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番外編 2 タワマン事件簿
母の言葉
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『相手が大切だから心配するの。正樹とは兄弟で大人の男性同士だから、〝なるようになる。困ったら助けを求める〟という考えでいいのかもしれないわ。でも優美さんは妻とはいえ他人で女性。としちゃんを抱っこして、家を守ってあなた達二人の応援をして、常に周囲に気を配っているわ』
優美が抱えているものが沢山あると分かっていても、第三者に指摘されて改めてその大変さ、気苦労を思い知らされる。
『女は敏感なの。夫のちょっとした変化にすぐ勘づくわ。〝話してくれる〟と信じているからこそ、何も言わない。自分は妻で特別な女性だという自負があるし、そうでありたいと信じているから』
言われて、凜と咲き誇った白く清らかな花が、風に吹かれて頼りなく震えている姿を脳裏に思い浮かべた。
いつも美しく強く咲いているから、〝大丈夫〟なのだと思ってしまっていた。
優美と出会ってからずっと、彼女は強くなんてない。弱いところのある普通の女性だと誰より分かっていたはずなのに……、何やってたんだ。俺は。
『……くそ……』
あまりに情けなくて、俺は頭を抱えて溜め息をつく。
『周りが見えなくなっていたみたいね。正樹が悩んでいた時もそうだったけど、あなたはどちらかというと一人で行動しちゃう性格だから』
さすが母親、というべきだろうか。
『お兄ちゃん、優美さんを困らせないでね。私、優美さんが大好きなんだから。離婚したら困っちゃう』
『しないよ』
離婚と言われて、俺はじっとりと未望を睨む。
そんな俺を見て微笑んだ母さんは、ティーカップを品良く持って微笑んだ。
『何が起こったかは聞かないわ。でも、困った時こそ立ち止まって、一回深呼吸してみて。何が一番大切なのか確認して、優先順位をつけて行動していく事』
『……分かった。ありがとう』
幾分肩の力が抜けたあと、焦っても仕方がないと待つ事ができた。
そんな俺に気を遣ったのか、母さんは正樹と優美が夕食まで帰ってこなさそうだと分かると、『ハンバーグ食べに行きましょうか』と提案した。
ハンバーグは子供の頃の好物で、なんだかな、と笑ってしまった。
戻ってシッターさんが先に帰り、やや遅れて母さんと未望もうちをあとにする。
『困った時は正樹にも優美さんにも相談なさい。家族なんだから』
『分かった』
頷いたあと、俊希を寝かしつけつつ、ゆったりとした音楽をかけて思考を整理した。
俺がこんなに動揺したのは、大切な優美に何者かの悪意が向いたからだ。
その前に、杉川さんに誘われて、優美が怒るかもしれないと思って隠してしまったのは、完全に俺が悪い。
おまえけに優美は勘づいていながら、俺が話すのを待って黙っている。
これはあとで、土下座して謝らないと。
知らせたら不安がらせるとか、怒らせるとか、それは俺の視点だ。
優美はコソコソされていて気分が良くなかっただろう。
逆を考えても同じで、優美が俺を思って一人で行動していたとして、「言ってくれよ」と思う。
……何やってたんだ、俺。
息をついた時、スマホがピコンと鳴った。
一度成宮さんと三笠さんの家に突撃したあと、我に返って連絡先を交換したのを思いだし、連絡を入れておいた。
『お話があるので、ご帰宅時間が分かりましたら教えてください』とメッセージを打っておいたが、成宮さんから『二十時すぎになります』とあった。
三笠さんからはまだだが、一組の帰宅時間がハッキリした。
それで、俺はなるべく焦らず、俊希の体温を感じたままぼんやりして過ごした。
――で、優美と正樹が戻ってきた訳なんだが。
丁度、二人が戻ってきたのは二十時頃だった。
気持ちを落ち着かせていたとはいえ、成宮さんにきちんと話を聞きたい。
正樹に事情をざっくり聞かせたあと、優美に「ごめん!」と内心謝って三十一階に急いだ。
当事者である優美には、誤解のないよう一から十までしっかり話したい。
あとから時間を取りたいのと、先に情報を仕入れてから三人で話し合いたいと思い、行動を起こしたのだった。
