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番外編 2 タワマン事件簿
思ったより早かったね
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集中して書くとそれなりに整った字は書けるけど、書き流しているとかなり汚い字になる。
文香さんは綺麗だけど小さめで、ちょっと斜めってる字。
和人くんは可もなく不可もなくな字……。字まで主張がない……。
そんなこんなで三回もプリを撮って満足した私たちは、渋谷駅近くにある個室焼き肉店でしっかりエネルギー補充した。
リクライニングするシートでプラネタリウムを楽しんで、カロリー消費がてらプラプラする。
夜はお洒落なイタリアンレストランで、にんにくを気にせず思いっきり楽しんだ。
どうせ慎也は美香さんと夕焼けでも見てるんだろうし、夜までデートを楽しんだ。
**
「…………あれ?」
ディナーを終えてご機嫌になって帰ると、リビングのソファに慎也が一人で座っている。
室内にはバッハの無伴奏チェロが流れていて、照明も抑え気味だ。
俊希は……と思って一階のベッドを覗くと、スヤスヤと眠っていた。
「慎也、思ったより早かったね。もっと遅くなると思ってた」
正樹がお土産のケーキを冷蔵庫に入れ、慎也に話しかける。
「…………二人でどこ行ってた訳? 帰ったら誰もいなかったんだけど」
「え? 俊希とシッターさんはいたでしょ?」
思わず問いかけた私に、慎也は溜め息をつく。
「母さんが来たらしくて、シッターさんと一緒に俊希を連れて外出してたんだよ」
「あはは! 玲奈さん、連れ去りじゃん」
正樹が物騒な単語を口にして笑う。
今までも玲奈さんや未望ちゃんが訪れては、子育てで疲れている私に甘い物を買ってきてくれたり、「私たちが見ているから昼寝していらっしゃい」と甘やかしてくれた。
その一環で、ちょっとお散歩に連れて行くとかもあったので、今回も同じ感じだったのだろう。
うちのお母さんやお祖母ちゃんも、ちょくちょく遊びに来ては俊希の面倒を見てくれている。
お祖母ちゃんは私の好物を作って保存容器に入れて持ってきてくれるし、ホント、母たちの助けはありがたい。
たまに、母親が目を離している隙に……という、小さい子供のニュースがあると、「母親は何をやっていたんだ!」とバッシングする人が一部いる。
けど、実際子育てするようになって実感した。
家政婦さんやシッターさんがいるから、私はまだ楽なほうだと思っている。
でも家事をしながら、いつ何をするか分からない子供も見て……ってやってる世のお母さんたちは、寝不足も相まって一杯一杯だ。
仮に、夫が協力してくれないワンオペ育児状態なら、本当に大変だろう。
私もつい「自分でやらないと。母親の責任があるし」と追い込んでしまうけれど、周囲から「もっと肩の力を抜いていいよ」と言ってもらえている。
玲奈さんは「昔は子供専用のメイドもいたし、乳母だっていたでしょう? 人の手を借りる事を悪みたいに思わなくていいのよ」と言ってくれた。
その優しい言葉で、フワッと気持ちが楽になった。
だから、彼女やお母さんたちが手伝ってくれるという時は、信頼して任せる事にしている。
それを慎也も正樹も分かっていて、私たちは〝連れ去り〟なんて思っていない。
いつもの正樹のブラックジョークだ。
「……帰ったら家がガラーンとしてて、誰を呼んでもいない悲しさって分かるか? っていうか、俊希もいないからめっちゃ変な汗掻いたし」
「私たちはちゃんと玲奈さんからメッセージもらってたけど。慎也はスマホ確認する暇なかったの?」
かわいげのない私は、チクリと彼を攻撃してしまう。
「いや、我に返ってスマホを確認したら、母さんから連絡があって安心したけど……」
「慎也、何時に帰ってきたの?」
正樹に尋ねられ、慎也はむくれて溜め息をつく。
「十四時すぎくらいには帰ったよ。で、母さんたちは夕方前に戻って来て、優美と正樹はまだ戻らなさそうだから、未望とシッターさんと皆でハンバーグ食いに行った」
「ハンバーグいいじゃん」
正樹が言い、慎也はじっとりと私たちを睨む。
「で? 正樹は優美と何を食った訳?」
気にする弟を見て、正樹は意地悪にニンマリと笑った。
「ナイショー」
