に入っていたら、彼の思う壷になっていただろう。
俺たち二人は、ちょっとの揺さぶりで動揺する男だと認識されていた。
目的が果たせず三笠さんは悔しい思いをしたかもしれないが、逆に〝次〟があると思わせてしまったかもしれない。
『この女は俺のもの』と釘を刺さなかった俺たちにも責はある。
……というか、普通言わなくても既婚者ならへたな事は考えないんだけどな。
とにかくそういう流れから、三笠さんには俺と正樹に張り合うオーラを感じていた。
今だって懸命に俺と目を合わせ、胸を張って少しでも身長を高く見せようとしている。バレバレだ。
「何の事でしょうか? 身に覚えは……」
言いながら、彼の右手がピクッと後方に動いた。
ズボンの右ポケットにはスマホが入っている膨らみがある。
恐らく無意識にそれを庇おうとしたんだろう。
「ある人から聞きました。あなたが共有スペースで妻にスマホを向けていたと」
俺はスッと表情を消し、真顔で三笠さんを見つめる。
一歩踏み出すと、彼が一歩退いた。
彼はかろうじて微笑んでいるものの、頬や口元が引きつっている。
……クロだな。
「――――ふざけんなよ」
今まで溜まりに溜まっていた怒りを、低く押し殺した声に変換させ、彼の耳元で囁く。
「優美が気づいていなかったっていう事は、隠れてやってたんだろ。人の女を盗撮していいと思ってんのか?」
額に青筋を浮かべて怒りを表すと、彼はとうとう俺から目を逸らして俯いた。
「すっ、…………みません…………。たっ、……確かに彼女をいいなとは思っていましたが、頼まれたんです」
……は?
「頼まれた? 誰に?」
三笠さんの後ろにいる人物を想像しようとするが、誰を当てはめようとしてもしっくりこない。
登場人物の顔は浮かび上がるが、「こいつだ」と決めるには証拠が少なすぎる。
「……それは、言えません」
「あなたが妻を盗撮していたと、あなたの会社の取引先にでも言いましょうか?」
「やっ、やめてください!」
三笠さんの企業や業務内容はパーティーの時に教えてもらったが、会話のなかで出てきた取引先相手は、久賀城ホールディングスが懇意にしている企業だ。
その気になれば個人的に〝話〟をするぐらいできる。
本気で脅したが、三笠さんは日焼けした顔を青ざめさせてもなお、口を開こうとしない。
そう考えたほうがしっくりくるからだ。
浜崎みたいな例はあったが、男が粘着化するのは、自分のプライドを傷つけられた時ではと思っている。
分かりやすいのが、愛情を向けていた相手に裏切られた場合や、見下していた相手に刃向かわれた時など。
または昨今煽り運転のニュースが多いが、自分の邪魔をされてささやかなプライドを刺激された場合など。
そういう意味で、優美が男性の神経を逆撫でするような機会はなかったと思うので、可能性は低いと思っている。
だからどちらかというと、彼には写真の穴の件よりも、優美の写真を撮ったか撮らないかを確認したかった。
――人の妻をやらしい目で見やがって。
勿論、夫として当然の怒りが沸き起こるが、事実確認ができるまで抑えておく。
「突然、失礼な事を聞くのは承知の上ですが……。妻の写真を撮りませんでしたか?」
尋ねて、彼の一挙手一投足も見逃さないと凝視する。
三笠さんは表情を変えなかったが、一瞬目が泳いだ。
パーティーでは自信に溢れ堂々としていて、常に人の目を見て話す人だと認識していた。
日本人はどちらかというと、人の目を見続けて話すのが苦手な人が多い。
それを逆手にとって、女性を見つめ続けて焦らせ、照れさせる目的じゃあ……と、端から見ていて思った。
偏見もあるかもしれないが、そうやって自分のスペックを把握した上で女性を試して喜んでいる人は、自分より〝上〟の男に弱い。
自慢している訳ではないが、俺は総合的に彼よりも様々なものが〝上〟だと認識している。
先日のパーティーでも、彼は成宮さんと一緒に優美に話しかけながら、チラチラ俺と正樹を窺っていた。
会場で俺と正樹を見て対抗心を持ったあと、美しく若い妻である優美に近づき、俺たちを焦らせようとしたんだろう。
あの時特に焦って間に入っていたら、彼の思う壷になっていただろう。
俺たち二人は、ちょっとの揺さぶりで動揺する男だと認識されていた。
目的が果たせず三笠さんは悔しい思いをしたかもしれないが、逆に〝次〟があると思わせてしまったかもしれない。
『この女は俺のもの』と釘を刺さなかった俺たちにも責はある。
……というか、普通言わなくても既婚者ならへたな事は考えないんだけどな。
とにかくそういう流れから、三笠さんには俺と正樹に張り合うオーラを感じていた。
今だって懸命に俺と目を合わせ、胸を張って少しでも身長を高く見せようとしている。バレバレだ。
「何の事でしょうか? 身に覚えは……」
言いながら、彼の右手がピクッと後方に動いた。
ズボンの右ポケットにはスマホが入っている膨らみがある。
恐らく無意識にそれを庇おうとしたんだろう。
「ある人から聞きました。あなたが共有スペースで妻にスマホを向けていたと」
俺はスッと表情を消し、真顔で三笠さんを見つめる。
一歩踏み出すと、彼が一歩退いた。
彼はかろうじて微笑んでいるものの、頬や口元が引きつっている。
……クロだな。
「――――ふざけんなよ」
今まで溜まりに溜まっていた怒りを、低く押し殺した声に変換させ、彼の耳元で囁く。
「優美が気づいていなかったっていう事は、隠れてやってたんだろ。人の女を盗撮していいと思ってんのか?」
額に青筋を浮かべて怒りを表すと、彼はとうとう俺から目を逸らして俯いた。
「すっ、…………みません…………。たっ、……確かに彼女をいいなとは思っていましたが、頼まれたんです」
……は?
「頼まれた? 誰に?」
三笠さんの後ろにいる人物を想像しようとするが、誰を当てはめようとしてもしっくりこない。
登場人物の顔は浮かび上がるが、「こいつだ」と決めるには証拠が少なすぎる。
「……それは、言えません」
「あなたが妻を盗撮していたと、あなたの会社の取引先にでも言いましょうか?」
「やっ、やめてください!」
三笠さんの企業や業務内容はパーティーの時に教えてもらったが、会話のなかで出てきた取引先相手は、久賀城ホールディングスが懇意にしている企業だ。
その気になれば個人的に〝話〟をするぐらいできる。
本気で脅したが、三笠さんは日焼けした顔を青ざめさせてもなお、口を開こうとしない。
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