**
少し緊張してチャイムを押すと、ほどなくして成宮さんの旦那さんが顔を出した。
「どうかされましたか?」
成宮さん――圭さんはごく自然な表情だ。
先日知り合ったばかりの俺が夜に訪れたのをいぶかしんでいる様子はあるが、何かを隠しているとか、久賀城家に後ろ暗い感情を抱いているようには見えない。
優美が抱えているものが沢山あると分かっていても、第三者に指摘されて改めてその大変さ、気苦労を思い知らされる。
『女は敏感なの。夫のちょっとした変化にすぐ勘づくわ。〝話してくれる〟と信じているからこそ、何も言わない。自分は妻で特別な女性だという自負があるし、そうでありたいと信じているから』
言われて、凜と咲き誇った白く清らかな花が、風に吹かれて頼りなく震えている姿を脳裏に思い浮かべた。
いつも美しく強く咲いているから、〝大丈夫〟なのだと思ってしまっていた。
優美と出会ってからずっと、彼女は強くなんてない。弱いところのある普通の女性だと誰より分かっていたはずなのに……、何やってたんだ。俺は。
『……くそ……』
あまりに情けなくて、俺は頭を抱えて溜め息をつく。
『周りが見えなくなっていたみたいね。正樹が悩んでいた時もそうだったけど、あなたはどちらかというと一人で行動しちゃう性格だから』
さすが母親、というべきだろうか。
『お兄ちゃん、優美さんを困らせないでね。私、優美さんが大好きなんだから。離婚したら困っちゃう』
『しないよ』
離婚と言われて、俺はじっとりと未望を睨む。
そんな俺を見て微笑んだ母さんは、ティーカップを品良く持って微笑んだ。
『何が起こったかは聞かないわ。でも、困った時こそ立ち止まって、一回深呼吸してみて。何が一番大切なのか確認して、優先順位をつけて行動していく事』
『……分かった。ありがとう』
幾分肩の力が抜けたあと、焦っても仕方がないと待つ事ができた。
そんな俺に気を遣ったのか、母さんは正樹と優美が夕食まで帰ってこなさそうだと分かると、『ハンバーグ食べに行きましょうか』と提案した。
ハンバーグは子供の頃の好物で、なんだかな、と笑ってしまった。
戻ってシッターさんが先に帰り、やや遅れて母さんと未望もうちをあとにする。
『困った時は正樹にも優美さんにも相談なさい。家族なんだから』
『分かった』
頷いたあと、俊希を寝かしつけつつ、ゆったりとした音楽をかけて思考を整理した。
俺がこんなに動揺したのは、大切な優美に何者かの悪意が向いたからだ。
その前に、杉川さんに誘われて、優美が怒るかもしれないと思って隠してしまったのは、完全に俺が悪い。
おまえけに優美は勘づいていながら、俺が話すのを待って黙っている。
これはあとで、土下座して謝らないと。
知らせたら不安がらせるとか、怒らせるとか、それは俺の視点だ。
優美はコソコソされていて気分が良くなかっただろう。
逆を考えても同じで、優美が俺を思って一人で行動していたとして、「言ってくれよ」と思う。
……何やってたんだ、俺。
息をついた時、スマホがピコンと鳴った。
一度成宮さんと三笠さんの家に突撃したあと、我に返って連絡先を交換したのを思いだし、連絡を入れておいた。
『お話があるので、ご帰宅時間が分かりましたら教えてください』とメッセージを打っておいたが、成宮さんから『二十時すぎになります』とあった。
三笠さんからはまだだが、一組の帰宅時間がハッキリした。
それで、俺はなるべく焦らず、俊希の体温を感じたままぼんやりして過ごした。
――で、優美と正樹が戻ってきた訳なんだが。
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気持ちを落ち着かせていたとはいえ、成宮さんにきちんと話を聞きたい。
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**
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「どうかされましたか?」
成宮さん――圭さんはごく自然な表情だ。
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