サムズアップして、めっちゃいい顔で笑う正樹を見て、慎也は目の下をヒクつかせる。
「さ、優美ちゃん。手を洗って着替えようか」
「……うん」
文香さんは綺麗だけど小さめで、ちょっと斜めってる字。
和人くんは可もなく不可もなくな字……。字まで主張がない……。
そんなこんなで三回もプリを撮って満足した私たちは、渋谷駅近くにある個室焼き肉店でしっかりエネルギー補充した。
リクライニングするシートでプラネタリウムを楽しんで、カロリー消費がてらプラプラする。
夜はお洒落なイタリアンレストランで、にんにくを気にせず思いっきり楽しんだ。
どうせ慎也は美香さんと夕焼けでも見てるんだろうし、夜までデートを楽しんだ。
**
「…………あれ?」
ディナーを終えてご機嫌になって帰ると、リビングのソファに慎也が一人で座っている。
室内にはバッハの無伴奏チェロが流れていて、照明も抑え気味だ。
俊希は……と思って一階のベッドを覗くと、スヤスヤと眠っていた。
「慎也、思ったより早かったね。もっと遅くなると思ってた」
正樹がお土産のケーキを冷蔵庫に入れ、慎也に話しかける。
「…………二人でどこ行ってた訳? 帰ったら誰もいなかったんだけど」
「え? 俊希とシッターさんはいたでしょ?」
思わず問いかけた私に、慎也は溜め息をつく。
「母さんが来たらしくて、シッターさんと一緒に俊希を連れて外出してたんだよ」
「あはは! 玲奈さん、連れ去りじゃん」
正樹が物騒な単語を口にして笑う。
今までも玲奈さんや未望ちゃんが訪れては、子育てで疲れている私に甘い物を買ってきてくれたり、「私たちが見ているから昼寝していらっしゃい」と甘やかしてくれた。
その一環で、ちょっとお散歩に連れて行くとかもあったので、今回も同じ感じだったのだろう。
うちのお母さんやお祖母ちゃんも、ちょくちょく遊びに来ては俊希の面倒を見てくれている。
お祖母ちゃんは私の好物を作って保存容器に入れて持ってきてくれるし、ホント、母たちの助けはありがたい。
たまに、母親が目を離している隙に……という、小さい子供のニュースがあると、「母親は何をやっていたんだ!」とバッシングする人が一部いる。
けど、実際子育てするようになって実感した。
家政婦さんやシッターさんがいるから、私はまだ楽なほうだと思っている。
でも家事をしながら、いつ何をするか分からない子供も見て……ってやってる世のお母さんたちは、寝不足も相まって一杯一杯だ。
仮に、夫が協力してくれないワンオペ育児状態なら、本当に大変だろう。
私もつい「自分でやらないと。母親の責任があるし」と追い込んでしまうけれど、周囲から「もっと肩の力を抜いていいよ」と言ってもらえている。
玲奈さんは「昔は子供専用のメイドもいたし、乳母だっていたでしょう? 人の手を借りる事を悪みたいに思わなくていいのよ」と言ってくれた。
その優しい言葉で、フワッと気持ちが楽になった。
だから、彼女やお母さんたちが手伝ってくれるという時は、信頼して任せる事にしている。
それを慎也も正樹も分かっていて、私たちは〝連れ去り〟なんて思っていない。
いつもの正樹のブラックジョークだ。
「……帰ったら家がガラーンとしてて、誰を呼んでもいない悲しさって分かるか? っていうか、俊希もいないからめっちゃ変な汗掻いたし」
「私たちはちゃんと玲奈さんからメッセージもらってたけど。慎也はスマホ確認する暇なかったの?」
かわいげのない私は、チクリと彼を攻撃してしまう。
「いや、我に返ってスマホを確認したら、母さんから連絡があって安心したけど……」
「慎也、何時に帰ってきたの?」
正樹に尋ねられ、慎也はむくれて溜め息をつく。
「十四時すぎくらいには帰ったよ。で、母さんたちは夕方前に戻って来て、優美と正樹はまだ戻らなさそうだから、未望とシッターさんと皆でハンバーグ食いに行った」
「ハンバーグいいじゃん」
正樹が言い、慎也はじっとりと私たちを睨む。
「で? 正樹は優美と何を食った訳?」
気にする弟を見て、正樹は意地悪にニンマリと笑った。
「ナイショー」
サムズアップして、めっちゃいい顔で笑う正樹を見て、慎也は目の下をヒクつかせる。
「さ、優美ちゃん。手を洗って着替えようか」
「……うん」
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