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番外編 2 タワマン事件簿

成宮夫妻の反応

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「あー、慎也さん、こんばんは」

 遅れて後ろから清花さんも出てきて、笑顔になる。

 ……本当に二人ともごく普通の対応だ。

 俺は急に自信がなくなって、表情を曇らせる。

「慎也さん?」

 圭さんに言われ、それでも……と思って切りだした。

「エレベーター前のゴミ箱に捨てた物を覚えていますか?」

「え?」

 俺の質問に、二人とも目を丸くした。

 同時に、「こいつゴミ箱に捨てた物をあさったのか? やべーな」という表情になる。

 ……これはシロと思っていいんだろうか。

「すみません、見てほしい物があるんですが」

 そう言って、俺は例の写真の一枚をポケットから出した。

「……っなにこれ……っ!」

 清花さんが押し殺した悲鳴を上げる。
 圭さんも表情を強張らせて、忌まわしいものでも見るかのような目で写真を見た。

 間違いない。二人はシロだ。

 これが演技だったなら、見破れなかった俺に非がある。

 二人がドン引きした表情で優美の写真を見たのを確認して、俺は要件を話す。

「この写真は、全部で十枚あります。いずれも優美が隠し撮りされた写真で、すべてに同じような穴が空いています」

 二人の表情の僅かな揺れも見逃さないように、しっかり目を見て伝える。

「この写真は、三十一階のエレベーター前のゴミ箱で発見されました。このフロアには他の人も住んでいますが、優美と接点があるのは成宮さんだけです。失礼を承知の上で、確認のために聞きに来ました」

 俺が夜でも構わず訪れた理由を知り、二人は青ざめた表情ながら納得したようだ。

「……ちょっと、話が話だから、玄関に入ってください」

 圭さんが言い、俺は「失礼します」と玄関に入る。
 綺麗に整頓された玄関で、圭さんは溜め息をつく。

「僕たちは何も知りません」

 そう言って圭さんは清花さんを見、彼女も頷く。

「私たち、優美さんとは先日のパーティーが初対面です。夫がダイエットの秘訣を質問していましたが、彼女は快く話してくれました。パーティーが終わったあとも、私たちは『素敵な女性だね』と言っていました。確かに優美さんは素敵な女性で、嫉妬を買いやすいのかもしれませんが、私たちが彼女を悪く思う理由がありません」

 清花さんにもキッパリ言われ、俺は頷いた。

「……分かりました。信じます。不快な思いをさせて申し訳ございません」

 頭を下げると、二人もとりあえず頷く。

「発見された時の事を伝聞でお話していましたが、誰か別の人が写真を発見したんですか?」

 圭さんに尋ねられ、俺は頷く。

「はい。……ですが、その方のためにも名前は伏せておきます」

 写真を発見したのが杉川さんでなくても、同じ対応をしていた。

 疑いが晴れたとはいえ、成宮さんたちはいい気分がしなかっただろう。
 その原因がどこからきたのか考え、そもそもの発端は……と杉川さんから想像して、彼女に疑いがかかるのはまた話が違う。

 俺が写真を譲ってほしいと言った時も、彼女は「私に迷惑を掛けないのなら」という条件をつけた。

 恐らく、現時点で警察に行ってもどうにもならないだろう。

 俺と同じように写真が発見された三十一階の住人と、スマホを向けていた三笠さんに聞き込みをする。
 だが成宮さんは知らないと主張するし、三笠さんだって「撮っていない。たまたまだ」と言うに決まっている。

 そして、俺たちにその結果を伝えて終わり。

 誰かにストーカーされている前提でなら、その人物を警戒して見回りなりしてくれるだろうが、現状その域にまで達していない。

 盗撮されたと言っても、下着姿や裸を撮られた訳でもない。
 トレーニングウェアは微妙なところだが、共同スペースで彼女が着ていた服なので、羞恥を煽るものと定義しづらい。

 撮った人物が分かったとしても、今の状況なら注意で終わる気がする。

 盗撮で罪に問われるのは、女性のスカートの中を写したとか、トイレや更衣室にカメラを設置したとか、明らかな犯罪行為の場合だ。

 写真をズタズタにされた上で、優美を脅すメッセージがあったら犯罪予告の類いに入り、業務妨害罪となる可能性もある。

 だがそのメッセージはなく、ただ(というのもムカつくが)写真が傷つけられただけ。

〝何か〟が起こらないほうがいいに決まっているが、決定打がなくてとてもモヤモヤして気持ち悪い。
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