上 下
454 / 539
番外編 2 タワマン事件簿

一緒に問題を抱えさせてほしい

しおりを挟む
 いまだ慎也とポンポン会話する気持ちになれていない私は、曖昧に微笑んで一度下ろした荷物をまた持つ。

「そうだ、慎也」

 正樹が意地悪に笑い、ポケットからプリを出す。

「これあげる。お土産」

 手渡されたそれが、滅多に撮らないプリクラだと知ると、慎也はすんごい顔をした。

「な……っ、これ……っ」

 慎也は目を剥き、パクパクと口を喘がせて私と正樹を見比べる。
 そんな彼を前に、正樹は私の肩を抱いてベーッと舌を出した。

「僕たちズッ友なの」

 どこまで私の気持ちを汲んだ〝仕返し〟で、どこまで自分がやりたい意地悪なのか分からない。
 けれど、相変わらずの正樹になんだか気持ちが救われた。

「正樹」

「ん?」

 私たちがリビングを一度あとにする前、慎也が正樹を呼ぶ。

「……ちょっと」

「分かった」

 美香さんとのクルージングデートの結末を、きっと正樹に報告するんだろう。

 慎也の事を信じてる。

 けど、どうして私には言ってくれないのかなという不満もある。

 私はそんなに頼りないんだろうか。

 育児で疲れていると思って、気を遣っているのは分かる。
 確かに妊娠中や出産直後はメンタルがグダグダだったけど、最近は落ち着いている。

 心配してくれるのはありがたいけど、夫婦なんだから言ってほしいな。

 慎也は美香さんと会った当事者だから、正樹に相談してワンクッション置きたいのかもしれない。

 分かるんだけど……。

(……やめよ)

 自室で部屋着に着替えた私は、洗面所に向かってメイクを落とす。
 しっかり丁寧に化粧を落として、保湿したあと、睫毛美容液を塗っておく。

「ふー……」

 スキンケアも含めお手入れは好きだけれど、今ばかりは気持ちが重たい。

 鏡に映る自分を見て、どことなく不安になってしまった。

 今日は出かけるのにメイクしていたけど、普段家の中では日焼け止めしか塗ってない。
 すっぴんのルームウェア姿で、俊希と一緒に汗だくになって遊ぶし、お昼寝の時はいびきをかいてるのかもしれない。

 結婚は、恋人同士のキラキラした面だけじゃなくて、生活面も含めて愛し、受け入れ、許容しあう事だと思っている。

 ……でも、幻滅されちゃったのかな。

 慎也は〝カッコイイ折原さん〟に憧れてくれていた。
 理想の女性と一緒に暮らすようになって、「想像していたのと違った」って思っているんだろうか。

 美香さん、綺麗だもんな。

 五十二歳になっても、あの美貌とプロポーションをキープしているのは凄い。
 私、産後増量しちゃったしなぁ……。

 考えれば考えるほど、気持ちが重たくなる。

 鏡に映った顔をよく見て、目の下のクマやそばかす、シミがないか神経質にチェックする。

(……そうじゃないでしょ)

 こんな事を気にしても、どうにもならないのは分かってる。
 改善しないといけないのは、悶々と悩むより先に話し合えない環境のほうだ。

 内面にせよ外見にせよ、慎也が私に改善してほしいと思うところがあるなら、言ってもらいたい。

 美香さんとクルージングに行った事を私は知ってるし、隠されるのはいい気分がしない。
 何か理由があるなら、それごとまるっと言ってほしい。

 私を妻として信頼して、一緒に問題を抱えさせてほしい。

「んっ」

 右手で自分の頬をパンッと叩き、私は強い目で鏡の中の自分を睨む。

「悩むより行動!」

 言い聞かせたあと、私はリビングに向かった。





「……あれ?」

 せっかく決意したのに、リビングに行くと慎也の姿はなかった。

 正樹が……、ベビーベッドの前でがに股になって、ダブルピースしてミョンミョン動いてるんだけど、なにやってんの……。起こさないでよ。

「慎也は?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R-18・短編】部長と私の秘め事

臣桜
恋愛
彼氏にフラれた上村朱里は、酔い潰れていた所を上司の速見尊に拾われ、家まで送られる。タクシーの中で元彼との気が進まないセックスの話などをしていると、部長が自分としてみるか?と言い……。 かなり前に企画で書いたものです。急いで一日ぐらいで書いたので、本当はもっと続きそうなのですがぶつ切りされています。いつか続きを連載版で書きたいですが……、いつになるやら。 ムーンライトノベルズ様にも転載しています。 表紙はニジジャーニーで生成しました

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。

恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。 飼主さんが大好きです。 グロ表現、 性的表現もあります。 行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。 基本的に苦痛系のみですが 飼主さんとペットの関係は甘々です。 マゾ目線Only。 フィクションです。 ※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...